83話 リオンの仲間たち

 学園を謎の集団に襲撃されてしばらく経った。

 最初に見かけた敵の数なら、もう終わっていてもおかしくはない。

 違和感があったのでよく見ると、当初出会った人より明らかに死体が多かった。

 つまり、別の場所からここに向けて人が送られているということ。

 流石におかしい。学園はそんなに簡単に侵入できる場所じゃない。何かタネがあるはず。

 内通者が居るのはほぼ確定と思っていいだろうが、いったい誰だ。知っている人か?


 そもそも、敵の狙いは何だ。戦力を一気に投入しない理由がわからない。

 少しずつバラバラに皆殺しにされるよりも、一気に攻めかかったほうが良いだろうに。

 何か理由があるのだろうか。そう考えていると、おかしなことに気がついた。

 今の敵たち、建物の方から走ってきていないか? 外から侵入してきたのなら、絶対にありえない動き。

 つまり、建物の中に侵入して、それからこっちに来ているということか?


 そこまで考えて、とあるひらめきが浮かんだ。転移装置だ。

 あれならば、建物の中に侵入することもできる。だが、学園に設置されている転移装置を使用するには、認証が必要なはず。

 だったら、どうやって? いや、わざわざ設置したのならどうだ?

 この学園に通っている生徒、あるいは教師がこっそりと転移装置を配置する。可能性はあるよな。特に、最近は混乱していたし。


 今の仮説が正しいのならば、敵が来ている方向へと向かう必要がある。

 理論上は、際限なく敵を送り込めるからな。受動的だと、対処が難しいだろう。

 どの程度耐えれば良いのかわからないままの防衛戦なんて、俺はゴメンだ。

 転移装置を破壊するにしろ、大本を断つために敵陣に移動するにしろ、まずは装置を見つけなければ。


 それにしても、敵の様子に集中しなかったのは失敗だったな。

 いくら初めて戦うシルクやノエル、フェミルが心配だったからといって、敵への警戒をおこたって良いわけではないだろうに。


「シャーナさん、転移装置はどこにあるか分かりますか?」


「お主の考えで合っておる。ここの生徒は守ってやるゆえ、行くがよい」


「なら、小生もシャーナ殿に付き合いましょう。ご武運を!」


 2人がいるのなら、まずここは大丈夫だろう。なら、俺達は元凶のもとへと向かうか。

 これからの方針は、移動しながら考えるとするか。誰なら敵の本拠地に移動できるだろうか。


「みんな、着いてきてくれ! 大本を断ちに行く!」


「リオンちゃん、案内は任せて。こっちで探っておいたから」


 ルミリエの声が届いた。なるほど。ミナの心奏具でこちらの様子をうかがっていたのか。

 なら、転移先の様子を聞けないだろうか。そうすれば、これからの行動を決めやすい。


「ありがたい。転移先はどうなっているか、分かるか?」


「人が集められているみたいだね。どうにも、ここの生徒を殺せばお金を出すとかどうとか」


 それでメルキオール学園を襲撃するのは、相当な命知らずだぞ。

 心奏具が使える人間がかなりいる学園なんだからな。そうでなくても、この国の上位の才能が集められた学園だぞ。それも、戦闘の。


 まあいい。敵の動きは分かった。まさに今このタイミングはバッチリというほかない。

 帝国との戦争、そしてマリオの起こしたクーデターで世は乱れ、生活が立ちいかなくなった人も多いだろう。

 そんな人々に、一発逆転の機会を見せたわけだ。盗賊に落ちるか、メルキオール学園を攻めるか。

 今考えた2択なら、後者のほうが楽だと考える人間が相当な数いたのだろう。


 敵の事情など考えていても仕方ないか。それよりも、どうやって倒すかだよな。

 いくら何でも、金のために学生を殺そうとする奴らに手加減する気は起きない。

 だから、遠慮なく敵を殺していける。ありがたいことだ。こんな敵ばかりなら、心が楽なのだが。


