ep30 偶然

 ふたりはカフェを出ると、そのままビルを後にして目的地へと向かう。


「長穂ちゃんの言ってたお店、パレコだったわよね?」

「そうです!糸緒莉ちゃんにも合うかと」


「ねえ長穂ちゃん。私にはそんな気を遣ったりしなくていいからね?」

「あ、いえ、そんな...」


「東京では、私にとっても長穂ちゃんが唯一のあやかし女友達なんだから」


「お、お姉様......」

「それはやめて」

「すいません!」


 ジョンク堂からパレコまでは駅前を抜ける。

 ふたりが三毛袋駅東口前を進んでいると、ふいに長穂が人混みを見つめて立ち止まる。


「長穂ちゃん?」

 糸緒莉も足を止めた。


「糸緒莉ちゃん、駅の方にいま......」

「?」


「ナゴムさんが」

「え?ホントに?」


「わたし、目がすごく良いんです。だからたぶん...」


「そう。じゃあ、ちょっと驚かせに行ってみようかしら」


「ええ?」

「長穂ちゃん、どっち?」


「で、でも」

「一瞬声かけるだけだから」


 長穂は乗り気じゃなかったが、糸緒莉に押し切られる格好で共に駅構内へ入っていった。


 一方、ナゴムはというと......。


 地下へ降り、待ち合わせ場所の定番のひとつとされている〔みけふくろう〕でお馴染みのフクロウ像前に来ていた。

 当然、糸緒莉&長穂コンビの尾行など露知らず、気づく気配もない。


 糸緒莉たちは少し離れた位置からこっそりナゴムを見守っていた。

 どういうわけか、糸緒莉が足を止めてナゴムの前へ出て行こうとしないからだ。


 長穂はやや冷や汗を浮かべながら糸緒莉に確認する。

「こ、声かけるんじゃないんですか?」


「ねえ長穂ちゃん」

 糸緒莉も若干の冷や汗を浮かべながらニヤリとして応える。


「はい?」

「ナゴムくん。デートじゃない?」


「!」

「あれ、どう考えても誰かと待ち合わせしていることは確実よね?女の子が来るんだと思うわ」


「そ、そんなこと!」

「あるわよ。ナゴムくん、チャラかしだし」


「それは冗談で言ってただけですよね?」

「いずれにしても......デートの可能性は高いわ!」


「な、なぜそこまで言えるんですか?」


「まず、いつもよりバシッと髪型を整えている。それにスーツとシャツは今まで見たのとは違うタイプのストライプの物だわ。靴は磨きたてかしら、光沢が光っている。とりあえず、普段よりカッコつけているわ!」


 糸緒莉の目がキランと光っていた。

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