7話 悪役たち

 今からディヴァリアの開くホームパーティのような集まりに知り合いを誘うつもりだ。

 まずは、第4王女のミナからかな。


 授業の合間にミナを探すと、すぐに見つかった。

 輝くような金髪を腰まで伸ばした、王女様というイメージにぴったりな外見だ。

 柔らかい表情、おっとりした雰囲気を感じさせるタレ目、小柄な身長。クリクリとした青い瞳。それらが相まって、庇護欲を感じさせるんだよな。


 ただ、ミナはその外見をうまく利用するくらいには計算高くて。だから、個人的には王族の中で一番王になってほしい相手なんだ。

 ミナならば的確な計算のもと、この国アストライアを発展させられる。そう信じているから。

 まあ、原作ではクーデターを起こして国を混乱させていたんだがな。

 今のミナならば、きっとそんな性急な手段は取らないと信じられるが。


「おはよう、ミナ。調子はどうだ」


「リオンの調子のほうが気になりますけど。例えるなら、おぼれていながら陸地の人を心配するようなものじゃないですか?」


 まあ、俺は有翼連合との戦いで療養していたからな。ミナの言うことも分かる。

 ミナを含めた俺の知り合いは、あの事件では怪我すら負わなかったらしいからな。

 嬉しいことだ。ミナたちの誰かが死んでいたら、悲しいでは済まなかった。

 だからこそ、何の問題もなくミナたちが過ごせていることが嬉しい。


「俺は大丈夫だ。治療が良かったのかもな。シルクが治してくれたのか?」


「そう聞いていますよ。シルクはまるで恋人の治療かのように力を尽くしたとか」


「ずいぶん恥ずかしいような気がするな。まあ、そこまで力を入れてくれたのなら、ありがたいことだ」


「ええ。そうですね。シルクはわたくし達にとってはまさに希望。シルクがいれば、助かる場面も多いはずですから」


 ミナの言うとおりだな。シルクがいれば、本来死ぬはずの怪我からでも命を拾えるだろう。

 だから、サクラとも仲良くなってほしいものだ。サクラはこの世界の救世主になりうる存在なのだから。


「俺もシルクには何度も助けられたからな。もちろん、ミナにも助けられているが」


「わたくしもリオンやシルクに助けてもらいましたから。つまり、わたくし達は共同体。ひとつの群れ。お互いが欠けてはならないのです」


「だと嬉しいな。それで、そんな俺達の仲を深めるパーティをディヴァリアが開こうとしていてな。お前も来ないか?」


「ええ、構いません。ところで、誰を誘うつもりなのですか?」


「シルクとルミリエ、あとサクラという俺とディヴァリアの知り合いだ」


「なるほど。新たな隣人を迎えるようにそのサクラさんを。では、楽しみにしていますね」


「ああ、またな」


 ミナと別れ、次はシルクのもとへと向かう。

 今度もすぐに見つかった。シルクは青い髪を首筋まで伸ばした、おっとりした子。

 いつも微笑んでいて、そして背筋をつねに張っている。女性にしては背が高いが、それも母性を思い浮かばせるような。俺に懐かしさを感じさせる黒い瞳が、シルクの優しさを表現していると思える。


