82話 新たな戦い
メルキオール学園で授業を受けていると、突然周囲が騒がしくなった。
念のために心奏具を展開し、様子を見る。すると、学園が何者かに襲われていると分かった。
だったら、今の俺にできることは襲撃者を撃退すること。さて、どういう戦術を取るべきか。
「ディヴァリアとシルクはミナとルミリエを守ってくれ。他のみんなは一緒に戦うぞ!」
「否定します! 私もリオン君に着いていきます!」
「だが、どうやって戦うつもりだ?」
「簡単です。心奏具の力を使うだけ。アンガーオブドゥームの力は、守るだけのものじゃない!」
「行ってください、リオン。問答している時間が惜しいですよね? 私が2人を守りますから」
「分かった。みんな、行こう!」
こういう時は、同じクラスにみんながいてよかったと思える。登校していないエギルとキュアンを除けば、知り合いはみんな無事だと分かっているから。
何かあって誰かが傷ついているときに、そばに居られなかったなら。悔やんでも悔やみきれないだろうな。
俺達は今回の敵へ向かっていくのだが、想像以上に敵の数が多い。
今のところ、学生に犠牲者と思われる人間は居ないのが救いではある。
動きを見ている感じでは、かつて学園を襲った有翼連合の足元にも及ばない実力に見える。
だが、問題は数だ。どうやって学生の10倍はいそうな人数を学園に連れてきたんだ。内通者でも居たのか?
いや、原因を考えるのは後で良い。今は犠牲者が出る前に、敵を片付けていかないと。
「サクラ、ノエル、大規模な攻撃は控えてくれ! 味方を巻き込みかねない! 他は俺に合わせてくれ!」
「分かったわ! 状況が悪くなったら、最悪リオン達以外は巻き込むけどね!」
「了解だよ、リオンお兄ちゃん! ちゃんと狙うね!」
サクラとノエルは近距離の敵を相手にしても戦える。だから、安心して離れられる。
不安要素は、ノエルが人を殺して傷つかないかということだが、サクラがいればノエルが困惑してもなんとかなるだろう。
強敵が現れても良いように、あまり離れすぎないようにはするが。
サクラは初級魔法をうまく使って敵を細かく倒している。
俺の初級魔法よりはるかに威力が高くて、嫉妬してしまいそうなほどだ。
とはいえ、味方で居てくれて心強い。複数の魔法を同時に扱えるというアドバンテージを活かして、順調に敵を減らしてくれている。
ノエルは的確に矢を撃って敵の急所をついている。
放った時点でズレていたとしても、うまく曲げることでしっかりと頭や心臓を貫いているんだ。
今のところは、人を殺した感覚に苦しんでもいないし、酔ってもいない。
少し不安もあるが、ありがたいことだ。戦力として数えられる人間は、多いに越したことがないからな。
「フェミル、大丈夫か? きついなら、下がってもいいぞ。今の状況なら、戦力は余っているくらいだからな」
「いえ、大丈夫。本当に無理をしているわけじゃないから、安心して」
表情を見た感じでは、思ったよりは落ち着いている。結局、帝国との戦争で、フェミルは誰も殺していなかった。以前のクーデターでも。
だから、人殺しに戸惑うかという点では、ノエルと同程度には心配だったんだ。
とはいえ、今のフェミルは心奏具の転移をうまく使いつつ、手に持った槍で敵を順調に始末できている。
実力的には俺達の中で1段落ちるフェミルだが、今回は大丈夫そうだな。
心奏具の力を全力で使うところには、少し心配もあるが。俺としては、手札はある程度隠したほうが良いんじゃないかと思える。
他にも、ユリアは剣で敵を切り捨てている。
ホープオブブレイブはよほどのことがなければ防御できない。だから、練度の低い今回の敵はただの的でしかないな。
避けようという考えを持っている人間が、何人居るのか怪しいくらいだ。
単に怪力だと思われているのだろうか。それにしたって、まともに受ける判断はおかしいと思うのだが。
「ユリア、調子いいみたいだな。だが、油断するなよ!」
「もちろんですっ! リオンさんの敵は全部殺すんですからっ!」
相変わらずの過激な発言だ。だが、確かな意志が見える。だから、きっと油断はしないだろう。
後はシルクだが、どうやって敵を倒すつもりなのだろうか。これまでのシルクは、誰かを守ることしかしてこなかった。傷つけていて大丈夫なのだろうか。
いろいろと気になって、シルクの方に目が行ってしまう。
すると、シルクはアンガーオブドゥームの結界を使って、敵を真っ二つにしていた。
結界を敵の体の中心に張り、両側に引き裂いていくという形で。
あまりにもえげつない攻撃だ。これなら、俺も敵対したら危ういと思えるほど。
敵はどこから攻撃が来ているのか分からなくて、戸惑っている。
なるほどな。俺はシルクの心奏具については詳しいが、初見なら、どんな能力か割り出すだけでも大変だろう。
残りの問題は、シルクが人を殺すことの負担に耐えられるかどうかだ。
とても優しいシルクのことだから、人を傷つけることで苦しむのは間違いない。
それでも、シルクの意思を優先して殺させるべきなのだろうか。
戦力としてならば、あるいは俺より強いかもしれない。だとしても、シルクの心が傷ついているのならば。俺は止めたい。
「絶対に無理はするなよ、シルク! これくらいの敵なら、どうにでもできるんだからな!」
言いながら、俺もエンドオブティアーズの剣で敵を殺していく。
剣を伸ばして刺し、今度は切り裂き、いつもと似たような戦術だ。
とはいえ、横に大きく剣を振ると、味方を巻き込みかねない。だから、いつもより殺すペースは遅いな。
「大丈夫です! リオン君がもっと強い敵と戦っても、支えてみせますから!」
声は震えていないから、今のところは大丈夫なのだろう。
とはいえ、フェミルやノエル、シルクの様子は後でしっかり確認しないとな。
戦いの最中はアドレナリンやら何やらでごまかされているだけの可能性はあるのだから。
みんなには、無理に戦ってほしくはない。苦しんでいる姿は見たくない。
だから、できるだけみんなに心配をかけないようにしないと。
ノエルもフェミルも俺のために戦うつもりのようだし、シルクも俺が心配だから戦いを決意した様子。
どれもこれも、俺が弱いからだ。今のままでは、みんなに負担をかけるばかり。
今すぐにでも強くなりたいが、急いだところでつまづくだけだ。しっかり足元を確認しないと。
それからも戦っていると、ソニアさんとシャーナさんがこちらに来た。
ソニアさんは圧倒的なスピードで敵を切り裂いていく。
敵は反応すらできずに切り捨てられている人のほうが多いくらいで、改めてソニアさんの強さを実感できる。
今の速さだと、すでに心奏具を使っているのだろう。緊急事態だし、当たり前か。
シャーナさんは敵の頭上にピッタリと雷を落としていく。
他の魔法も使えるのだろうが、何か意図があって雷だけを使っているのだろう。
思い当たる理由は特にないが、素早く正確な魔法制御は、見ていてとても感心する。
「リオン殿、小生が来たからには安心ですよ。落ち着いて行動してください」
「そうじゃな。今の状況を見て、何か思いつくことはないか?」
2人が来たことで、考え事をする余裕は十分にあった。
なので、シャーナさんの言葉を深く考えていく。
そこで思いついたことは、なぜ今でも敵は全滅していないのかということだった。
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