第2話

アサヒ、アキチ    前回のあらすじ!


アサヒ    万年4位でもう期待さえされないちびっ子ちゃん、本気で1位を目指すなんて有り得ない話。笑え!それでも私はやってやる

アキチ    有り得ない、できるわけがない。でも、昔からそんなことを当たり前のように成し遂げる君だった。そう、君は当たり前ではないことを当たり前のように見せたかったんだ。


アサヒ    だから聞いてほしい

アキチ    「できる」という現象は

アサヒ    「できる」と思ったらいつでもそうなり得るということを、

アキチ    前を見て走るだけで大抵のことはなんともなくなるってことを、

アキチ    君は、

アサヒ    君は、

アキチ    僕は…!


場面転換

~アサヒの部屋


アサヒ    よっし!そしたら寝よう!夢の中にIN~




アサヒ    だからね、横浜に遊びに行ってきたの。羅針盤を持ってね。羅針盤の赤いやつが指す方にずっと進んだら、なんと!

アキチ    なんと?

アサヒ    出てきたの、化物が!

アキチ    いやいや横浜にそんなものあるか

アサヒ    あったの!

アキチ    噓すんなって~

アサヒ    噓じゃない!この目でハッキリ見たからね。



アサヒ    …じゃあね、いつか一緒に見に行こう

アキチ    横浜?

アサヒ    連れてってあげる。私が見たもの、私が見た景色、私の羅針盤が指したその先。

アキチ    そう…そっか。いつか、いつかね。

アサヒ    うん、きっと、見せてあげるから

アキチ    楽しみにするよ…君は本当に不思議だな

アサヒ    そう、不思議な国から来たの!


アサヒ、アキチ、自分の部屋で目覚める


アサヒ    そう、私が見た全てが…

アキチ    そう、君の見せたい世界が

アサヒ、アキチ    そこにあるんだ


朝陽が、ビル街の中で上がってくるのを、二人は眺めるだけだった


視点変換


アサヒ    これもしかしてデート誘ってみろという夢なのか?


場面転換


アサヒ    動物園!ああ~来てみたかったんだ!

アキチ    そんなに?

アサヒ    うん!こんなに色々見れるなんて素敵!…ありがとね。

アキチ    子供かよ

アサヒ    今日くらいは子供でいいの~

アキチ    陸上の女王様も子供の心というのが残っていたってことか

アサヒ    こんな時にゆっくりになれるのが成功の秘訣!

アキチ    本当か?

アサヒ    本当よ!この日のために我慢していたのもあるからね

アキチ    我慢していた…?


~動物園の人形ショップ。


アサヒ    もっふもっふだ!


アサヒ、笑顔で人形を抱きしめる、巨大な人形。


アサヒ    これ買って!

アキチ    中に入れそう…

アサヒ    そこかよ!見ろ!このもふもふ&ふわふわを!(アキチに押し付ける)


アサヒ、殴られる


笑顔のアサヒ、兎人形を持って帰り道、頭にたんこぶ。


アサヒ    えへへ~

アキチ    ごめん、やりすぎたかも。あたま悪くなってない…?

アサヒ    ふふ、まだ分からないようだな

アキチ    ?

アサヒ    この子のパワーで癒しているわけ、つまり無敵!可愛いしか勝たん!

アキチ    あ。そう。(グーをかざす)


アサヒ、兎人形を盾にして隠れる、笑う二人


アサヒ    幸せに満ちた日常、もう戻らなくてもいいと思うほど、甘い一瞬だった。

アキチ    そんな日常が続いてほしかった、子供のように無邪気に笑う君を見てそれだけでいいと思った、君が傷つかないように守ってあげたかった

アサヒ    それでも私は、証明しなければならない。何もできず何ものにもなれなかった、私と同じ、彼らに見せたい世界があるんだ。

アキチ    分かっている、勝手なエゴ、君には傷だらけになりながら勝ちとりたいと夢見る。もしその夢を叶えられる人がいるとしたら、それはきっと、君しかないだろう。

アサヒ    だから


アキチ    君を守るため

アサヒ    世界を変えるため


アサヒ、アキチ    私は(僕は)止まっているわけにはいかない


場面転換

ある日の雑談


アキチ    東京で一番早い女子高校だから、もう幸せになっていいんじゃない?