 シルクはとても回復魔法に習熟している。それこそ、欠損すらも治してしまえるほどに。

 ただ、原作では過剰な回復で人を傷つけていたんだよな。いまの穏やかなシルクからは、全く想像もできないが。

 とはいえ、今のシルクは穏やかで優しい人だ。積極的に人を傷つけたりしないだろう。


「シルク、有翼連合の件で俺を治療してくれたんだってな。ミナから聞いたよ。ありがとう」


「当然です。リオン君は私の大切な友達ですから」


「シルクも俺が力になれることがあるなら頼ってくれ。それが友達ってものだろ」


「道理ですね。ですが、リオン君にはいっぱい助けられています。あまり負担はかけられませんよ」


 俺の方こそ、シルクにはとても助けられていると思うが。

 だが、俺がそう言ったところでシルクは否定するだけだろうからな。

 だから、できる限りシルクが困っているのなら力を貸す。

 それが、俺のシルクへの恩返しになるだろう。


「だからといって無理はするなよ。お前が傷ついたら、俺もみんなも悲しいからな」


「慈悲ですね。リオン君たちを悲しませたい訳ではありませんから。安心してください」


「ならいいが。シルクは優しすぎるくらいだからな」


「否定します。私が大切にしたいのは、あなた達だけ。ミナさんもルミリエさんも、きっとそう言います」


「あのルミリエが? あいつも大抵みんなに優しいと思うが」


「疑問です。ルミリエの歌をちゃんと聞く人はそう居ませんから」


 歌姫とまで呼ばれているのに、そんな事があるのだろうか。

 俺たちはルミリエの歌が大好きだから、ルミリエの歌を広めるために協力したのだが。

 あいつの歌ほど魅力的な芸術など、そうあるとは思えないがな。


「あんなにいい歌なのに、もったいない限りだな」


「同意します。歌姫の名前しか見ていない人間は、大損をしていますよ」


 ああ、そういうことか。

 たしかに俺の前世でもそういう人間はいたかもしれない。有名な歌手の曲を聞いたという事実で満足しているようなやつが。

 まあ、仕方のないことではあるのだが。ただ、ルミリエの気持ちを考えるとな。


 それから、シルクのことをパーティに誘った。

 サクラとシルクが仲良くなってくれると助かる。

 まあ、打算で仲良くしてほしいだけではない。サクラをシルクに癒やしてほしいのはあるが。

 単純に、お互いにいい友達になれると思えるからな。


「じゃあ、ディヴァリアに伝えておくよ。次はルミリエを誘ってくるな」


「了解です。では、また後ほど」


 シルクと別れ、今度はルミリエを探す。

 またすぐに見つかったので、声をかける。


 ルミリエは血のように赤い髪を後ろでくくった、活発な人。

 歌姫として歌いながら踊るために、動きやすさを重視している。パッチリとした目から除く赤い瞳は吸い込まれそうで、歌の魅力を引き上げるほど。

 そして、高い身長と長い手足が踊りを映えさせている。


 まさに歌って踊るアイドルとしての才能を集めたような存在だ。

 ただ、原作では声を武器にして大勢を殺していたんだよな。

 今の本気で歌を楽しんでいるルミリエなら、きっとそんな事はしないだろうが。


「ルミリエ、ここに居たか。今良いか?」


「リオンちゃんならいつでも良いよ! キラキラした私を見せてあげるね!」


「ルミリエはいつでも輝いているからな。見ごたえがあるよ」


「そんな事言われたら、心がウズウズしちゃう。リオンちゃんは罪な男だね」


「そうか? 俺は人を評価しないとディヴァリアに言われたが」


「そんなの、私達を大切にしてくれるだけでバリバリ解決だよ」


 なるほど。シルクの言っていたことが分かったような気がする。ルミリエは俺に大勢を大切にする必要はないと言っているわけだからな。

 まあ、親しい人を優先するのは当たり前の話ではあるか。


「お前たちを大切にするのは当たり前だ。友達なんだからな」


「キュンキュンするね。リオンちゃん達のおかげで、私は歌を好きでいられたんだ。最高の友達だよ」


「俺達がお前の歌を好きだからだよ。だから、当たり前のことだ」


 ルミリエの歌は本当に活力になってくれる。

 だから、ルミリエが大勢に歌を聞かせたいと知った時、俺たちで協力した。

 ルミリエの歌ならば絶対にみんな好きになると信じていたからな。


「ありがとう。歌姫って言われるのは嬉しいけど、リオンちゃん達に褒めてもらえるのが一番ニコニコできるんだ」


「なら、いくらでも褒めてやる。ルミリエの歌は最高だってな」


「だったら、最高の舞台で聞かせてあげたいね。みんながドキドキしちゃうくらい!」


 どんな舞台でもルミリエの歌は素晴らしい。

 だが、ふさわしい舞台ならば、もっと魅力的だろうな。ルミリエが最高というほどの舞台。楽しみだ。


「どんな舞台で聞かせてくれる予定なんだ?」


「そうだね。王様になったミナちゃんをたたえるパレードはどうかな? 最高にワクワクだよね」


 ミナは第4王女だから王位からは遠そうではあるが。

 ただ、実際にミナが王になったら最高だろうな。

 ルミリエも祝うのならば、民衆からの支持も大きくなりそうだ。とにかくルミリエの人気は凄まじいからな。


「本当にそんな日が訪れたらいいな。これ以上ない一日になりそうだ」


「だよね。王様になったミナちゃん、キラキラしてそう」


 俺もそう思う。ミナは輝ける存在だからな。

 ただ、ミナが王になったら今のように気軽には会えないんだろうな。そう考えると、少しだけ寂しいかもしれない。


 パーティに誘ってからルミリエと別れ、次はサクラのもとへと向かう。

 サクラは俺を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。


「リオン。あたしを探してたの? 何の用事?」


「実は、ディヴァリアを含めた俺の知り合いたちで、軽いパーティを開く予定でな。お前も来ないか?」


「聖女様は知ってるけど、他の参加者は誰なの? あまり知らない人ばかりはやめてほしいけど」


 まあ、サクラの言うことも当然か。

 俺だって、知らない人ばかりの空間にはできれば居たくないからな。


「ミナとシルク、ルミリエだ。一応クラスメイトだな」


「シルクさんって人は知らないけど、第4王女様と歌姫ルミリエが参加するなんて、あたしも混ざっていいの?」


「当然だ。みんなからはすでに許可を得ている。それに、お前とシルクには仲良くなってもらいたいな」


「なんでよ?」


「シルクは回復魔法の達人だからな。きっと助けてくれるはずだ」


「なるほどね。ま、会ってみないことにはなんとも言えないけど」


 それはそうだろうな。

 だが、俺はサクラとみんなの相性はいいと思っている。ディヴァリアも似たような見解だろうし、きっと大丈夫だ。


「それで、参加してくれるか?」


「あたしみたいな平民が参加していいの? それだけが心配よ」


「お前を悪く思うやつはいないから、大丈夫だ」


「なら参加するわ。楽しみにしているわね」


 サクラも参加してくれることになった。さて、あとはパーティを待つだけか。楽しみだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る