ep23 あやかし飲み会①

【登場人物】

山田ナゴム・・・主人公。社会人三年目の会社員。正体は天狗のあやかし。

雲ケ畑糸緒莉・・・マッチングアプリで出会った会社員女性。正体は女郎蜘蛛のあやかし。

宮野首長穂・・・マッチングアプリで出会った書店員女性。正体はろくろっ首のあやかし。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 *


 某日。

 平日夜八時の駅前。


 仕事終わりの人々でワラワラにぎわう中、いつものスーツ姿にネクタイだけ外した山田ナゴムは、待ち合わせ時間よりだいぶ早く、集合場所に到着していた。

 言い出しっぺの責任感からだ。


「ちょっと早すぎたけど、俺が主催者だしな。メッセージ......は今送っちゃうとせかしちゃうよな。十分前までは控えるか」


 山田ナゴムは、こういうところで必要以上にマジメで、気遣い屋さんだった。


 集合時間十分前。


 ナゴムがメッセージを打とうとスマホを開いた時、待ち人のひとりが彼の前にうるわしく現れる。


「ナゴムくん」


 仕事終わりの、凛とした中にも可憐さを携える、スーツ姿の糸緒莉である。

 

「早いね、しおり」

「ナゴムくんこそ」


「まあ俺は三十分前に着いていたけどね」

「そうなの?言ってくれれば私ももっと早めに来たのに」


「いやそれは悪いし。それよりさ?」

「?」


 ナゴムは糸緒莉に一歩迫り、やや小声で話し始める。


「改めて......水希さんの俺への誤解、ちゃんと解けているよね?」


 糸緒莉はナゴムの目をじっと見ると、

「......ぷっ」

 と吹き出して、クスクス笑い出した。


「え?なにそのリアクション?どういう意味?」

 あわてふためく山田ナゴム。


「それ、そんなに気にしているの?」

「いやだって!」


「私本人が気にしていないんだから大丈夫よ?」

「チャラ男のイメージがつくのはちょっと......」


「まだ知り合ってそんなに経っていないけど、ナゴムくんがそういう人じゃないってことぐらいはわかるわよ?」


「でもこの前、チャラかしって言われたし」

「そんなこと言ったかしら?クスクス......」


「くっ!」

「ちゃんとミズキの誤解は解いてあるから大丈夫。あれから特になにも言ってきていないし」


 二人が会話していると、時間はすでに八時になっていた。 

 ナゴムがスマホを確認すると、メッセージは来ていない。

 

(急遽残業になったのかな?)


 と彼が思いかけた時、背の低い女性がひとり、ナゴムに向かってダッシュしていた。

 彼女の存在に糸緒莉が先に気づく。


「あのコ...」


 ナゴムも気づいて顔を向けると彼女は声を上げる。


「ナゴムさん!すいません!」


 スカート&シャツに上着を羽織った仕事あがりの彼女は、ふたりの所まで来て急停車し、膝に手を置いて肩で息をする。


「はぁ、はぁ。お、お待たせして、すすすいませんでした......」


「いやいや、まだ時間ぴったりだから!遅れてないから!」


「で、でも、お待たせしてしまいまして...」


「いいからいいから!そ、そうだ!長穂さん、こちらが例の、雲ヶ畑糸緒莉さん」


 ナゴムは長穂のマジメすぎる反省モードの空気を変えようと、さっそく糸緒莉の紹介をした。


「あっ、す、すいません!は、はじめまして!わたし、宮野首長穂と申します!よ、よろしくお願いします!」


 挨拶だか謝罪だかわからないお辞儀をペコペコして自己紹介をする長穂。

 そんな彼女を安心させるように、糸緒莉は実に穏やかに微笑んで応える。


「私は雲ヶ畑糸緒莉です。宮野首さん、今日はよろしくお願いしますね」


 この時、宮野首長穂は「はぁっ!」と、雷に打たれたような衝撃を受ける。


(こ、このひと......すすすすっごい美人さんだ!!)


 長穂は、初対面にも関わらず、糸緒莉の美しさに吸い込まれるように、真正面から糸緒莉のことをポ〜ッと見つめて魅入られてしまう。


「あの、長穂さん?」

 ナゴムの問いかけにも長穂は答えない。


 一方、糸緒莉は糸緒莉で、長穂をじっと見つめ返していた。


(えっ、なにこのコ......ちょーカワイイんだけど!)


 この瞬間、すでに糸緒莉と長穂の間に壁はなかった。

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