ep21 糸緒莉の夜

 *


 山田ナゴムが宮野首長穂とランチデートを過ごした日の夜。


 雲ヶ畑糸緒莉は、スフェット姿で美しい長髪をベッドに横たえ、地元の友人のアケミとメッセージのやり取りをしていた。


『また天狗の山田くんとふたりして妖の力を使ったって!ほんでその後は山田くんがしーちゃんお持ち帰りしよーとしとると勘違いされて大変だったって!ホンマなんやねんな自分ら!トラブル続きやないかい!ウケるわ!』


『もとはと言えば、ナゴムくんと飲み会やれってアケミが言ってきたから、その結果こうなったのよ?』


『なに言うとんねん!やったのはしーちゃんの意思やろ?ウチは関係あらへんがな!』


『それを言われたら何も言えないけれど』


『ほんでも自分らホンマお似合いやで?』


『は?なんで?』


『ふたりが一緒になると必ずオモロいこと起こるやんか!退屈せんでええやん!』


『アケミ。アナタやっぱり、完全におもしろがってるわね』


『ウチも天狗の山田くんに会ってみたいわ!』


『ちょっ!』


『アカンの?嫉妬?』


『ちがう!本気で怒るわよ!』


『ジョーダンやてジョーダン!かんにんしたって!』


『もうっ!』


『でもしーちゃん』


『なあに?』


『少なくとも、ええトモダチにはなれるんちゃう?』


『ナゴムくんと?』


『ウチな?なんとなく心配しとったんや』


『?』


『しーちゃん、東京に出て就職してから、マジメに頑張りすぎてるんちゃうかなって。ずっと張りつめてるようなとこあるような気してて』


『そ、そうだったのかな』


『でも、天狗の山田くんと知り合ってから、今のしーちゃんにも良い意味で隙ができて、少しやわらかくなったような気するんよ』


『そうかな?ナゴムくんと知り合ってまだ間もないわよ?』


『間もないのに、よ』


『......』


『ウチは、ひたすらマジメに突っ走るしーちゃんも好きやけど、でもやっぱりしーちゃんには東京行っても笑って楽しんでてほしいから』


『アケミ......』


『てことで!天狗の山田くんとのエピソード3、期待して待っとるわ!』


『やっぱりオモシロがってるのね......でも、ありがとね、アケミ』


『にゃはは!ほんじゃウチはそろそろ寝るわ!』


『うん。おやすみ』


『おやすみぃ!』


 旧友とのやり取りを終えると......。


 糸緒莉はふと、あることを思い出す。


「そういえば......ナゴムくんって今日、マッチングアプリの女の子と会うって言ってたわよね?......」


 数秒間、彼女はスマホをぼんやりと眺めから、やにわにタタタタッとメッセージを打つ。

 それから糸緒莉はスマホを置くと、

「お風呂入らなくちゃ...」

 立ち上がり、バスルームに向かって歩きだそうとした。


 その時。


 ティロリン

 と、スマホの通知音が鳴った。

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