ep29 糸緒莉と長穂

【登場人物】

山田ナゴム・・・主人公。社会人三年目の会社員。正体は天狗のあやかし。

雲ケ畑糸緒莉・・・マッチングアプリで出会った会社員女性。正体は女郎蜘蛛のあやかし。

宮野首長穂・・・マッチングアプリで出会った書店員女性。正体はろくろっ首のあやかし。


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 ここ最近の山田ナゴムは、糸緒莉&長穂の妖女子コンビとよく連絡を取り合っている。

 先日の食事会以降も幾度も食事に行くなど、今ではすっかり良い友達となったといっていい。 

 それはそれとして......


「ハァー」


 ナゴムは夜の部屋でひとり、ベッドに腰かけて溜息をついた。


「うまく、いかない......」


 なんのことであろうか。

 マッチングアプリのことだ。


「フツーに彼女が欲しい......」


 マッチングアプリで出会った妖ガールズ達とは良い友達になった。

 でもそれはあくまでオトモダチ。

 本来の目的は達成していないのだ。


「あれから、どの女の子ともマッチングしないし......ん?」


 ここでナゴムはふとあることに気づく。


「よくよく考えたら......マッチングして実際に会うところまでいった女の子って、糸緒莉と長穂ちゃんだけなんだよな。それってつまり......妖の女の子だけってことだよな!」


 妖ではなく、あくまでヒトの女性と恋愛したい山田ナゴム。

 そんな彼の思いとは裏腹の現実。


(俺、ひょっとしたら妖の女の子としか合わないのかな......)


 にわかにナゴムはそう思いはじめていた。

 実際、糸緒莉とも長穂ともよく気が合う。

 その上ふたりとも抜群のルックス。

 それなのに彼女たちは自分の恋愛対象からは外れてしまう。

 はたから見れば贅沢な悩みとしか思えないだろう。


"もういっそのこと妖もオーケーにしちゃえば?なーんてね"


 ふいにナゴムの頭へ糸緒莉の言葉が浮かんだ。

 それは糸緒莉が何気なく言った冗談混じりの一言。

 しかし......


「あー待て待て!そうだ!あと一人。あともうひとり、アプリで探してみよう!さすがに三回連続あやかしってことはないだろうから!

 それでフツーにヒトの女性とマッチングしてデートできれば、なにも問題はないはずだ!」


 すぐに思い直してアプリをいじり始めた。



 *



 都内にある本屋『ジョンク堂三毛袋本店』に、仕事帰りの雲ヶ畑糸緒莉が訪れていた。


 そこは地下一階から地上九階までビル全体が本屋の、宮野首長穂の勤務先だ。

 四階にはブックカフェがあり、そこで糸緒莉はひとりでお茶をしながら長穂を待っていた。


「糸緒莉ちゃん!お待たせしました!」

「あっ、長穂ちゃん、おつかれさま〜」


「ここまで来てくれるなんて...」

「ううん。この本、買いたくて買えてなかったからちょうど良かったわ」


「なにを買ったんですか?」

「西野圭六の新作ミステリーよ。私、昔っからファンだから」


 ふたりはこの日、仕事終わりに食事する約束をしていた。

 といっても、当初はナゴムを含めての三人で行く予定だった。


「よくよく考えたら、ナゴムくん抜きで長穂ちゃんと会うの、初めてよね?」


「そ、そうですね!ナゴムさんの都合が合わなくなって急遽実現しましたが、お姉様と二人きり......きき緊張します!」


「ちょっとそれはやめてよもうっ」

「ご、ゴメンなさい!つい!」


「まあいいわよ」

「あ、憧れのスパイダークイーン様とのデート、ここ光栄です!」


「だからやめてって!」

「い、一応『デンジャラス』は抜いたんですけど...」


「そういう問題じゃない!」

「す、すいません!」


「......たぶん長穂ちゃんって、私の地元の友達とすっごい気が合いそう」

「は、はい?」


「アケミって言うんだけどね?ちなみにそのコ、猫娘のあやかしよ」

「猫娘さんですか!」


「いつかアケミが東京に遊びに来たときは紹介するね」

「は、はい!お願いします!」


「じゃあ行こう。長穂ちゃん」

「はい!」

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