ep32 十九淵裡尾菜②
*
三毛袋東口。
とある小洒落たダイニングバー。
ナゴムはロッジハウスの隠れ家のような雰囲気の店内を見渡した。
「入ってみると結構広いんですね。しかもオシャレでいい感じです。リオナさんはよく来るんですか?」
「そういうわけでもないですけど、たまにここで女子会やったりしてます」
テーブル席に着くと、ナゴムはドキドキしながら正面を見た。
(び、びっくりするぐらい美人だ......)
セミロングの髪は美しい黄金色。
海のような濃藍色の瞳とやや釣りあがった目はどこか妖しく艶っぽい。
怜悧さを失わない美麗な微笑み。
糸緒莉に引けをとらない抜群のスタイルの身体。
(ま、まさかリオナさんのほうからこんな雰囲気の良いオシャレなお店に案内されるなんて......)
ひょっとしてリオナさん、俺のこと......いやいや待て待て!まだアプリでメッセージのやりとりしたぐらいだぞ!
相手はとんでもない美人なんだぞ!
勘違いするな山田ナゴム!
でも......なんか今日、行けんじゃね?
いやいや違う違う!冷静になれ!
(と、とにかく気持ちを落ち着かせないと......)
時はさかのぼり......。
一週間前のこと。
残業でヘトヘトになったナゴムは部屋でひとり、マッチングアプリの画面を沈んだ顔で眺めていた。
「ヤバい。疲れたかも......」
仕事?違う。
生活?違う。
「もう、退会しよっかな......」
そう。マッチングアプリに疲れたのである。
自分の意志で出会いを求めて取り組んでいたマッチングアプリ。
試行錯誤もあったが、糸緒莉や長穂とマッチングした時などは本当に楽しくやれていた。
充実感もあったし、生活の張りにも繋がっていた。
しかし、ここに来てシンドクなってきたのである。
「正直、出会いを求めて女の子と関わること自体、イヤになってきたかも......」
ナゴムはベッドに向かってバタンと倒れるように横になった。
「ああ、俺はもう、彼女ができることはないのかな......」
などと悲観的にボヤいた時......。
ティロリンとアプリの通知音が鳴った。
彼はスマホを手にとり再びアプリを開くと、ひとりの女性とマッチングしていた。
「嬉しいけど......こっからのメッセージのやりとりがめんどくさい......」
いざマッチングしたとしても、それだけで会えることが保証されるわけではない。
そこから上手くメッセージのやりとりを繰り返し、
『いい感じにデートの日時設定までもっていって』
はじめて相手と会うことができる。
「リオナさん。めちゃくちゃ美人だよな。ダメもとでいいね送ってたけど、まさかマッチングできるなんて......」
ナゴムは〔リオナ〕の写真をじっと見ながらしばらく物思いにふける。
目をつぶり、フゥーと大きく息を吐く。
そして何かを思い立ち、カッと目を開いた。
「よしっ。最後、頑張ってみるか!これでマッチングアプリは最後にしよう!」
彼はむくりと上体をおこすと、大事な仕事前にしか見せないような顔つきを見せる。
それからおもむろにメッセージを打ち始めた。
そうしてあれよあれよという間に、一週間後のお食事デートに至ったのである。
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