8話 友達として

 ディヴァリアの開くパーティの日がやってきた。

 参加するサクラは学生寮に住んでいる。なので、いったん俺の家まで転移装置で移動してもらう。

 そして、準備を整えてからディヴァリアの家へと向かう予定だ。


 まずはサクラを迎えに行く。

 学生寮には学生ならば簡単に入ることができる。とはいえ、個人の部屋に入ることはできない。

 だが、事前に広間で待ち合わせをしていたので問題ない。


「サクラ、待たせたか?」


「いえ、別に。あたしが早めに用意していただけだから、気にしなくていいわ」


 そんな事を言うなんて、サクラも楽しみにしてくれていたのだろうか。だとしたら、とても嬉しいものだが。

 まあ、それはいい。待たせてしまったのだから、すぐに移動しよう。


「サクラ、まずは俺の家で着替えてもらう。それから、ディヴァリアの家へ行くつもりだ」


「それって、ドレスとかを着るってこと? あたし、そんなものを買うお金なんて無いわよ」


「問題ない。こちらで用意しておいたものだから、サクラは気にしなくていい」


「気にするなって、借りを作る訳にはいかないわ」


 サクラらしい言葉だ。

 だが、一応エインフェルト家は公爵家だからな。相応の格式ある格好を求められてしまうのだ。

 そんな衣装をサクラに用意させるのは酷だろう。


「サクラには訓練に付き合ってもらっているからな。それで十分だ」


「あんたがそう言うならいいけど、後で請求されても払えないからね」


「分かっている。心配しなくてもいいぞ。友達ができたと伝えたら、両親が張り切ってな」


「いいご両親なのね。うらやましいわ」


 サクラの両親について、なにか設定があっただろうか。昔からの知り合いは、出会った時に思い出せていたのだが。

 サクラは髪の色くらいしか覚えていなかった。運が良かったな。もし髪色が同じ人間がいれば、分からなかっただろうから。


「さて、そろそろ行こうか」


「ええ。よろしくね」


 それからサクラを転移装置で俺の家まで連れて行った。


 サクラと出会った俺の両親はとても張り切っているようだ。


「リオンが久しぶりに新しい友達を連れてきたんだ。今日はお祝いだな、母さん」


「サクラちゃんって言ったわね。いっぱいおめかししましょうね」


「サクラといいます。リオンとは仲良くさせてもらっています。よろしくお願いします」


「サクラちゃん、きれいな桃色の髪に、リオンちゃんの髪と同じ黒の目なのね。似合う服はあるかしら」


 母さんはどうにも、サクラを着飾りたいらしい。とはいえ、グイグイ来る母さんにサクラは戸惑っている様子。


「ちょ、ちょっとお母様、撫で回さないでください……」


「きゃー! お母様ですって! リオンちゃんのお嫁さんに来てくれてもいいのよ?」


「そ、そんなこと考えられませんよ。知り合ったばかりなのに……」


「母さん、リオンにはディヴァリアがいるじゃないか。リオンを罪な男にするつもりかい?」


 もうめちゃくちゃだ。

 俺を愛してくれていることは分かる。そして、サクラを歓迎してくれていることも分かる。

 とはいえ、ここまではやりすぎでは? という思いもあるんだ。

 まあ、サクラは戸惑いながらも嫌がってはいないし、いいか。


「父さん、母さん、時間もあるから……」


「そうだね、すまなかったな、リオン。お前の友達だから、つい歓迎してしまった」


「確かに急がないとね。サクラちゃん、着替えに行きましょうか」


「え、1人で着替えられますからっ」


「ダメよ。ちゃんと細かいところまで見てあげるからね」


 サクラは母さんに手を引っ張られていく。少しこちらに助けを求めていた気もするが、俺には何もできない。

 俺がサクラの着替えを手伝うわけにはいかないのだから。


 そのまましばらく待って。母さんがサクラを連れてこちらに帰ってきた。


「どう、リオンちゃん? サクラちゃん、かわいいでしょ?」


 サクラは白いドレスを着て、髪飾りもつけている。ピンクの髪がとても華やかに見えて、黒い瞳とドレスの対比も鮮やかで。

 思わずサクラに見とれてしまうほどだった。


「な、なんか言いなさいよね。恥ずかしいじゃない」


「よく似合っている。お前ならば、誰もが振り向くだろうさ」


「そ、そう。ま、あたしだから当然よね。でも、ありがとう」


「礼なんていいさ。お前がきれいなのは事実だからな」


「もう、リオンのバカ! ちょっとあっち向いてなさい!」


 キッとにらまれてしまったので、サクラの言う通りにする。

 それにしても、何が気に入らなかったのだろうか。ほめ方が下手だったとか? だとすると、どのあたりがダメだったのだろう。

 しばらく後ろを向いていると、サクラから声がかかった。


