第28話 嵐からの帰還
「……うん?」
見慣れない天井にチャーリーは眼をしばたたいた。
自分はいつの間に眠っていたのだろう?
しかも布張りの一人椅子をわざわざつなぎ合わせた簡易ベッドの上で。
「あ、眼さめたー?」
軽やかな声が頭上ではじけた。
「オリビアちゃん……?」
「そうよ~。調子はどう?どこか痛いとことかない?」
「あ、だいじょうぶです……」
こたえながらのっそりと体を起こすチャーリー。
かすかに古い紙のにおいがただよう地下の部屋を見回す。まだ頭がふわふわした。
隣にちょこんと座ったオリビアが、ひたいをくっつけて「うん、熱もなさそうね」と告げた。
「それはそうと、チャーリー」
「はい?」
「ごめんなさいっ!」
パンッと小さい手をあわせて頭を下げるオリビアにチャーリーはぱちぱちとまばたいた。
「え?え?どうしたんですか、オリビアちゃん」
「アタシってば、ずっとチャーリーのこと男の子だって勘違いしていたの~!」
「つーかいえよな、そういうことは」
バツの悪そうな顔でぼやくアレクに「アンタもあやまんなさいよね!」とオリビアがかみつく。
(あー……)
無精をした自覚のあるメガネ絵描きは申し訳なさげに後頭部をぽりぽりとかいた。
ふと、ずっとかぶっていたキャスケットがないことに気づく。
ローテーブルを見ると、丸メガネと帽子がつつましく並んでいた。
ゆったりと肩にかかる赤茶のやわらかい髪に、印象をあいまいにするメガネを外してしまえば、チャーリーはどこからどう見ても妙齢の娘だった。
「いやあ……いうタイミングをなくしちゃって。あの、こういうの自分慣れてるんで、全然気にしてませんから。むしろ、まぎわらしい格好ですいません」
「チャーリーはあやまらなくていいのよ!」
「そうだぞ、あやまんな。もとよりない立つ瀬がさらになくなんだろ」
「言い方~!」
気絶したチャーリーをおぶって帰ろうとしたアレクが勘違いに気づいたのだという話であったが、むしろおんぶさせてしまったという事実にチャーリーの顔から血の気が引く。
「た、大変お手数をおかけしまして……っ」
「そこは気にすんのかよ」
お前の基準がよくわからん、とアレクがあきれた顔をする。
聞くところによると、ボールドウィン室長は最初からチャーリーが女性だと気づいていたらしい。のほほんと見えて、なかなかあなどれない眼力のちょび髭紳士である。
「そういえば室長さんは……?」
「室長ならちょっと外出てくるっていって出てったわよ」
「なるほど……」
塩辛い波のあいだをただようように、ゆらゆらと、意識がまださだまらない。
(そうだ……私、なんで気を失ったんだっけ……?)
ハタ、とチャーリーが顔をあげる。
なにを見たのか、なにが自分の身におきたのか ―――――― ルーシーになにがあったのか。
覚醒した脳に怒涛の勢いで流れ込んできた鮮烈な記憶に、チャーリーは音をたてて立ち上がった。
「る、ルーシーさんはっ!?結界はっ!?銃声がして、核が砕けて、それから ―――― ……っ!」
「あ~、はいはい。混乱するのはよくわかるわ。だから落ち着いて、座って座って」
どうどう、とオリビアになだめられてチャーリーはゆっくり腰を下ろした。
「まず最初にいうけど、ルーシーに憑いてた魔女の残滓は無事破壊できたわ」
こわばったチャーリーの肩をやさしくさする。
「ルーシーはちゃんと生きてるわよ」
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