ep34 十九淵裡尾菜④

「ま、まあいいわよ。話を元に戻しましょう」


 糸緒莉は仕切り直すと、〔リオナ〕の方をチラッと見て、物思わしげな表情を浮かべる。


「さすがに長穂ちゃんの言うようなことはなくても、もし美人局つつもたせだったら、どんな形であれナゴムくんが被害を被ってしまうことになる」


「糸緒莉ちゃん」

 長穂は糸緒莉のことをじっと見た。


「長穂ちゃん?」


「糸緒莉ちゃん、本当にナゴムさんのこと心配しているんですね」


「え?だ、だって、ナゴムくんってお人好しだから、なんかアブナイじゃない」


「......」


「え?な、なに?」


「いえ。とにかく、わたしたちでナゴムさんを守りましょう!」


「そ、そうね!」


「いざとなったらろくろっ首の能力を使って...」


「それはやめなさい。そもそもろくろっ首の能力をどう使うの?」


 さて......。


 妖女子ふたりが見守る(監視する)中、ナゴムと〔リオナ〕のお食事デートは滞りなく進行していた。

 ナゴムは〔リオナ〕の美貌にやや圧倒されながらも、楽しい会話は絶えなかった。

 彼にとってマッチングアプリで出会いデートをするのも三回目。

 ましてや一回目のデート相手だった糸緒莉は〔リオナ〕に負けず劣らずの美人だったし、長穂も実に可愛い女性だった。

 否が応にも彼に経験を積ませたのは事実。


(よし。今回は今までよりうまくいっている気がする。裡尾菜さんの美人ぷりに緊張したけどこれなら大丈夫そうだ)


 ナゴムは裡尾菜と会話しながら胸の中でひそかに自信を確かめた。

 余裕がある大人の男に見えるかな?などと調子にノった思いまで抱きながらナゴムは会話を続ける。

 

「リオナさんって、思っていたよりも全然気さくな人だったんですね」


「どう思っていたんですか?」


「なんか、もっとこう、クールビューティー的な?感じというか」


「どんな感じですかそれ」


「キャッツアイの長女的な?」


「あの、山田さんって」


「?」


「チャラい人ですか?」


「いやいやいや!チャラくないです!そんなふうに見えましたか?」


「良い人そうに見えて、実はマッチングアプリですでに何人もオトしていて...」


「ないないない!それはナイです!」


「フフフ。冗談です」


「ちょ、ちょっといきなりやめてください」


「すいません。私、たまに「オトコを弄んでそう」って言われることがあって。それでつい山田さんにも言っちゃいました」


「そ、そんなこと言われるんですか?」


「そう、見えますか?」


 裡尾菜は吸い込まれそうな瞳でナゴムをじいっと見つめた。

 ナゴムは「えっ」となってドギマギし、いささか顔を赤らめると、それとなく躱すように視線を逸らす。


「そ、そんなふうには見えないですけど」


「けど?」


「魅力的だなとは思います」


「ありがとうございます。大人の回答ですね」


 裡尾菜は穏やかに微笑んだ。

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