81話 信頼という快楽
今日はディヴァリアとノエル、フェミルにユリアと孤児院に来ている。
ノエルとフェミルが知り合いの様子を見に来ることが中心で、2人の知り合いであるユリアも来たという感じだ。
ディヴァリアが孤児院に来ることはめずらしくない。俺がいないときにも、ときどき来ているみたいだ。
「リオンさん、聖女様、ノエルにフェミルさん、そして初めましての方ですね。よくいらっしゃいました」
早速エルザさんが出迎えてくれる。とても穏やかな顔で、毎回落ち着くんだよな。
この人の暖かさがあっての孤児院だから、絶対に欠かせない人物だと改めて思う。
「私はユリアですっ。リオンさんの使用人ですっ。ノエルさんとフェミルさんの同僚ですねっ」
「まあ、そうでしたか。ノエルとフェミルさんはうまくやっていますか?」
「仲は良いと思いますよっ。みなさん、リオンさんが大好きですからっ」
「私は2人ほどリオンを好きってわけじゃないけどね。まあ、恩人として大切にはしているわ」
「ノエルはリオンお兄ちゃんと一緒で最高だよ! 後は、ディヴァリアお姉ちゃんとの結婚だけだね!」
ノエルの望み通りに俺達が結婚する日はやってくるのだろうか。
まあ、3人で一緒の時間は楽しいから、一緒にいられる状況が増えるのならば嬉しいが。
それでも、ディヴァリアと俺の結婚生活はうまくイメージできないな。
流石に殺されることはないと思う。思うのだが、万が一ということもあるぞ。
とはいえ、ノエルは大丈夫だと思うが。ディヴァリアは本気でノエルを大切にしているはずだから。
「ふふっ、良い関係性が築けているようで何よりです。フェミルさんは、エリスの様子を見に来たんですよね?」
「そうね。迷惑はかけていないかしら?」
「問題ありませんよ。とても元気で、みんなエリスの明るさに助けられています」
「なら、いいわ。ちゃんとやれているのね。助かるわ」
「もうすぐこちらに来ると思いますよ。会っていかれますよね?」
「もちろん。せっかく来たんだからね」
エリスは大切な家族なんだから、それは気になるよな。実際、フェミルは少しソワソワしている。
いつも大人びた態度を取っている姿とは大違いだ。使用人としては、頼りになる年上という感じなのだが。
いつも世話になっているから、今みたいな機会は多めに作りたいものだ。俺だって、妹みたいな人がいたら心配になるだろう。
妹か。今いる世界の原作を知ったのは、前世の妹がきっかけだったが。
俺が死んでから、どうしているのだろうな。この世界には来ていないと信じたい。
だって、こんな争いにまみれた世界に、平和しか知らない人を連れてきたくないからな。
万が一にも俺の敵になっていたとするならば、後悔では済まないだろう。
まあ、心配のしすぎだろうが。俺以外に転生したらしき人間がいるという情報はない。
それに、シャーナさんが何も伝えないという事はないだろう。きっと俺に目をかけているのも、転生者と知っている面はあるはずなのだから。
考えにふけっていると、エリスがやってきていた。すごい勢いでフェミルの方へと向かっている。
「お姉ちゃん、ひさしぶりー! お兄ちゃんも、ひさしぶりー! 会いたかったよ!」
「久しぶりね、エリス。元気にしてたかしら?」
「うん。お姉ちゃんこそ、元気だった?」
「ええ。リオンのおかげで、毎日が幸せよ」
「よかった。ねえねえお兄ちゃん、エリスも大きくなったらお兄ちゃんのお家でおしごとしたいな!」
エリスならば、期待していいとは思う。フェミルだって、身内だからと不必要に甘やかすとは思わない。
だから、問題ないと言えばないのだが。貴族の使用人というのは、案外大変だからな。どうしたものか。
「今すぐには無理だから、ゆっくりと考えてくれ。大きくなっても俺のところに来たいのならば、歓迎するよ」
「ありがとう! お兄ちゃん、大好き!」
「エリスもノエル達と一緒かぁ。それは楽しみだね」
「私としては、素直に歓迎はできないわね。私はリオンに手出しされてもいいけど、エリスはね」
「リオンさんはそんな人じゃありませんよっ。それに、ディヴァリア様がいるんですからっ」
手出しの話もディヴァリアがいるからという話も、納得できないんだが。
というか、恩があるからと体を差し出せと言う人間にでも見えているのだろうか。
フェミルは大切な使用人だから、無理なことをさせるつもりはないぞ。
「だけど、貴族の使用人ってそういうものじゃないの? 私は別にリオンなら構わないけど」
「使用人に手出しする貴族がいることは否定しません。ですが、リオンの使用人に求められてはいませんよ」
ディヴァリアが答えることでもない気がするが。まあ、父さん母さんとディヴァリアは親しいし、話を聞いていてもおかしくはないか。
それにしても、確かに貴族の使用人には妾がわりの扱いを受ける相手もいるよな。
なら、フェミルに対する配慮が足りなかったか。無用な心配をかけてしまった。
「フェミル達に手出しはしないよ。大切な相手だからこそ、大事に扱わないとな」
「リオンお兄ちゃんはそうだよね。ちょっと寂しいかもだけど」
「寂しいのは確かですけど、わたしは今の関係に満足していますよっ」
「ありがとう、リオン。なら、安心してエリスを任せられるわね」
「リオンさんなら、初めからここの誰でも任せられましたよ。信頼するには十分です。聖女様とこの孤児院を作ったときから、ずっと見てきたんですから」
みんなとの関係は、これからも長く続くだろうから、しっかり大切にしないとな。
エルザさんに信頼されることは嬉しいが、裏切ってしまうことのないように。
俺に孤児院の人間を預けても良いと思われているのだから、しっかり期待に応えないとな。
それにしても、ここの子どもたちは元気だな。王都での混乱の影響は受けていないようだ。安心できた。
帝国との戦争の後から、うまく回復できたのだろうか。ディヴァリアが何かしたのかもな。
俺にできることなど、そう多くはない。やはり思い知らされる。
「そういうことだ、エリス。楽しみにしているぞ」
「うん、お兄ちゃん! いっぱいやくにたつから!」
「ああ、期待している」
相当な身内人事だが、そのほうが安心できる気がするな。
エリスは良い子だから、多少ミスしたとしてもうまく挽回してくれるはずだ。
父さんや母さんはどうやって使用人を選定していたのだろうか。
信用できる人を探すというのは、案外難しいと思うんだよな。
「エリスと一緒に暮らせる日、楽しみね。ありがとう、リオン。エリスを受け入れてくれて」
「まだ気が早い。それに、能力が基準を満たせないと、採用はできないだろうな。俺が認めても、父さんや母さんが拒絶しそうだ」
「まあ、当たり前のことよ。私も分かっているわ。気づかいで採用したって、お互いのためにならないものね」
「そういうことだ。俺としては、できれば受け入れたい。とはいえ、今後のエリス次第だ」
「なら、いっぱいがんばる! お姉ちゃんもお兄ちゃんもだいすきだから!」
エリスは
だが、大好きという感情が伝わってくるからこそ、エリスはやってくれると感じる。
分かるんだ。人を大切に思う気持ちが、どれほど力になってくれるかは。
だから、本気で期待している。とはいえ、エリスの重荷にならないように気をつけないとな。
一番大事なのは、エリス自身の幸せなのだから。
「では、私も協力しますね。リオンさんのお役に立てることは、私も嬉しいですから」
本当に、俺は周りの人に恵まれている。みんなの好意に見合うように、もっと俺も頑張っていこう。
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