ep25 あやかし飲み会③
しばらく争っていたナゴムと糸緒莉は、ハッと気づいて、長穂に目を向ける。
「あ、な、なんかスンマセン...」
「なんかゴメン!長穂ちゃん...」
長穂はブンブン手を振って、
「い、いえいえ!全然だいじょうぶです!」
ニッコリ笑って見せた。
それから彼女は、ふと気になったことをふたりに尋ねる。
「あ、あの、そういえば......糸緒莉ちゃんとナゴムさんて、いつどこでどうやって知り合ったんですか??聞いていなかったから」
ナゴムと糸緒莉は(あっ...)という顔をして、互いに視線を交わし合い、目で会話する。
(な、なあ、糸緒莉。これって飲み会とかでいいのかな?)
(そ、そうね。でも、私はナゴムくんと長穂ちゃんがマッチングアプリで出会ったことを知っている。それなのに私とナゴムくんがマッチングアプリで出会ったことを隠すのって、なんかフェアじゃないような......)
(でも、本当のことを言うと俺がチャラい男だと思われないか?)
(そんなの知らないわよ!だったらナゴムくんの好きなようにして)
......と、ここまで正確な意思疎通がふたりの間で行われたのかはわからないが、長穂の質問にはナゴムが答えた。
「お、俺と糸緒莉は、共通の知り合いが開いた飲み会で知り合ったんだ」
「そ、そうなんですね。じゃあ、ふたりはどうやってお互いあやかしの正体を知ったんですか?」
意外にも鋭い質問をぶつける長穂。
「...!」
ナゴムは答えにつまる。
が、ここで黙るのは極めて不自然。
困った彼は糸緒莉をチラッと見る。
糸緒莉にもベストな回答が見つからなかったが、とりあえず何か言わなきゃと適当に切り出す。
「じ、実はね?その日、飲みすぎちゃった私を、ナゴムくんが送ってくれたの」
ナゴムは驚いた顔で糸緒莉を見た。
(え?なにを言うつもりなんだ......?)
糸緒莉がそう言ったのには理由がある。
それは、「飲み会」というワードから、先日のナゴムとの飲み会(という名の合コン)が頭に浮かんだからであった。
糸緒莉は続ける。
「詳しく説明すると......その日、みんなハシャギすぎて、終電がなくなっちゃったの。それで他のみんなは朝までカラオケ行くってなったんだけど、飲みすぎちゃった私はひとりでタクシーで帰ることになったのね。
その時、ナゴムくんが私について来てこう言ったの。
『俺が家まで送ります。空のタクシーで』
最初は何を言っているのか意味がわからなかったわ。
でも、ナゴムくんは私の腕を引っ張って人気のない所へ連れて行くの。
『え?何をする気なの?やめて!』
私は抵抗しようとした。
でも、ナゴムくんは路地裏に私を連れて行くなり、その姿形を、ヒトの姿のそれから、天狗の妖のそれへと変化させたの!
それから私をお姫様抱っこして、空高く舞い上がったわ!
夜空を飛行する天狗様に抱かれながら、私は言ったわ。
『貴方は、妖だったのね?でも、それは私も一緒よ』
そして私は天狗様の身体に女郎蜘蛛の糸を巻きつけたの。
『これで、落ちる心配はないわ』
それに対して天狗様はこう答えたの。
『落ちるのが心配です』
『え?どうして?』
『貴女への、恋に』
そう。これが私と、天狗様との出会い......」
糸緒莉の話が終わった。
静まりかえる三人。
ナゴムは口をあんぐり開けていた。
(えええ??お、おまえは、なにを言っとるんだぁ!?)
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