79話 ミナの想い

 クーデター後の処理も終わって、いつもの日常が帰ってきた。

 メルキオール学園で過ごしたり、仲のいい人と集まったりしながら暮らしている。

 また平和が訪れたのだと思えて、嬉しい。ただ、キュアンやエギルを見かけなくなった。

 死んだとの話は聞こえてこないから、大丈夫ではあるのだろうが。

 それでも、マリオが死んで苦しんでいるのだろうな。俺だって苦しいのだから。


 とはいえ、もうマリオは帰ってこない。そこは諦めるしかない。

 せめて、キュアンとエギルは無事で居てほしいところだ。マリオの分も生きていてほしい。

 俺はもう、これ以上失いたくないのだからな。相当つらかったから。


 今はディヴァリアの家で、俺とディヴァリア、ミナ、シルク、ルミリエで集まっている。

 ミナと俺の未来を中心に、いろいろ話しているんだ。


「良かったね、みんな。ミナが王様になる事になって。私達の願いだったからね」


「同感です。私達のつながりがこれからも続きそうで、良いことです」


「うんうん。ミナちゃんをたたえる歌、作っておいて良かった。バッチリ歌っちゃうね」


「わたくしを望んでくれた皆さんには感謝しています。おかげで、本当に王になる道筋が生まれました」


 俺達の力というよりは、偶然に助けられたというか。

 マリオが死んでさえいなければ、本当に嬉しいことだったんだがな。

 それでも、ミナが王になる未来はきっと幸せだろう。これからも、ずっと支え続けていきたい。


 ミナは優しく微笑んでいて、とても幸せそうだ。今が人生の絶頂であるかのようですらある。

 そんな顔を見ていると、俺まで笑顔になってしまう。本当に可愛いな。金髪碧眼の、物語の王女様っぽい顔がとても強調されている。

 今の顔を見たら、誰だってミナを守りたくなるだろう。まあ、ミナは守られるだけの弱い存在ではないけどな。


「おめでとう。本当に楽しみだ。今から待ち遠しいよ。ミナが王になる瞬間が」


「リオン、あなたがいたから、わたくしは王になりたいと思えた。あなたが望んでくれたから」


「当たり前のことだ。ミナの能力は素晴らしいし、人格も信頼できる。そんな人が王になったら、嬉しいだろう?」


 原作ではクーデターを起こしていたミナだが、誰からも求められないことで鬱屈うっくつした感情を抱えていたからのはず。

 王になることで、誰からも認められる存在になるのだと、そんなセリフがあったような記憶がある。


 だったら、今のミナは間違いなく大丈夫だ。ディヴァリア、シルク、ルミリエ、サクラ。みんなミナを信じているし、大切に思っているのだから。


「あなたが、信頼してくれた。誰よりも先に。それがどれほどの幸福だったか。きっとあなたには分からないのでしょうね」


 まあ、ミナが言うほどのことをしたとは思えないから、分かってはいないのだろうが。

 それでも、ミナが幸せであることを喜びたいと思う。そして、ミナの幸福に俺の影響が大きいことも。

 俺が関わることで、ミナに良い影響を与えられているのなら、嬉しい限りだ。

 大切な友達なんだから、俺の手で幸せにできることがどれほど素晴らしいことか。


「そうかもな。だが、お前の幸せは俺にとっても幸せなんだ。それは覚えておいてくれ」


「リオンの幸せも、わたくしにとっての幸せです。だからこそ、あなたを導く王になりたかった。あなたを支えたかった」


 ミナは十分に俺を支えてくれているから、今以上は必要ないと思うけどな。

 善意を否定するのもそれはそれで問題だから、受け入れはするのだが。

 俺にとって最も大切なことは、大事な人が幸せで居ることだ。だから、ミナには幸福をつかんでほしい。

 俺を切り捨てることで幸福になれるのならば、それでもいいから。本人には言えないけどな。


「ミナにはいつも助けられているんだから、無理はするなよ。お前の苦しみは、俺の苦しみでもあるんだから」


「わたくしにとっても同じです。だから、あなたが戦わずに済む未来を、作ってみせます。ディヴァリア達とも協力して」


 本当にディヴァリアは協力してくれるのだろうか。戦争を引き起こすような人間が。

 だが、本当に力を貸してくれるのならば、誰よりも頼りになるのがディヴァリアだ。

 本気で平和を目指してくれれば、きっと誰よりも的確に平和をもたらしてくれる。そう信じている。

 だから、ミナと協力するのが本当ならば、こんなに嬉しいことはない。


「ありがとう。俺としても、戦わずに済むのならばありがたい。だが、その過程でお前達が犠牲にならないことが前提だ」


 マリオが死んだ代わりにミナが王になったことは、素直に喜べなかった。

 みんなが犠牲になって平和を手に入れても、虚しいだけだろう。だから、本当に無事でいてほしい。


