61話 目覚めの言葉

 もしかしたらサクラを救えるかもしれない手段が思い浮かんだ。ディヴァリアとノエルのおかげだ。

 きっかけとなった試験の結果、ノエルは俺の家に住むことになった。これからはノエルとずっと一緒だと思うと、俺も嬉しい。ノエルはもっと喜んでいたが。


 とはいえ、今はサクラのことだ。ノエルとこれまでより深い心奏共鳴をしたおかげで、心を相手に届ける感覚がわかった。

 言葉が通じないなら、サクラの心に直接俺の想いを送るのはどうだ。そう考えた。

 ディヴァリアに相談してみたところ、そばで見守っているとのことだ。確かに、サクラにとって大切な友達であるディヴァリアが近くにいれば、効果は大きいかもしれない。


「リオン、サクラが元気になったら、何がしたい? そういう事を伝えてみたらいいんじゃないかな」


 なんて言うディヴァリアは、まるで人の心を理解しているかのようだ。

 まあ、実際に分かっているのなら、戦争など主導するとは思えないが。

 とはいえ、良い提案だと俺も思う。サクラの心を目覚めさせるためにできることは、何でもやりたいからな。


 俺の心を送ることが中心になる以上、サクラを想い続けることが大切だろう。どれだけ好きか、一緒にいて楽しいか、これからやりたい事がどれだけあるか。

 色々と思い浮かぶ。全部ぶつけるつもりでちょうど良いんじゃないかと思える。


「確かにな。俺達にとってサクラがどれほど大切か、しっかり伝えないとな。だから、ディヴァリアもサクラへの想いを言葉にしてくれないか?」


「なるほど、リオンを通して送るんだね。それは良いかも。私だって、サクラのことは大好きだからね」


 柔らかく微笑み、穏やかな声音で語るディヴァリアからは本当にサクラへの好意が伝わってくる。

 だから、2人が一緒でいることで、俺1人で想いを送るよりも良い効果が得られるはずだ。


「なら、頼む。そろそろサクラのところへ行こうか」


「そうだね。早い方が良いよね。私だって、サクラにはできるだけ早く元気になって欲しいから」


 それから、2人でサクラの休んでいる部屋へと向かう。

 サクラは相変わらず横になったままだ。目を開いているから起きているのだろうが、表情は全く動いていない。

 呼吸をしていなければ、生きているとすら思えないほどの有様だ。だが、すぐにでもサクラを取り戻してみせる。


守護まもれ――エンドオブティアーズ」


 俺はエンドオブティアーズを出現させ、サクラのそばへと近寄る。そして、そのまま心奏具を触れさせる。


「エンドオブティアーズ。俺の想いを伝えてくれ」


 ノエルと心奏共鳴をしたときの感覚を思い出しながら、サクラへと想いを伝えようとした。

 すると、エンドオブティアーズからサクラへと光が流れ込む。おそらくうまく行っている。


 俺は必死にサクラへと伝えたい想いを心の中に思い浮かべる。

 サクラと出会えて良かったこと。何度も勇気をもらったこと。一緒に過ごしていて楽しかったこと。


――ちょっといいか? 俺はリオン。君と同じクラスだ。せっかく隣なんだから、仲良くしたいと思ってな。これから、よろしく頼む。


――あたしを口説いてるの? 冗談よ。ええ。よろしくお願いするわ。これも縁でしょうからね。あたしはサクラ。


 俺から声をかけたことがきっかけで、サクラとの関係が始まったんだよな。

 正直に言って、始めは打算だった。サクラには才能があると分かっていたから、俺の力になってほしかったんだ。

 ただ、今では本気で後悔している。サクラほど素敵な人を、戦力としてしか見ないなんて、あまりにももったいない事だからな。

 それに、ただ利用しようとするには優しくて、強くて、頼りになる。そして、一緒にいて幸せだったんだ。


――もっと強くなりたいものだ。何が何でも。


――そうね。お互い頑張りましょう。


 お互い、入学してすぐに学園が有翼連合に襲われた時、何もできなかった。

 俺はとても悔しかったし、サクラも同じはず。実際、あの事件がきっかけで俺たちは強くなれたはず。切磋琢磨せっさたくまするという喜びを知れたのも、サクラのおかげなんだ。

