ep13 飲み会①
*
週末、金曜日。
某居酒屋、個室テーブル席にて。
社会人男女が四人ずつ、テーブルを挟んで顔を突き合わせていた。
「カンパ〜イ!」
はたから見ればいかにも合コンに見えるが、雲ヶ畑糸緒莉いわく、あくまで〔飲み会〕。
「ねえ山田くん」
「なに?」
端の席に着いた雲ヶ畑糸緒莉が正面の山田ナゴムへ話しかける。
「なんだかずいぶんとすんなり人も日時もお店も決まったわよね」
「うん。幹事としては助かったよ」
「それを言うなら私のほうこそ助かったわ。山田くんたち男性陣がほとんどこちらに合わせてくれたんだから」
「ま、まあ」
先週のこと......。
ナゴムは会社の同僚に、糸緒莉と計画している飲み会のことを話した。
その際、
「ちなみにそのしおりってコはどんな感じなの?」
と同僚から聞かれたナゴムが、
(勝手に見せたら悪いなぁ)
と思いながらも、
(マッチングアプリだとはわからないように......)
糸緒莉のプロフィール写真を彼らへほんの一瞬だけ見せたとき、
「...!」
社内に衝撃がはしる。
ナゴムは明らかに同僚たちの顔色が変わったことを悟り、
「ど、どうしたの?」
おそるおそる尋ねた。
彼らは次第にワナワナと震えだし、堰を切ったように騒ぎだす。
「めちゃくちゃカワイイじゃん!」
「そんなカワイイ子と合コンなんて、断る理由ないだろ!」
「山田!その合コンはいつなんだ!」
「いや、合コンじゃなくて、飲み会だから!」
「どっちでも変わらん!」
「ようは飲み会のたてつけで合コンするってことだろ!」
「山田!つまらない理屈をこねるな!」
「(まったくもってそのとおりなんだよな......けど)飲み会ってことでたのむ。じゃないとたぶん糸緒莉さんがイヤがるから...」
「じゃあ飲み会だ!」
「誰だ!合コンって言ったのは!」
「山田!合コンなんていかがわしい言葉は使うな!」
「コイツら......」
......という具合で、男性陣の意思は、完全にしおり率いる女性サイドに掌握され、すんなりと当日に至ったわけである。
場面は戻り......。
「オイ山田!おまえばっかり雲ヶ畑さんと喋るな!」
糸緒莉と話すナゴムに同僚がクレームをつける。
「いや、だってちょうど正面だから...」
「じゃあ席替えだ!」
「はやくね!?」
ナゴムは仕方なく反対サイドへ席を移ると、正面に座るセミロングの眼鏡女子:
「なんかバタバタしてスミマセン」
「ああ〜大丈夫ですよ〜。糸緒莉が飲み会に来るとよくあることですし」
「そうそう。あのコ、かなりモテるから」
隣の女性も話に加わってきた。
「そうなんですか?」
「そうもなにも、他部署からも糸緒莉に会いにくる人ケッコー多いんですよ」
「取引先にもいますよ」
「あの見た目で気も利いてコミュニケーションもしっかりしてるしね〜」
「そりゃあモテるよねぇ」
「でもあのコ、真面目でガード固いし、相手に変な気を持たせたりもしないように気をつけているみたいで、浮いたハナシは一切ないですよ」
「ああ見えて男っぽいところもあるしね。ちなみに同性にも人気あるんですよ。糸緒莉って」
ナゴムは、糸緒莉の同僚から糸緒莉の人物像を聞き、感心していた。
一方で、
(妖同士で協力しようってことではあったけど......ホントに俺の協力いるのか?)
疑問が浮かぶ。
そこへ、
「だから、糸緒莉から飲み会のハナシが来たときはちょっと驚いたよね〜」
「そうそう」
まさに今、ナゴムが気になっていることに繋がりそうなトピックが彼女たちから上がった。
ナゴムがすかさず尋ねる。
「糸緒莉さん、なにか言ってました?」
「なにか?いえ、飲み会やるから来ない?てことしか」
「それより山田さんは糸緒莉と何繋がりなんですか?」
「ええっと、たまたま、仕事関係の展示会で知り合って......(ぐらいな感じにしておこう。マッチングアプリとは言わないほうがいいよな)」
「へ〜でも、意外だよね」
「そうそう意外」
「?」
「糸緒莉ってモテるけど、男友達とツルんでるイメージってまったくないんですよ」
「とにかく仕事第一で、恋愛とかそういうものにはいっさい興味ないのかな〜って」
「飲み会も、仕事の付き合いで来てるってだけでね〜」
「だから山田さんは、そんな糸緒莉と友達ってどんな関係?ってちょっと気になりました」
結局......。
ナゴムの疑問は解決しなかった。
しかし、糸緒莉がいかにモテるかということだけはよく理解できた。
(わかってはいたけど、マジでモテるんだなぁ。あれで昔は地元でヤバい存在だったってのが信じられないな)
ナゴムは正面に座る茂原水希たちと会話しながら、横目でそれとなく糸緒莉の様子を眺めていた。
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