78話 定まらない心
マリオの首が切り落とされて、転がっていく。
そんな姿を見て、ああ、終わったんだなという言葉が浮かんだ。
きっと、色々な思いが込められているのだと思う。マリオの命、俺達の関係、今回の事件、他にもたくさん終わったから。
ああ、マリオの悩みを解決できていればな。こんな光景は見なくて済んだ。王都に混乱は起きずに済んだ。
結局、俺が失敗したせいなんだ。ディヴァリアを真人間にできていない俺には、あまりにも荷が重かった。
最初から、サクラに全て話していれば。サクラならきっと。
悔やんでいる俺を置き去りに、王は話を続けていく。
「こたびの混乱を見事におさめた第4王女ミナを、死んだ第1王子オルギアに代わり、我が後継者と宣言する!」
いきなりだな。マリオが死んだ結果でなければ、ただ喜べたのだが。
それにしても、ミナが王になるのならば、これからはお別れなのか? それは寂しくなってしまう。
だが、続く王の言葉によって、一時の安心を得ることになった。
「とはいえ、ミナも学生。メルキオール学園を卒業後、一定の期間を我がもとで治世を行い、その後に王位を継ぐこととなろう」
なら、少なくとも学園を卒業するまでは、ミナと一緒に居られるわけか。ありがたいことだ。
大切な友達だから、できる限り今の時間を大切にしたい。いつか離れ離れになっても、心で繋がっていられるように。
ミナの治世に全力で協力するつもりではあるが、王宮には住めないだろうからな。
王に手招きされたミナは、金の髪をたなびかせ、ゆっくりと壇上に上がる。腰まで伸びた髪は、とても印象深い。
そして、愛らしいと思える顔の青い瞳に強い決意を見せて、語り始める。
「わたくしは第4王女ミナ。そして、これから先に王になるもの。まずは、今回の事件を乗り越えた皆さんの勇気に感謝します」
そうだな。ミナの力は素晴らしいものではあるが、ミナ1人では絶対にクーデターを止められなかった。
だから、今の言葉はよく分かる。そして、今回の功労者から感謝されるなら、今聞いている民衆は心地いいだろう。
実際、民衆は感じ入ったかのように聞いている。ミナのことを受け入れている証だ。
ありがたいことだ。ここでミナに対して反発される可能性だって想定していたから。
目に見える強い力を持っていないだけで軽視する人間は多いからな。
とはいえ、ここに居る人間の多くは、クーデターをおさめる時の決起集会に居たメンバーも多い。
だからこそ、共に難局を乗り越えたミナの力を信頼しているのだろう。
サッドネスオブロンリネスの力は、本当に凶悪だからな。敵になったと考えたら、とても恐ろしい。
どんな作戦を立てたとしても、丸裸にされかねないのだから。
「まだ先のことではありますが、わたくしが王になった暁には、わたくしに着いてきてくださる方々の幸福に向かって全力で突き進みます。女神アルフィラに誓って」
ミナに向かって、まず1人が
あるいは、最初の1人は仕込みかもしれないけどな。それでも、大事な一歩だ。
これから先、ミナが王として立っていく中で、今日この日の光景はきっと残る。
今ここにいる人達の心に、そして、ここから伝わっていった人たちの中にも。
ミナならば、ここにいる人々の多くを、本当に笑顔にできると思う。
サッドネスオブロンリネスの力は、とても応用の範囲が広いからな。
この国で起きる多くの問題を、ミナ自身が直接知ることができる。
だからこそ、ミナの負担は大きくなりがちなのだろうが。しっかり支えていかないとな。
「わたくしは皆さんを幸せにしてみせます。だから、わたくしに力を貸してください。1人ではたどり着けない世界にたどり着くために!」
大きな拍手がミナを包み込み、ミナは一礼して離れていく。
楽しみだな。ミナが実際に王になったこの国が。きっと、今よりずっといい国になってくれるはずだ。
王はミナの動きを見送った後、さらに話を続けていく。
「こたびの戦では、絶対に語らなければならない人間がもう1人いる。勇者リオンだ! ミナの立てた作戦のもと、見事にマリオを捕らえた! その功績をたたえ、近衛騎士に任命する!」
突然任命されても困ってしまう。いや、確かに名誉なことなのだが。ソニアさんの部下というのも、悪くはないし。
それでも、何の準備もなく言われてもな。どうしろというのだ。
こういう任命は、事前に伝えられているモノじゃないのだろうか。本当にいきなりなんだが。
まあ、ミナが王になった後、近衛騎士として支えられるのだから、ありがたい話だ。
俺自身の手でミナの治世に貢献できる。本当に嬉しい未来だと言える。
「だが、ミナと同じようにリオンも学生である。だからこそ、ミナと同じように扱う。いずれミナの騎士として、ミナの身を守ってもらうことになるだろう」
なるほど。安心した。なら、これからもずっとミナと一緒にいられるな。
本当に助かる。俺達のつながりが、これからも途切れないこと。最高の気分だ。
聖女であるディヴァリアも、きっと俺達のそばに居ることになる。だから、俺達の関係は続けていけるはず。
俺も王に手招きされて、壇上に立つ。さて、何を語ればいいだろうか。
近衛騎士としてできること。ミナの安全を守ることだ。なら、それを表明すれば良い。
「紹介に預かったリオンと言います。勇者と呼ばれるのはこそばゆいですが、その名に恥じないように、ミナ王女の剣となり盾となることを女神アルフィラに誓います」
「「リオン! リオン!」」
ミナの時と違って、全力で名前を叫ばれている。さすがに、王となる人間を呼び捨てにはできないということだろうか。
この場で最も大切なのはミナだから、ミナより目立ちたくはないのだが。
それでも、大勢に歓迎されているという事実が、マリオが死んだ悲しみを包み込んでくれているような気がした。
そして、俺も一礼して下がっていく。
改めて歓声が沸き起こり、思わず表情が緩みそうになる。勇者リオン。いい響きだ。
恥ずかしさも当然あるが、俺が目指していたものに近づけているのではないだろうか。誰かの希望という目標に。
いつか、リオンが居るから大丈夫だと思ってもらえる存在になることができれば良い。
ミナにもディヴァリアにも、もっと頼ってもらえる俺で居たい。
マリオの死の上に立つ俺なんだから、できる限り多くの結果を残せれば。
踏みにじってきた相手の生命に見合うだけの成果を出せなければ、俺が生きのびた意味がないのだから。
「さて、ミナとリオン、この両者がいる。そして、聖女ディヴァリアもいる。若い才能に恵まれて、この国は安泰だ。皆のもの、安心して日々を過ごしてくれ」
その言葉を残して、王は去っていった。そして、最後に最も大きな歓声が沸き起こる。
今ここにいる民衆たちも、痛ましい事件のあとの希望を見ることができたのだろう。
そして、俺が安心の一助になれているという事実が嬉しい。
マリオ、お前と二度と会えないことは悲しいが、俺は前を向いていきていくよ。
お前が残してくれた成果である、ミナが国王になる未来で。
だから、安心してあの世で見守っていてくれ。この国は、俺達の手で発展させてみせるから。
それが、お前に対するせめてもの手向けだ。さようならだ、マリオ。
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