ep20 宮野首長穂③
さて......。
一部始終を眺めながら、ナゴムは唖然としていた。
長穂はなんにも気にしていない様子だが。
「あ、あの、長穂さんって......」
「え?あ、はい。わたし、ろくろっ首のあやかしなんです」
「あやかし、なんですか......」
「は、はい。そうですけど......?」
長穂は、ナゴムの顔色が明らかに変化したことを察知する。
しかも悪い意味で。
彼女は胸の底にイヤな締めつけを感じ、こらえきれずに尋ねる。
「あの、山田さん」
「は、はい」
「間違っていたら、失礼なんですけど、ひょっとして、なんですけど......」
「?」
「あやかしが、キライなんですか?」
「!」
「そ、そうなんですね!?」
「あっ、いや、ちがくて......!」
「な、なにが、どうちがうんですか!?」
「いや、その......!」
長穂は、嘆き悲しむような目で、哀訴するように問いかけた。
彼女のその様子に、ナゴムは自分の態度が酷く誤解を与えていることを理解する。
先ほどの壺とはまったく違う、差別的な意味での誤解を。
「長穂さん!そういうのじゃないんです!」
「じゃ、じゃあなんなんですか!?」
「俺、あやかしとの恋愛とかは、どうしてもイヤで......」
「や、やっぱり!あやかしなんか気持ち悪くてキライなんですね!」
「だからそれは違うんです!」
「どうちがうんですか!」
長穂は泣きそうな顔をしていた。
ついさっきまでナゴムに対し、
(このひと良さそう)
と好感を抱いていただけに、よほどショックだったと見える。
ナゴムは、言葉足らずで長穂を傷つけてしまったことを深く反省する。
(か、完全に失敗した。俺はバカだ......)
そして、悲憤に目を熱くする長穂の両の肩に両の手を添えた。
「長穂さん!」
「さ、さわらないでください!」
「俺の話を聞いてください!実は...」
「もうやめてください!」
「俺もあやかしなんです!」
「もういいかげん......へ??」
「だから!俺もあやかしなんです!」
「山田さんも、あやかし?」
「そうです!俺は天狗の妖です!」
「てんぐ、なんですか?」
「そうです!でも、俺は自分が妖であることを隠していて、それで、さっきは誤解させる言い方になっちゃって......本当にすいません!」
ナゴムが妖であることを告白し、長穂が落ち着きを取り戻したところで......彼は彼女にひととおりの説明をした。
自分がなぜ妖であることを隠し、なぜ妖と恋愛をしたくないのか。
「......ということなんです。なんか俺のせいでややこしくしちゃってホントにすいません」
「い、いえ、そんな!わたし、ホントに勘違いばっかで、今日のわたし、ホントに、サイアクですね......」
途端に長穂はズーンと落ち込んだ。
沈む彼女をナゴムは必死にフォローした。
しかし、彼自身も心の中ではズーンと落ち込んでいたので、あまりうまくいかなかった。
......そんな状態で駅までたどり着き、ふたりはわかれの時を迎える。
「......」
沈黙するふたり。
と思いきや、おもむろに長穂が切りだす。
「あ、あの!」
「は、はい」
「あらためて、なんですけど」
「?」
「山田さんは、あやかしがキライではないんですよね?」
「はい。実際、あやかしの友達もいますしね」
「あやかしのトモダチ!?」
「あ、はい。そんなに驚くことですか?」
「わたし、実は......あやかしのお友達、ひとりもいないんです」
「そ、そうなんですか?」
「たぶん、小さい頃から東京にいるから、なんですかね?あやかしの多くは地方に住んでいて、東京ではあやかし同士で関わることはあまりないって親も言ってましたけど」
「たしかに、俺も東京に来てからは妖と関わることは.....(あった。この前はじめて...)」
「だから、その......」
「はい?」
「わ、わたしと......」
「?」
「あやかし同士の、は、はじめてのお友達に、なってくれませんか?」
長穂はモジモジしながら、頬を赤らめて言った。
彼女の要望に、ナゴムは考えるまでもなかった。
答えはひとつしかない。
「もちろんです。俺でよければ」
ナゴムは長穂を安心させるようにやわらかく微笑んだ。
「はい!」
少女のような長穂の、心の底からの嬉しそうな笑顔が光った。
その時、午後の麗らかな風が、長穂の髪をやさしく撫でるようにそよいでいった。
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