 あの時まで俺は、どう考えても届かない相手のディヴァリアに追いつこうとするだけで、暗闇を歩いていく感覚だった。

 その道に光が差したのは、間違いなくサクラが一緒にいてくれたから。


――みんないい人そうで良かったわ。リオン、紹介してくれてありがとね。


――礼を言われることじゃない。お前なら、きっとうまくやれると信じていたからな。


――それでもよ。ねえ、リオン。あたしを見つけてくれてありがとう。おかげで、今が楽しいの。


 ミナ達にサクラを紹介した時は、そんな事を言っていたよな。

 サクラは魅力的だから、ミナ達ともすぐに仲良くなれた。あいつらは案外人を信じないところがあるからな。それでもサクラを受け入れてくれたのは、きっとサクラが相手をまっすぐに見る人だから。

 俺だけじゃなくて、ディヴァリアも、ミナも、シルクも、ルミリエも、みんなお前が大好きなんだ。


――どう、サクラ? これでも私に追いつこうって思える?


――絶対に諦めないわ! ディヴァリアと友達でいるために、あんたを支えられる存在になってみせる!


 ディヴァリアと俺達で戦った時、サクラは圧倒的な力を前にしても諦めなかった。

 だから、俺も諦めないということを知ることができた。サクラに勇気をもらったんだ。

 きっとユリアを助けるときに俺が折れなかったのも、あの時のサクラを知っていたから。

 だから、サクラは俺の命の恩人なんだ。その恩は、絶対に返してみせるからな。


――最高の友達で、いつ一緒にいても楽しい相手だ。


――そうなのね。なら、あたし達と出会えてよかった?


 サクラと出会えて良かっただなんて、絶対に疑うことのない事実だ。

 俺はこれまで、たくさんの幸せをサクラにもらった。最高の友達だという言葉に、偽りはない。

 お前がいてくれるから幸福だと思える瞬間は、これまで何度もあった。サクラはもう、絶対に欠けてはいけない相手なんだ。


――これから先に素晴らしい未来を作るためにも、俺は生きて新しい希望を目指してみせる。きっとみんなとなら、夢見たような世界にできるはずだから。


――そんな日が訪れたのなら、あんたに言いたいことがあるわ。答えは分かりきっているけれど、どうしても伝えたい言葉があるから。


 あの時に何を伝えたかったのか、俺に教えてほしい。きっとサクラの言葉なら、どんなものだって最高だから。

 俺が思い描いていた未来には、いつでもサクラの姿があるんだ。これからだって、きっと変わらない。

 背中を預けられる相棒で、ずっと信じられる友達で、同じ未来を目指せる仲間。そんなサクラのいない未来なんて、意味がないとすら思えるほどだから。


「ねえ、サクラ。サクラが友達になってくれたおかげで、私はリオンともっと仲良くなれたんだ。ありがとう。だから、サクラとはずっと一緒にいたいな」


 サクラ、ディヴァリアだってお前との未来を思い描いているはずなんだ。

 お前が傷ついたことで、きっとディヴァリアも傷ついている。もちろん俺だって。

 だから、元気になってほしいんだ。俺達の幸せのために、絶対にサクラは必要なんだ。


「頼む、サクラ。また何度でもお前と話がしたい。俺の言葉に応えてくれ……!」


 想いをすべて伝え終えたと感じた頃、サクラははっきりとこちらを見た。そして、ゆっくりと微笑みかけてくる。


「あんたってば、情けないったら無いわね。気づいてないの? あんたの顔、涙でぐちゃぐちゃよ。でも、ありがとう。あんたの想い、伝わったわ。あたしもあんたと一緒に居たい。だから、これからもよろしくね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る