9話 聖女の共演

 サクラと話していると、ディヴァリアが近くに来ていた。

 ディヴァリアはパーティのためにドレスを着ている。

 黒いドレスが、ディヴァリアの銀髪と青い瞳によく似合っている。相変わらずつけているブレスレットも調和していて素晴らしい。

 やはり、ディヴァリアの存在感は凄まじいな。


「ディヴァリア。もう時間か?」


「まだちょっと早いかな。でも、ちょうどよかったみたい」


「聖女様。今日はよろしくお願いするわ」


「ディヴァリアでいいよ。こっちもサクラって呼ぶね」


 今日のディヴァリアは猫を被っていない。

 つまり、本気でサクラを友達にするつもりだろう。

 サクラが友達になってくれたならば。いざという時、ディヴァリアを止める選択をしてくれるはず。

 俺はディヴァリアに悪事を働いてほしくはない。だからといって、サクラに殺されてほしいわけではないんだ。


「わかったわ。ディヴァリア、よろしくね」


「うん。よろしくね、サクラ。これから仲良くしようね」


「もちろんよ。ディヴァリアと友達になれるなんて、最高だわ」


 サクラはディヴァリアの本性を知らないからな。聖女と呼ばれている姿だけを知っている。

 そういえば、原作での聖女と、この世界での聖女。2人が並んでいるんだな。だからなんだという話だが。


「気が合いそうで良かったな。俺も安心したよ」


「あんたのおかげよ。まさかあの聖女様と友達になれるなんてね」


「そんな大層なものじゃないよ。私はただの女の子だから」


 ディヴァリアがただの女の子、ね。俺からすれば、全く同意できない話ではあるが。

 たしかに女の子らしい一面はある。だが、他の側面がえげつないんだよな。平気で暗殺を実行するようなやつなのだし。


「そうよね。誰からも役割でしか見られないなんて、きっと大変よね」


「大丈夫だよ。リオンもサクラも、これから紹介する人達もいるからね」


「いい友達がいるのね。そんな輪の中に加えてもらえるのなら、嬉しいわ」


 サクラ以外は原作で悪役だった存在だ。

 とはいえ、ディヴァリアも原作と比べれば大した悪事はおこなっていない。

 ミナやシルク、ルミリエにいたっては善性と言っていいだろう。

 だから、これからの未来に希望を持ってしまう。もしかしたら、大団円のような結末を迎えられるのではないかと。


「うん、きっとサクラなら仲良くできると思う。みんないい子だよ」


「ディヴァリアがそう言うのなら、期待できるわね」


「期待していていいよ。きっとそれを超えるくらいだからね」


 まあ、みんなは評判よりもいいやつだと思う。とはいえ、期待させすぎて大丈夫なのか?

