62話 きっと本当の友情
サクラが心を取り戻した。ハッキリと喜ばしい。これまでの人生でも、数えるほどのものだ。
とはいえ、そもそも俺が失敗しなければ、サクラの心奏具が壊れることは無かったんだよな。
だからこそ、今度は誰も傷つかなくて済むように、もっともっと、どこまでも強くなりたい。
「サクラ、良かった。お前があのままだったら、俺は自分を許せなかった」
「あんたならそうでしょうね。でも、あたしが死んだとしてもちゃんと生きなさい。じゃなきゃ、あんたが心配でおちおち死んでられないのよ」
「だったら、お前が死んだら俺はうつむいて生きるよ」
だって、サクラに死んでもいいなんて思われたら困る。心を壊されただけなのに、あれほど悲しかったのだから。
「あんたね……ほんと、ゆっくり休むわけにもいかないのね。でも、あんたのために生きてやるから、安心しなさい」
ありがたいことだ。俺にとってのサクラは、俺の命よりも大切な存在なのだから。
今年に出会ったばかりなのに大げさだというやつも居るかもしれないが、間違いなく本音だ。
とはいえ、サクラから呆れた雰囲気を感じるのは、少しだけ心が苦しい。ジト目もされているからな。
「私のためには生きてくれないの?」
「もちろん、ディヴァリアのためにも生きるわよ。あんたは私の大切な友達なんだからね」
小首をかしげるディヴァリアは本当にかわいらしいことだ。心配も伝わってくるよう。
さすがに今の心配は本心だろうと思う。サクラを好きでいてくれることは信じているから。
サクラは穏やかな顔でディヴァリアに微笑んでいる。友達どころか親友にすら思える光景だ。
「ありがとう。嬉しいな。サクラの心奏具が壊れたって聞いて、心配だったんだよ。それでサクラが帰ってきたら、あんな状況だから」
俺もサクラの状況を見て心が傷んでいたからな。ディヴァリアも似たような気持ちだと考えると、嬉しいような。同じ人間なのだと思えるから。
まあ、サクラの不幸で喜んでいるようだから、今の考えは止めよう。ただ、ディヴァリアの眉の形といい、本気で心配しているのは伝わる。
流石に今の状況で表情を作るほど、心を許していないわけでは無いだろうからな。
「ありがとうね。ディヴァリアもリオンを手伝ってくれていたのよね。あんたも心配してるってのがリオンから伝わってきたわ」
「そうだね。サクラが元気でいてくれると、私も笑顔になっちゃうから」
今のディヴァリアも、それはそれは見とれてしまいそうな笑顔だ。だから、サクラのような人がもっと増えてくれればな。
ディヴァリアにとって傷ついてほしくない人が増えれば、きっとこれからの犠牲者は少なくなるはずだから。
サクラ達とすごす穏やかな時間が、ディヴァリアの
「俺だって笑顔になれるぞ。お前がいてくれたら、幸せなんだ」
「そうだよね。サクラが友達になってくれたおかげで、リオンはもっと魅力的になったと思うよ」
「リオンが……あたしがいたから……ねえ、ディヴァリア。リオンに伝えたいことがあるの。いい?」
なんというか、サクラは
それにしても、俺に伝えたい言葉があるのだとして、なぜディヴァリアに許可を取るのだろうか。おそらく、戦いの前に伝えたいと言っていたことだよな。
「別にいいよ。2人にしてあげた方が良いかな?」
「大丈夫。ここで言うわ」
「分かった。頑張ってね」
サクラはディヴァリアが許可を出してすぐ、深呼吸を始めた。よほど伝えるのに緊張する内容なのだろう。
俺も真剣に聞かなければならないな。サクラがそれほどの思いで伝えてくれるのだから。
サクラはこちらに向き直り、もういちど深呼吸をした。そして、ゆっくりと話し始める。
「ねえ、あたしはあんたが好き。この想いが届かないことなんて分かってる。あんたがどうしたいのかも。それでも、伝えたかったから。返事はいいわ。分かりきってるもの」
そのままサクラはディヴァリアの方を向いて、話を続けようとする。
俺は混乱していた。いきなり告白されて、俺の答えは分かりきっていると言われて。
どういうことだ? 俺が誰かを好きでいることが明白だとでもいうのか? だとして、相手は誰だ?
