ep24 あやかし飲み会②

 その後、居酒屋に移動した三人。

「あやかし同士でお酒が飲みたいです!」

 と、長穂たっての希望で、ナゴムがお店をチョイスしたのだった。


 酒食をしながら糸緒莉と長穂はまたたく間に仲良くなった。

 ナゴムは彼女らの様子を見て、ほっと胸を撫でおろす。


(良かった。仲良くなってもらえて......)


 この日、三人の食事会を発案・計画したのはナゴムである。

 彼の動機はこうだ。


(俺以外にあやかし友達のいない長穂ちゃんに、同姓のあやかし友達ができたらもっと喜ぶだろうなぁ)


 思いつくなり、彼は糸緒莉と長穂に打診し、妖女子ふたりの了承を得ることに成功。

 それからすぐに日時と場所を調整・決定して今日に至ったというわけである。

 

 以上のような経緯もあり、ナゴムは糸緒莉と長穂が楽しそうに話すのを見て、微笑ましい気持ちで満たされていた。


「嬉しいです!まさかこんな、一気にあやかし友達が二人もできるなんて!おふたりとも、本当にありがとうございます!」


「それについてはナゴムくんに感謝ね。私も長穂ちゃんみたいなカワイイ妖ちゃんと知り合えて嬉しいわ」


「か、カワイイだなんて!糸緒莉ちゃんに比べたらわたしなんて......」


「そんなことないわ。長穂ちゃんすっごいカワイイ」


「いえいえ、そそそんな......あの!なななんで糸緒莉ちゃんは自分が妖なのを隠すんですか?美人の女郎蜘蛛さんなんて、羨ましすぎるぐらいだけど...」


「あ、ああ〜、ええっと〜」


「?」


「それはね?......」


 一瞬、困ったような表情を浮かべた糸緒莉だったが、

(長穂ちゃん相手なら仕方ないか)

 すぐに諦めて正直に説明した。

 

「......ということで、東京ではバレないように隠しているの」


 糸緒莉の説明が終わると、どういうわけか長穂の目に宿る光がキラキラと輝きを増していく。

 次第に長穂はプルプルと震えだし、

「か、かかか、カッコイイー!!」

 飛び上がるように立ちあがった。


「長穂さん?」

「長穂ちゃん?」


 キョトンと見上げるナゴムと糸緒莉。

 そんなふたりをよそに、長穂の狂喜は乱舞する。


「D・S・Qってなんですか!死ぬほどカッコイイじゃないですか!正義を愛するダークヒーローですか!いえ、糸緒莉ちゃんは超絶美人の女郎蜘蛛......究極のダークビューティーヒロインだよ!わたしの最推しヒロインに決定だよ!」


 大人しかったはずの長穂が興奮してまくし立てる姿に、ナゴムと糸緒莉は呆気に取られる。

 長穂は頬を紅潮させ、拳を握り、ムフームフーと鼻で息をしている。


 興奮に双眸をギランギランさせる長穂に、糸緒莉はおそるおそる声をかける。


「あ、あの、長穂ちゃん?」


 長穂は彼女をじっと見据えると、いきなりバッと糸緒莉の両肩を掴んだ。


「糸緒莉ちゃん!」

「な、なに?」

 

「お姉様って、呼んでもいい!?」

「はっ?」


「それでね?わわわたしを......部下にしてください!」

「えええ??」


 宮野首長穂。

 表向きの彼女は、マジメで一生懸命の人見知りで大人しい女の子。

 しかし、その中身は厨二病を引きずるオタク女子だった。


「お姉様!お願いします!」

「ちょちょちょっと待って!」


 謎のテンションでグイグイ来る長穂に困惑するばかりの糸緒莉。

 見かねたナゴムが糸緒莉に助け舟を出す。


「ええ〜と長穂さ〜ん。たぶん糸緒莉お姉様は、そういうのがイヤで東京に来て、妖であることを隠して生活しておられるのではないかと......」


「......ハッ!そ、そうだよね!ごごゴメンなさい!」


 ナゴムの言葉にはたと正気を取り戻した長穂は、途端にペコペコ謝りはじめる。


「糸緒莉ちゃん!ごごゴメンね!わたし無神経だった!本当にゴメンなさい!」


「そ、そこまで謝らなくてもいいわよ。ちょっとナゴムくん!長穂ちゃんを責めないで!」


「お、俺のせい??」


 ナゴムはたまげる。


「だって、ナゴムくんのせいにしとけば一見落着じゃない?」


「そうなのか?」


「そうよ」


「わかりましたよ、お姉様」


「はぁ?なにその言い方?感じ悪いんですけど?」


「それはそっちの受け取り方の問題だろ?」


「ちがう。言い方の問題よ」


「わかりましたよ、お姉様」


「お姉様って言うな!」


 長穂と糸緒莉のやりとりから一転、気がつけば糸緒莉とナゴムの子供じみたバトルが始まっていた。

 わーきゃー言い合うふたりを間近で眺めながら、

(仲良いなぁ......)

 と長穂は心の中で思った。

 そこには純粋に羨ましく思う気持ちと、それ以外のなにかが入り混じっていた。

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