 ディヴァリアの意図がいまいち読めないな。仮に期待を下回ったとしても、十分仲良くはできるだろうが。


「流石にがっかりしたくないし、そこまで期待はしないわ。でも、いい人ってのは伝わってきたわね」


「うん。私の大切な友達だから」


 ディヴァリアのセリフは、きっと本当なのだと思いたい。

 俺たちはこれまで、様々なことで協力してきた。そんな時間で紡がれた絆がウソなのだとしたら。俺は何を信じたらいいのか分からなくなりそうだ。


「俺達の、だろ? あいつらと仲良くなれたことは、めったにない幸運だったな」


「そうだね。みんなと出会えたこと、運命だって感じちゃうくらい」


 そうかもな。原作で悪役だった者同士。そういうことを抜きにしてもだ。俺達はお互いに支え合っている。何度も試練を乗り越えてきた。

 ディヴァリアだって、聖女と呼ばれるほどの存在になったのはあいつらがいたからだ。

 だから、みんなとはこれからもずっと仲良くしていたい。間違いなく、俺の本音なんだ。


「そんなに仲がいいのね。あたしが外から混ざって大丈夫かしら?」


「心配しなくていいぞ。サクラなら仲良くできるって、俺達2人が判断したんだ」


「そうだよ。サクラはきっと、私達にとって大切な友達になるよ」


「だと嬉しいわね。良かった。メルキオール学園に入学できて。始めはどうなることかと思ったけれど」


 まあ、有翼連合の件もあったからな。あれが入学してすぐなんだから、不安になるのも当然のことだ。

 それに、きっと原作で起きた事件はまだ起こるはず。サクラにとっても俺にとっても大変な話だが、何が何でも乗り越えてやる。


「サクラと隣の席で良かったものだ。あれがあったから、今の関係があるんだからな」


「そうね。本当に運が良かったわ。ディヴァリアと知り合ったのも、あんたがいたからだものね」


「あの時のサクラ、大変だったね。私がリオンを殺したって誤解して掴みかかってくるんだもん」


 そんな事があったのか。つまり、サクラはディヴァリアのもとへとたどり着けていた。

 いや、それはディヴァリアが言っていたか。サクラを助けを呼びに来た子って認識していたからな。


 なんにせよ、サクラが無事で良かった。

 仮に俺じゃない人間だったとしたら。ディヴァリアは本当にそいつを殺していてもおかしくはない。

 そんな時に掴みかかっていたら。サクラの命が危ぶまれたかもしれないからな。


「あれは……仕方ないじゃない。あんな状況でリオンが無事だとは思えなかったんだもの」


「うん、分かっているよ。それだけリオンが心配だったんだよね?」


「ま、まぁ……そうね。あたしを命がけで助けてくれたんだし」


 あのときの件、サクラにはそう認識されていたのか。俺としては、できることがあれしか無かったというだけなのだが。

 まあ、間違いではないのか。それに、感謝されるのは悪い気分ではない。


「リオンは優しいからね。サクラも頼っていいと思うよ」


「あたしはもう助けられすぎているくらいだから。あたしのほうがリオンを助けてやるのよ」


「無理はするなよ。お前に何かあれば、俺もディヴァリアも悲しいんだからな」


「そうだね。これからはミナとシルク、ルミリエだってそうなると思うよ」


「2人とも……うん。2人のために、あたし、頑張るから。でも、心配はかけないわ」


 やはりサクラはこれまで大切にされてきた経験が少ないのだろう。だから、こうも簡単に頑張ろうとする。

 ただ、俺にとってサクラはもう大切な友達なんだ。サクラが本当に頑張りすぎないように、気をつけないと。


「苦しいのを隠そうとするなよ。お前がつらい時は、俺達が支えてやるから」


「気をつけてね、サクラ。傷ついているのを隠したら、無理矢理にでも助けられちゃうからね」


「あはは……それは勘弁だわ。じゃあ、ちゃんと伝える。約束するわ」


「それでいい。いつの間にかお前が潰れていたなんて、一番避けたいからな」


「そうだね。サクラは頑張り屋さんに見えるから、心配だよ」


 まったくだ。ただ、そんなサクラに頼る必要もある。自分が情けなく思えてくるが、俺だけではどうにもならないからな。

 俺1人でできることは、俺1人でどうにかしたいものだ。サクラに負担をかけすぎたくないからな。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。あたしだって、あんた達に迷惑かけたくないもの」


「迷惑はかけても良いんだよ。私達もサクラに迷惑をかけるから。それが友達ってものだよ」


 その通りだな。限度こそあれ、迷惑をかけられて嫌なら、友達としては不適格だろう。

 俺だってサクラに負担をかける予定なのだから。困らされるくらいなんてことない。


「そんなものなのね。じゃあ、少しだけ頼らせてもらおうかしら」


「それでいいよ。あらためて、これからよろしくね」


「ええ。よろしく。ふふ。いい友達ができたものだわ」


「そろそろ時間だから、またいい友達ができるよ。じゃあ、行こうか」


 そして俺達はパーティの会場であるディヴァリアの家へと向かう。

 さて、うまくいくとは思っているが。実際はどうなることだろうな。期待したいところだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る