「もういいわ。さっきは悪かったわね。でも、リオン。あたし以外にあんなこと言っちゃダメだからね」


「ディヴァリア達にも言っているような気がするが、ダメだったか?」


「まあ、親しいみたいだから良いかもしれないけど。出会ったばかりの人に言わないこと」


「それなら分かった。出会ったばかりで言いたい相手など、サクラくらいだろうが」


「も、もう! ま、あんたがあたしをほめてくれるのは嬉しいわ。それは本当よ」


 まあ、サクラが嬉しいのなら良いか。実際に俺がほめたいと思う相手など、そうはいないからな。きっと問題ない。

 それにしても、今ニマニマしている母さんをどうしたものか。


「リオンちゃんったら、ディヴァリアちゃんだけでは満足できないのね~!」


「さすがは俺達のリオン! ハーレムを築き上げてしまうんだな!?」


 やっぱりめんどくさい事になった。というか、母さんたちはそれでいいのか?

 まるで自分の子供が浮気性であることを望んでいるようだが。俺としては、仲のいい夫婦に憧れているからな。


「さすがにそこまで不誠実ではないぞ……」


「リオンちゃんが誠実にみんなを愛してあげればいいのよ!」


「リオン、お母様の言うことを聞かないようにね。ちゃんと聖女様を大切にするのよ」


 サクラの言うこともおかしい気がするが。俺とディヴァリアが結ばれているかのような発言だ。

 たしかに大切な幼馴染ではあるが。それが恋愛感情につながっているとは思えない。

 俺はディヴァリアを恐れているし、ディヴァリアが俺を愛しているという事もないはずだ。


「ディヴァリアを大切にするのは当然だが、俺とディヴァリアは付き合っているわけでは無いぞ」


「あんたってやつは……まあ、大切にするのならいいわ」


 サクラはなぜかあきれ返っているように見える。そんなにおかしなことを言っただろうか。ただの事実を告げただけのはずだが。

 まあ、嫌われている感じではないから、問題ないか。


「リオンちゃん、時間までまだあるし、サクラちゃんと話しておいたら? 私たちは外すから」


「それがいいだろう。せっかくの友達なんだからな」


 そう言って両親は去っていく。まあ、正直2人には困っていたからありがたいが。

 サクラを歓迎してくれているのは分かるとはいえ、サクラも困っていたんじゃないか?


「ほんと、いいご両親ね、リオン。大切にしなさいよ」


「もちろんだ。俺を愛してくれた両親には感謝しているからな」


「素晴らしいことね。あたしには分からないけど」


 サクラの言葉からするに、サクラは両親から愛されなかった?

 原作ではどうだったのだろうか。思い出せない。もっと早く、俺が記憶を残しているときに出会えたのならな。

 まあ、今悔いても仕方ないのだが。


「うちを気に入ったのなら、また遊びに来てくれ」


「それはいいわね。リオンのご両親、ちょっと変だけど、優しい人だし」


「そうだな。また来ても歓迎してくれるはずだ」


「そうね。友達っていいものだわ」


 俺もそう思う。だから、サクラと友達になれてとても嬉しい。他にも、ミナたちとも。

 俺は出会いに恵まれているよな。まあ、ディヴァリアがもっと善性でいてくれればとは思うのだが。


「そうだな。ただ、お前のようなやつだからだ。仲良くなれて嬉しいのは」


「分かる気がするわ。ろくでもないやつもいるものね」


「ああ。だが、これから紹介するやつらはそうじゃない」


「期待してるわ」


 きっとサクラも気にいるはずだ。ディヴァリアは外面だけだが、他のやつらは本当に善人だからな。


「楽しみにしていてくれ」


「ええ。話は変わるけれど、前にリオンに喧嘩売ったやつがいるそうね?」


「ああ、そうだな」


「そいつ、大きな盗賊団に1人で突っ込んでいって死んじゃったらしいわよ」


 それは知らなかった。あれから、とくにあいつのことは気にしていなかったからな。

 まあ、知ったことではない。話を聞く限り、自業自得にしか思えないから、余計にな。


「というか、サクラも知っていたんだな」


「そうね。結構ウワサになってたから。あたしがその場にいたら、そいつをギッタンギッタンにしてやったのにね」


 サクラにしては過激なセリフかもな。

 まあ、悪い気はしない。俺を友達として大事に思ってくれているのだろうから。


「心奏具すら無くても勝てたから、サクラだったら余裕だっただろうな」


「そんなに弱かったの? 身の程知らずもいるものね。それで聖女様に近づけるつもりなんて」


「私がどうかした?」


 後ろから声が聞こえたので振り向くと、そこにはディヴァリアがいた。迎えの準備ができたのだろうか。楽しみだな。

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