ep27 あやかし飲み会⑤

 そんなこんなで......。


 あやかし三人組のお食事会は盛況のもとに終了したのだった。


 帰り。


 彼らは店から少し歩いたところにある公園に寄っていた。

 三人は園内の主要エリアから外れた、木々に囲まれた草地のスペースに入り、人目に隠れてなにかをやろうとしている。


「じゃあ、わたしから見せますね」


 長穂が言うと、彼女の首がひょろひょろひょろーんと伸びていった。

 

「ろくろっ首って、私はじめて見るわ!」


 お酒で頬をやや赤く染めた糸緒莉の声には感動の響きが混ざっていた。


「つ、つぎは糸緒莉ちゃん、お願いします!」


 首を元に戻した長穂は、糸緒莉にバトンを投げる。

 何のバトンか?

 あやかしお披露目バトンである。

 あやかし社会人三人組は、人気の少ない夜の公園の人目につかない場所で、妖発表会を開催しているのだ。


 これは長穂たっての希望によるもの。

 今まで妖友達がひとりもいなかった長穂は、家族以外の妖に出会ったことがない。

 なので、天狗の妖であるナゴムと、女郎蜘蛛の妖である糸緒莉の、妖たる姿を見たかったのだ。


「じゃあ長穂ちゃん。やってもいい?」

「お、お願いします!」

「それじゃあいくわよ」


 シャアァァァ!という音とともに、糸緒莉のかざした掌から蜘蛛の糸が放出される。

 糸は長穂めがけて発射され、彼女の身体にシュルルルッと巻きついた。


「こ、これが、女郎蜘蛛の糸ですか!すごい!」


 感動する長穂。


 糸緒莉はすぐに妖力を解くと、長穂に絡みついた蜘蛛の糸を手で取ってやり、

「本当にこれ、欲しいの?」

 回収した糸を長穂に差し出した。


「は、はい!ありがとうございます!宝物にします!」


 長穂は丸い目を少女のようにキラキラと輝かせた。 

 糸緒莉は長穂へ笑顔をむけてから、ナゴムに視線を送る。


「つぎは、ナゴムくんの番ね」


 糸緒莉からバトンを受け取ったナゴムは、ふとあることに気づく。


「そういえば糸緒莉ってさ?姿形は変わらないよな?」


「そうね」


「女郎蜘蛛ってそういうもんなのか?」


「そんなこともないけど......私は調整しているから」


「調整?なら調整しないとどうなるんだ?」


「そ、それは......そ、そんなことはいいから!つぎはナゴムくんの番よ!」


「...?ああ、わかった」


 山田ナゴムは妖女子ふたりが見守る中、赤ら顔に鼻を伸ばした、黒い翼を背負った天狗の姿にドロンと変身した。

 

「こ、こんな感じだけど......」

 迫力ある見た目に反して恥ずかしそうにするナゴム。


「そういえば天狗って、三代悪妖怪のひとつに数えられているのよね」

 だしぬけに糸緒莉が言った。


「それ言うのマジでやめてくれ!」

「カッコいいじゃない」


「えっ?いやいやいや!からかわんでくれ!」


「ホントよ?実際、私は自らを省みずその姿で人助けしているあなたを二回見ている」


「そ、それは、まあ」


「私はそれこそ地元で悪さをする妖も見てきたし、そもそも妖の多くは良くも悪くも他人に無関心な者が多い。

 でもあなたは違うわ。

 正直、ナゴムくんと出会ってから天狗のイメージも変わったんだから」


 糸緒莉は春の木漏れ日のように微笑んだ。

 思わずナゴムはテレて顔を赤らめてしまうが、天狗の赤ら顔だから誰にもわからなかった。


(糸緒莉って、そんなふうに思っててくれたのか。

 ......妖同士もアリなのかな......て待て待て!落ち着け俺!気を遣ってくれたんだよきっと。

 でも、糸緒利は相手に気を持たせないように気をつけてるって、たしか水希さんが言ってような......だとすると?

 で、でも、それはあくまで会社でのハナシであって、それとこれとは別のハナシっていうか......ダメだ!全然わからん!)


 煮えきらないナゴムだったが、当の糸緒莉はなんの他意もない様子。


「ん?どうしたの?ナゴムくん」

 糸緒莉がキョトンとして尋ねた。


「い、いや!なんでもない!」


「そう?ならいいけど」

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