アサヒ    優勝したのは一回だけだからね?私の本筋はここからよ。これからも勝って勝って勝ち続けて、日本で一番、世界で一番になるから!


アキチ    その時、僕は今のままでいいと言ってあげたかった。そんなに頑張らなくてもいい、諦めてもいい、遊んで楽しく過ごすだけでいいと…


アサヒ    だからね、一緒に見に行こう?不可能が可能になるその瞬間を。

アキチ    そう、それで君が幸せなら、僕は…


次の日、記者との出会い


記者     特集番組で、夢に向かって走る青春を撮ろうとしていますが、第一篇のスタートを話題の北条アサヒさんに任せたいと思います。

アサヒ    はい、任せてください!

記者     いいですね!素敵なスタートダッシュになりそうです。


アサヒ     なにしたらいいんですか?

ディレクター  なんでもいい!良かったところだけカットして作るもんだからガンガン行こう!

アサヒ     了解です!

アキチ     そしてインタビューみのような撮影が始まった。時には走ったりトレーニングしたり学校の紹介をしたり、時々日常パートが入ったけど、彼女の夢を形にしていく作業だった。


~カット1


アサヒ    ずっと、ずっと、私は言いたかったんだ。それで満足か?それで終わっても、なにものにもなれないまま死んでも、誰の心にも残ることができないままずっと一人で、誰も信じれない毎日でいいのか、それを疑って、声を出して、自分に、みんなに言いたかったんだ。


~カット2


アサヒ    なにもできないまま、ただただ時間だけが過ぎていって、いつの間にか大人になって、大人になったと思えなくて、私が見たかった未来は、私が憧れた大人は、こんなものじゃないって、自分の足の甲を見るばかり、前に進むことなんてありゃしないと自分のことすら信じれずにただただ立ち止まっている奴に、大人なんていうな。私はまだ、まだ終わってない。


~カット3


アサヒ    でも彼が教えてくれたんです。その言葉をずっと信じて、その言葉を力に変えて、走り続ける、走り続けて、立派な姿でまた彼と会いたい。自分の可能性を信じてくれた彼にその先の私を見せたい。そう思ったから、ここまで頑張ってこれました。


~カット4


アサヒ    どん底まで落ちたと思いました。辛くて辛くて、毎日を生きるのが精一杯で、そしてそれすらできなくなるほど絶望の海の中に、深く深く落ち込んでいました。しかし、そんな絶望の中でも忘れられない言葉がありました。忘れてはいけない言葉がありました。昔の友達が教えてくれた言葉です。「走れ!」という、単純な言葉。それでも私はそれに救われました。その言葉が支えてくれたから、私は今まで走ることができました。だから昔の私のように絶望に落ちている方々にこう伝えたかったです。絶望という暗闇の中でも…そんな闇の中だからこそ、希望は輝きます。いつか貴方が絶望の海に落ちている時、暗い闇の中に一人だと思い込んでいる時、希望の太陽は上がってきます。そこに向いて走る限り、いつかきっと、明るい未来に進んでいける。私はそう思います。そうやってここまで来ました。

…そしてこの言葉が、あなたが新しい一歩を踏み出せるようなスターティングブロックになりますように。心の底からそう願っております。


TVディレクター    カット!


TVディレクターの「カット」と一緒に、カーテンコールのように暗転しながら両サイドからカーテンが閉じられる。その後、一瞬でカーテンが開かれ、舞台の真ん中にアサヒが立っている。そこにスポットライトが入る。


アサヒ    そして物語は終わる。少年と少女が救い救われる、希望に満ちた幸せに満ちた愛し合う二人の、怖くても明日に踏み出す小さな一歩、それでずっとずっと、何があってもこの二人は互いを支えながら幸せに生きて行くんだ、と思うほどの瞬間。そこで物語は終わるんだ。しかし、物語は終わっても、私たちは、生きて行く。


手で目を抑えているアキチ、失明する。



アサヒ    それが泥まみれの現実であろうとしても。

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