「当たり前です。あなたが何を喜ぶか、わたくし達は知っている。だから、皆で協力したのです」


「同意します。私達を大切にしてくれるあなただからこそ、私達は幸せにしたい」


「そうだね。私達をドキドキさせてくれるから。ワクワクで返したいんだ」


「リオンには、私達みんな助けられているからね。期待に応えたいんだ」


 そうか。みんなの助けに。ありがたいことだ。実感は無いが、みんなの穏やかな表情を見る限り、本音だろうから。

 俺がやってきたことは無駄じゃなかったんだ。悪役だったミナ達を、幸せの方向へ引きずり込めたんだ。


「なら、お前達が幸せになってくれ。ついでに、そばに俺がいたならば、それが最高だろうな」


「わたくし達のそばに居ることを喜んでくれるあなただからこそ、わたくしは救われた。感謝しているんですよ。あなたがわたくしへの批判に反論してくれたこと。殴られても訂正しなかったこと。まあ、今ではそんなリオンが心配なのですが」


 あったな、そんな事。誰が相手だったか。大人だった記憶はあるが。

 弱いミナには王族である資格はないなんて言われていて、思わず頭に血がのぼったんだよな。

 それで、全力で相手の主張を叩いた。反論できなくなったのか、殴られた。

 でも、大したことじゃないと思うけどな。感謝はありがたくもらっておくが。


「ミナの敵は、俺の敵なんだから。当たり前のことだ。大切な友達をバカにされて、怒らないわけがないだろう」


「そんなあなたと出会えたことが、わたくしの運命を決めた。誰かから肯定させる幸せを知ることは、確実にわたくしの力になってくれました」


「なら、嬉しいな。お前自身の魅力があってこそなんだから、そこまで大層なことではないが」


「いえ。わたくしを魅力的と言ってくれる人間は、本当に少なかった。そして、あなたが初めてだった。それが意味することは、きっとあなたには分からない。だけど、それでいい。必ず、あなたの理想とした王になってみせます。あなたに誓って」



――――――



 マリオが起こしたクーデターが終わって、私達はリオン抜きで再び集まった。リオンには聞かせられない話をするために。


「良かったの、ミナ? 想いを伝えなくて? それくらい、別に良かったのに」


「いえ、構いません。想いはずっとわたくしの胸にある。それでいい。ディヴァリアだって、リオンを独占したいのでしょう?」


「そうかもね。でも、ミナを排除したいとは思わないから。大切な友達だからね」


 ちゃんと本音だ。リオンを独占することと、ミナ達と一緒にいることならば、後者を選ぶ。

 本当は、リオンを私だけのものにしたいけれど。でも、ミナ達は何があっても殺したくない。それが私の思いだから。


「ありがとうございます。でも、リオンの心は分かっていますから。少なくとも、今は言いません」


 ミナがそうしたいのならば、構わないけれど。ミナが泣くところは見たくないよ。

 こうして考えると、私も変わったなって思う。リオン以外の人間なんて、ずっとどうでも良かったのに。

 今の関係も、リオンが作り出してくれたもの。本当に、リオンは私にいろんな物をくれた。


 だから、ミナを王様にするために、マリオをそそのかしてあげたんだ。大切な友達を喜ばせるために。

 マリオに近しい人間を、人質を使って操作することでね。

 クーデターを起こして第1王子オルギアを排除すること。それが唯一の王になる道だって、何度も伝えさせたんだ。


――人は、利益が絡むと都合の良い意見ばかり聞くようになることが多い。だから、疑いの心は大事なんだ。


 マリオは人を疑うことを知らない、愚かな人だったよ。おかげで、簡単に誘導できた。

 結局、マリオをそそのかした人は、人質ごと消し去ってあげた。合流した段階で、まとめて殺してあげたんだ。

 ミナの心奏具、サッドネスオブロンリネスの力があれば簡単だったよね。

 マリオに近しい人間も、弱点も、何もかも丸裸にできたのだから。


「なら、私とリオンが結ばれることには協力してくれる? 無理はしなくていいよ?」


「もちろん、協力します。リオンにも言いましたが、リオンの幸せがわたくしの幸せですから」


 私は最高の友達を手に入れることができた。みんなリオンのおかげ。

 だから、この恩は絶対に返してあげるね。私と結ばれたあと、幸せな家庭を作ることで。


「2人の結婚式は、私の歌でもバリバリ盛り上げちゃうよ」


「共感します。私は余興は苦手ですが、全力で協力します」


 本当にありがたいことだ。みんなが応援してくれる。恋も友情も手に入れて、私は満たされている。

 ありがとう、リオン。お礼に、いっぱい子供を作ってあげるからね。楽しみだね。

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