ep28 あやかし飲み会⑥

 ナゴムと糸緒利の会話がいったんストップすると、長穂がなにやら物思わしげに切りだす。


「あ、あの、ふたりは!その......」


「?」

「長穂ちゃん?」


「つ、つ、つつつ、付き合ったりとかしてるんですか?」


「え??」

 驚き声がユニゾンするナゴムと糸緒莉。


「ず、ずっと気になってて!」

 長穂はモジモジしながら言った。


 ナゴムと糸緒莉は顔を見合わすと、

「あの〜長穂さん」

 ナゴムが口をひらく。


「もしそうだったとしたら俺、彼女いるのにマッチングアプリで長穂さんと会ってたことになるよね...」


「た、たしかに!ナゴムさんのチャラ男さん!」


「いやだから付き合ってないから!チャラくもないから!糸緒莉もなんか言ってやってくれ!」


「たしかにナゴムくんはチャラいあやかし......チャラかしよ!」


「待てーい!」


「ナゴムさんは天狗のチャラかしなんですね!」


「だから違うって!おい糸緒莉!ややこしくするな!」


「アハハハ!」


 と笑いつつも、糸緒莉からもきちんと説明すると長穂は安堵の表情を浮かべた。


「な、なら良かったです。実はその、わたし、天狗のナゴムさんにひとつお願いがありまして......」


「俺にお願い?」


「はい。あの......ナゴムさん!」


「は、はい?」


「わたしを...」


「?」


「お姫様抱っこして飛んでください!」


「は??」


「創作のためです!お願いします!」


 長穂はペコペコとお辞儀をした。

 当惑するナゴムは糸緒莉に目で助けを求める。

 糸緒莉はいささか笑みを浮かべるが、

「やってあげれば?」

 なんとなく面白くなさそうにつんと答えた。


 ということで......。


 ナゴムは長穂をお姫様抱っこする。

 自分から言い出しておいて長穂は頬を赤らめる。


「わ、わたし、重くないですか?」

「いや、ぜんぜん」

「じゃ、じゃあ、このままお願いします」

「あ、ああ」


 天狗の黒い翼がゆっくりと羽ばたきはじめる。

 すると、ふたりの体はフワァ〜と上空へ浮上していく。

 

「ひゃ、ひゃ〜」

「大丈夫?」

「はい!」


 ふたりは園内上空二十メートルあたりの高さまで上昇する。


「一応、落ちないようにちゃんと掴まっててね」

「は、はい!」


 長穂の両手がナゴムの首へひしと巻きついた。

 その瞬間である。

 ナゴムの足に何かがシュルルルッと絡みついた。


「な、なんだ!?」

「どうしたんですか?」


 ふたりが疑問の言葉を口にした時、地上から手をかざした糸緒莉が鋭く声を上げる。


「なんか見てらんない!」


「糸緒莉?」

「糸緒莉ちゃん?」


 糸緒莉はやけに不機嫌そうな顔をしている。


「これ、女郎蜘蛛の糸だ!糸緒莉のやつ、一体なんのつもりだ?」

「し、糸緒莉ちゃん、なんか怒ってます?」

「わ、わからんが、聞いてみるか」

「は、はい」


 ナゴムは地上の糸緒莉に向かって尋ねる。


「糸緒莉!どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもない!」


「なんで糸を?」

「知らない!」


「いや知らないって!やったのは糸緒莉だろ?」

「知らないものは知らない!」


「なんかあるならちゃんと言ってくれないと...」

「だから知らないって言ってるの!」


 一向に結論の出ない攻防。

 そのままふたりが不毛なやりとりを続けていると......。


「オイ!君たち!そこで何をやっているんだ!」

 地上から彼らへ向かい、厳しい口調の声が発せられた。


 糸緒莉はハッとして声の方へ振り返る。


「お巡りさん!」


 まもなく妖三人組は交番まで連行された......。


 交番の狭い机に設置された椅子に肩をすぼめて座り、そろって頭を垂れる妖三人組。

 警官は説教口調で言う。


「酒を飲んで酔っ払って公共の公園で妖力を行使......さて、言い訳は?」


「いや、その言い方だと若干ニュアンスが...」

 若干の反論を見せるナゴム。


「特に貴方だよ!街中での飛行はダメだよ飛行は!電線とか本当に危ないんだからね!」


「す、すすすスイマセンでしたぁ!」


 結局、一番の貧乏クジを引いたのはナゴムだった。

 それから三人は、糸緒莉の指示により従順に対応したせいですぐに解放された。


「ほらね。さあ、遅くなっちゃったし早く帰りましょう」


 糸緒莉はこの手の状況への対応には慣れているらしい。


 なお、後に長穂からナゴムへ、

「申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございませんー!!」

 烈火のごとく謝罪の嵐があったことは念のため補足しておこう。

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