ep14 飲み会②

 ......時間は過ぎ、会計を済ませたころ。

 

 ナゴムがスマホ片手にお手洗いから出てくると、ちょうど同じタイミングで出てきた糸緒莉と通路でかち合った。


「あ、しおりさん」

「山田くん。今日はありがとね」


「いえいえこちらこそ。ところでさ?」

「なに?あ、その前に...」


「?」

「私のこと、さん付けしなくていいわよ?なんかよそよそしいじゃない」


「じゃあそうするよ(あれ?ガード固いって言ってたよな?それとこれとはまた別のハナシか?)」


「私も山田くんって呼ぶのやめていい?会社にも同じ名前のヒトがいてややこしいの」


「好きなように呼んでくださいな」 


「じゃあナゴムくん。ところで、なんなの?」


「あ、え〜と、なんでまた俺に飲み会やろうって話を振ってきたのかな〜て」


「すでに説明したじゃない?あやかし同士協力しあおうって」


「正直、俺の協力いる?しおり...めちゃくちゃモテるらしいじゃん」


「あ〜ミズキたちが言ってたのね。モテるっていうか......私ね?」

「?」


「完璧オンナなの」

「は?」


「会社ではそれで通っちゃってるの」

「はあ」


「だから会社関係のヒトの前では隙を見せられないのよねぇ」

「はあ...」


「真面目で清純でかつデキる女性のイメージを崩したくないの(ただでさえ地元では悪名高かったから......)」


「そ、そうなんだ...(なんか想定外の回答だぞ......)」


「でも、恋のひとつもしたいじゃない?女の子だもん、私」

「うん」


「東京に出てきてからは仕事ばっかで、会社以外の知り合いもいないし。そこでナゴムくんにお願いしたってわけ」


「で、今日はどうだった?ぶっちゃけたハナシ」


「みんな楽しいヒトたちね。ナゴムくんの会社は良さそうな職場だなって思ったわ」


「そ、そうですか(つまりダメだったって意味かな)」


「ナゴムくんの方こそどうだったのかしら?」


「俺?えっと、みなさんステキな方達でした」


「なにその回答?ミズキとかすごいモテるのよ?ナゴムくんって理想高いんじゃないの?」


「そ、そんなことはないよ」


「ふーん。そもそもナゴムくんって、どんな女の子がタイプなの?アプリのプロフで書いているようなのじゃなくて、本当のところのタイプ」


「それはまあ、可愛くて優しくて、一緒にいて楽しくて...」


「それプロフのと変わらないじゃないの」


「じゃ、じゃあ、糸緒莉はどうなんだよ?」


「白馬の王子様ね」 


「は??」


「いつの日か、私を迎えにきてくれる王子様が現れるのを待っているの」


 糸緒莉は祈るように両手を握り、無垢な少女のように目を輝かせた。


「す、少なくとも......マッチングアプリと飲み会(合コン)に現れることは確実にないと思うけど......」


 糸緒莉の返事はない。

 乙女の祈りは続いている。

 困ったナゴムはおそるおそる呼びかける。


「あ、あの〜糸緒莉さん......?」


「......ハッ!じょ、ジョーダンよジョーダン!」


「あ、ああ、だよな......あっ」


 ちょうど糸緒莉が正気を取り戻した時。

 ナゴムのスマホの画面に通知が表示される。


「ん?」


 彼はちょうど彼女の目に入る位置にスマホを抱えていたので、糸緒莉もなにげなく画面を見てしまう。


「その通知って......」

「あ、うん。あのアプリだよ」


「続けていたのね」

「まだ契約期間残ってるしな」


「で、また会うんだ?」

「え?まあ、うん(...なんだろ。なんか微妙に気マズイ感じするんだが......)」」


「いつ?」

「明日かな」


「ナゴムくんってさ」

「?」


「チャラいわね」

「は??」


「合コンの次の日に出会いアプリで知り合ったコとデートとか、チャラいんですけど!」


「いや待って!合コンじゃなく飲み会って言ってたのはしおりだよね??」


「私は実態のハナシをしているの」

「いやいやいや!」


「合コン中に出会いアプリのコとやりとりしてたとか、チャラいチャラいチャラい!」


「アナタと出会ったのも出会いアプリですけど!?あと合コン中には返信してない!」


「チャラかし」

「へ?」


「チャラいあやかしで、チャラかし。ナゴムくんのこと!」

「ヘンな命名すな!」


 唐突に勃発した謎のバトル。

 はたから見ればいかにも男女の痴話喧嘩。

 ふたりがギャーギャーやっていると、彼らの同僚たちがやって来る。


「おいおい何やってんだ?おふたりさんは」

「ちょっとしおり?」


 男性陣はナゴムを、女性陣は糸緒莉を、それぞれなだめる。

 とりあえず場がいったん落ち着くと、ナゴムは男性陣からいぶかしげな視線をぶつけられる。


「おい山田......」

「な、なに?」


「おまえまさか......実は糸緒莉さんとイイ仲ってことはないよな?」

「は?なんでそうなる?」


 一方、糸緒莉も女性陣から意味ありげな視線を向けられる。


「しおりって、ずいぶん山田さんと仲イイんだね〜?」

「は?どこが?言い合ってたんだけど?」


「その飾らない姿、会社の男どもにも見せてやりたいわ」

「どういう意味?」


 ナゴムも糸緒莉も釈然としないままだったが、

「じゃ、二次会のカラオケ行きますか!」

「お〜!」

 なんだかんだで盛り上がっていた他のメンバーとともに店を後にした。

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