何も分からない。何も。ただ、サクラは少し寂しそうで。でも、言葉が出てこなかった。
「ごめん、ディヴァリア。でも、そういうことだから。これからもあたしたちは友達よね?」
サクラは不安そうだ。なぜ不安そうなのかも、なぜディヴァリアに謝っているのかも分からない。
だって、ディヴァリアが俺を好きでいるなんて、そんなはずはないから。もしかしてと期待したくなってしまう。でも、結果なんて分かり切っているんだ。
ただ、今の言葉に対する返答が、俺達の未来を決めるような予感がした。俺の感覚は正しいのだろうか。今は信じることができない。
「もちろんだよ。サクラが私のことを大切に思ってくれているんだって、今だけでも伝わったからね。大好きだよ、サクラ」
「ありがとう、ディヴァリア。あたしもあんたが大好き!」
サクラはディヴァリアに抱きついていた。めずらしい行動だ。よほどさっきまで不安だったのだろうか。
何にせよ、丸く収まったようで何よりだ。せっかくサクラが復活したのに、ディヴァリアの敵になるなど、考えたくもなかったからな。
まあ、俺に告白したくらいで、ディヴァリアがサクラに敵対するとは思えないが。
ディヴァリアは優しくほほえみながらサクラを抱き返す。嫌いな人に触れられた時の反応は知っているから、ちゃんとサクラを大切に思ってくれていることが今の状況からも分かる。
ありがたいことだ。ディヴァリアにとって大切な人が増えることは、色々な意味で喜ばしい。
ディヴァリアの友達としても、裏の顔を知っている人間としても、戦争を避けたい1人としても。
いずれディヴァリアが世界の敵になる道筋が、少しでも狭まっていってくれるといい。
サクラならば、きっといい未来を運んできてくれるはず。2人が抱き合う光景を見て、信じられた。
「サクラと出会えてよかったよ。きっと、今の幸せと同じような感覚は、リオンが相手じゃ分からなかったから」
「それは分かるわ。やっぱり、リオンは私達とは違うものね」
男と女ということだろうか、他のなにかだろうか。何にせよ、2人は穏やかな雰囲気だから、悪口ではないだろう。そもそも目の前で俺の悪い所を言うやつらではない。
2人は微笑みあったあと、ゆっくりと離れていった。そして2人ともこちらを見る。
「ねえ、リオン。サクラを私に紹介してくれて、ありがとう」
「私も同じ気持ち。ディヴァリアと友達になれたこと、最高の気分よ」
なんというか、ずいぶん仲良くなったものだな。普通に友達としての関係はできあがっていると思っていたが、それ以上だ。
だが、ありがたい限りだ。ディヴァリアには多くの友達が必要なんだ。その一歩と思えば。
そして、サクラのおそらくつらい過去を癒やす関係になってくれたらいい。
「だったら、お互いを紹介してよかったな。友達になれるとは思っていたのだが」
「そうだね。リオンのおかげだよ」
「ね、ディヴァリア。あたし達が友達になれたこと、きっと一生忘れないわ」
「ありがとう、サクラ。私もきっと忘れないよ」
今日だけで2人はずいぶん仲良くなったような雰囲気があるな。ありがたいことだが、理由がいまいち分からない。
だが、理由なんてどうでもいいか。お互いがいることで、サクラとディヴァリアにとって良い未来に進んでくれるのならば。
そう考えていると、サクラが決意を込めた目でディヴァリアを見ていた。
「ねえ、ディヴァリア、あたしと戦ってくれないかしら? 1対1でね」
「サクラ、病み上がりなのに大丈夫か?」
「体がなまっている感覚はないわ。だから、大丈夫。それで、ディヴァリア、どうかしら?」
ディヴァリアは受けるのかどうなのか。サクラの意図は何なのか。分からない。ただ、大きな変化の始まりを予感した。
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