第8話
四方山は意識が遠のくを感じた。
愉快そうにケタケタと笑う田村に、どうして、と呟く。
「お花さん、見てよ、四方山がみっともなく倒れてるよ」
うっとりとした声でそう言った田村は、続いて声を高めにして言った。
「すごいわ、田村君! これで四方山さんに苦しめられることはもうないわね」
「……え?」
四方山さんは息も絶え絶えになりながら田村を見上げる。
田村の目は爛々と輝いていて、血管がバキバキと浮いていた。
まるで正気ではない。そして。
「さぁ、とどめをさしてやりましょう田村君!」
「うんお花さん!」
一人二役で話している)。この場にいない誰かの声を、自分自身の声帯で代弁している。
田村は四方山に馬乗りになると、包丁を両手で持ち、四方山の胸の上で振り上げた。
四方山は目を瞑る。恐怖と、混乱と、そして田村への愛情が混然一体となった感情が、四方山に抵抗をさせなかった。
四方山の意識はそこで途切れた。
四方山の耳は最後に、「お花さん、お花さん」「田村君、田村君」と繰り返される言葉を拾っていた。
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