ep31 十九淵裡尾菜①

 長穂はもの問いたげに糸緒莉を見つめる。


「あの、糸緒莉ちゃんって......」

「?」


「その...」

「なあに?」


「ナゴムさんのこと......気になっていたりしますか?」

「へ??」


「ち、違いますか?」

「ち、ちちちちち違うわよ!突然なにを言いだすのよ長穂ちゃん!」


「そ、そうですか」

「じゃ、じゃあ長穂ちゃんはどうなの??」


「わ、わたし??」

「そう!」


「わたしは......」

「う、うん」


「あんまり、見たくはないです...」

「え?なにを?」


「ナゴムさんが他の女の人とデートする姿を......」

「!」


「......」


 長穂は複雑そうにはにかんで黙った。

 糸緒莉はやや一驚しながらおずおずと尋ねる。


「ええっと、長穂ちゃんって、ナゴムくんのこと......す、好きなの?」


「......糸緒莉ちゃん」

「?」


「わたしがナゴムさんと出会ったきっかけは、マッチングアプリでいいなって思ったからなんです」


「そ、それはそうよね」


「それで実際に会ってみたらすごい良い人で、この人とならって、思ったんです。だけど、ナゴムさんには妖同士の恋愛に抵抗がある。それでもわたし、ナゴムさんと縁が切れてしまうのは嫌だったんです。わたしにとってはじめての妖仲間というのもありましたが、それ以上にこの出会いを無駄にしたくないなって」


「それでナゴムくんと友達に...」


「はい。しかもナゴムさんは糸緒莉ちゃんとも引き合わせてくれて、今までひとりもいなかった妖友達が一気に二人に増えちゃって。わたし、もともと友達自体あまりいなかったから、ナゴムさんと出会ってから本当に楽しいんです。おかげでマッチングアプリも辞めちゃいました。だってそれ以上に、ナゴムさんと、糸緒莉ちゃんと、仲良くなれたことが本当に嬉しいから」


「長穂ちゃん......」


「あれ?な、なんか話がぜんぜん逸れちゃいましたよね?すすすいません!」


「長穂ちゃん!」

「ひゃっ」


 突然、糸緒莉は長穂をぎゅっと抱きしめた。

 

「ど、どどどうしたんですか??」

 動揺する長穂。


「カワイイ!もうっ!」

「お、おおお落ち着いて糸緒莉ちゃん」


 はわわわとなりながら長穂は、

(糸緒莉ちゃん...すごくイイ香りがする......)

 糸緒裡の匂いを満喫していた。


 数十秒して......。


 糸緒莉はパッと抱擁を解いた。


「糸緒莉ちゃん?」

「もう行きましょ」


 糸緒莉はきっぱりと言い放って、ニコッとしてから続ける。


「なんか私のせいでゴメンね。もう声かけるのもやめる。もちろん盗み見もよくないし。さあ、もう行きましょ!今日は私が奢るわ!」


「いえ、そんな!」

「いいのいいの!私がそうしたいの!」


 穏やかに微笑み合うふたり。

 事が済んだとばかりに、その場から立ち去ろうと足を踏みだした。


 その時である。


「山田ナゴムさんですか?」

「あ、はい!リオナさんですか?」

「良かったです。すぐに気づけて」

「俺も安心しました」

「私、十九淵裡尾菜つづらふちりおなです。本日はよろしくお願いしますね」

「山田ナゴムです。こちらこそよろしくお願いします」


 その場を後にしようとした矢先、彼女たちの目に飛び込んできたもの......

 それはナゴムと挨拶を交わす美女の姿!


「な、長穂ちゃん!あれって...」

「女性、ですね...」


 ナゴムと謎の美女は簡単なやりとりを終えると、どこかへ向かって歩き出した。

 糸緒莉は彼らの背中を見ながらおもむろに口をひらく。


「長穂ちゃん」

「な、なんですか?」

「追うわよ」

「えっ」

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