「サクラ、ノエル、道を作る! 手伝ってくれ!」


「分かったわ! 全部吹き飛ばしてあげればいいのよね!」


「任せて、リオンお兄ちゃん! 全力で行くよ!」


「うん、それで大丈夫。今のみんなの前に、生徒達はいないよ!」


 ルミリエの言葉のおかげで、安心して全力で攻撃できる。

 味方を巻き込む危険性がないだけで、俺達の心奏具は大幅に強くなるな。

 俺はエンドオブティアーズの剣を伸ばして横に切る。それだけで、多くの人が真っ二つになっていく。

 やはり、心奏具が相手でなければ簡単に切り裂けるな。硬い金属も装備していないので、どうとでもできる。


 サクラは上級魔法のレーザーや雷で敵を焼き尽くしていく。建物の中ではあるが、周囲に被害は出していない。

 相当優れた繊細せんさいな制御をしているという証だ。心奏具が変化した上で、一番大きな違いは複数の上級魔法を同時に扱えること。

 だが、他にも細かいところで色々と変わっているのだろう。以前ならば、もっと大雑把おおざっぱだった。


 今のサクラは本当に頼りになる。とても強いから、俺がいなくても目の前にいる敵など、どうとでもできそうだ。

 だが、サクラを1人にする訳にはいかないからな。もっと先にある、ディヴァリアを一人にしないという目標のためにも。


 ノエルは弓から複数のエネルギー状の矢を発射している。

 放たれた矢のスピードはとても速く、ほとんどの敵が反応できていない。

 にもかかわらず、ノエルは矢の軌道を曲げることすらできる。

 だから、完全に的あての様相だった。敵は抵抗すらできないまま、バタバタと倒れていく。

 少しノエルが楽しそうなのが気がかりではあるが、いま心配することではないな。


「わたし達も行きますよっ! みんな切り捨ててあげますっ!」


「これくらいでは恩返しにならないけど、少しはね」


「同感です。ですが、リオン君に楽をさせてあげましょう」


 ユリアは卓越した剣技で抵抗を許さず敵を切り捨てていく。

 出会った頃には剣の初心者でしかなかったユリアだが、もう上級者と言っていいな。

 ただでさえ優れた腕前なのに、防御の一切を許さないのだ。

 それは、敵にとっては地獄も同然だろうな。どうやっても死ぬしかないのだから。


 フェミルは混乱している敵のスキを突く形で、死角に転移して敵を殺していく。

 落ち着いた様子で淡々と敵を処理しており、まるで歴戦の戦士のようだ。

 だが、フェミルはまだまだ戦いに慣れてはいない。しっかりとフォローできるようにしないとな。

 恩返しするという気持ちは嬉しいが、俺にとってはフェミル自身の幸せのほうが大切なのだから。

 つまらない戦場で失われて良い命ではないのだと、しっかりと刻みつけてやらないと。


 シルクはみんなを結界で守りつつ、同時に敵に向けても結界の力で攻撃をしている。

 優しいシルクには似合わない残酷な殺し方ではある。結界で敵の体を2つに分けるという攻撃は。

 だが、そこまでしてでも俺を支えようとした結果なのだろう。つまり、俺がもっと強ければ良かった。

 今は余計なことを考えず、目の前の敵に集中するべきではあるのだが。

 シルクやルミリエに手を汚させてしまった罪深さがのしかかってくる。


 ルミリエも、音を飛ばして敵を攻撃しているようだ。

 見た目では攻撃を受けていないのに、倒れていく敵が何人も居るからな。

 敵からすれば、まったく正体の分からない攻撃は厄介だろう。

 そもそも、ルミリエはこの場に居ないのだから、音での攻撃だとわかったところでな。


 みんなで敵を片付けていくうちに、ついに転移装置が見つかった。

 これで、敵の本拠地に移動できる。さて、どのメンバーで進むべきか。

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