第7話

 

灰崎の一撃が機獣と交差する少し前。灰崎の後方、虚ろに存在していた少女に動きがあった。

 機獣から放たれた弾幕が、少女の近くに着弾する。その音に呼応したように、少女は、ゆっくりと立ち上がった。

 少女は、一点を見つめていた。

彼女の目に映るものは、己の何倍もの巨体を持つ化け物に挑む、少年の姿であった。

 少年の体が悲鳴を上げている。少女には、なぜかそれが理解できた。

 なぜ、こんなにもボロボロになりながら、彼は戦っているのだろうか。

 勝てるはずがないのに。今にも彼の体は、内側の力に押し負けて弾けてしまいそうだ。

 

ふと、少女は立ち止まる。

直後、彼から流れ出る力が、右腕に集中していく。

 ——あぁ。

 このままだとダメだ。彼の腕は持たない。間違いなく限界だ。

——それに……、今の力では、まだ足りない。

溢れ出る力の全てを凝縮できたとしても、それでもきっとまだ足りない。そんな予感が少女を襲う。

鼓動が早い。以前にも、こんなことがあった気がする。

まるで、自分が自分でないような。なぜか酷く、息が詰まる感覚。


——でも、きっと自分には関係ない。少年が己の力に耐え切れず倒れようが、化け物の牙で真っ二つにされようが、自分には関係ない。

少女は欠けている。だから少女は、何も思わないし、何も感じない。



——そのはずだ。そのはずなのに、彼から目を離すことが出来ない。彼を見捨てることがどうしても苦痛で仕方がない。胸の奥が苦しくて気持ちが悪い。

この感覚は、初めてだ。

少女は少し考える。

——あぁ、そうか。私はどうしようもなく未完成だった。これぐらいの不規則(イレギュラー)はきっとある。なら、早く楽になろう。


少女はそう納得し、少年に手を伸ばす。

直後、少年の右腕を小さな光が包み込む。

まるで蛍火のような優しい光が、少年の右腕に触れては消えていく。

 そのことに、少年が気づく様子はない。

 

すべての光が消え去ると、少女はへたりと座り込んだ。

 ——あぁ、疲れた。でも、もう安心だ。

 

そう小さく唱え、少女はそっと目を閉じた。


少女は気づかない。

自分が今、安心という言葉を口にしたことを。

その言葉は、以前の少女から出るはずない言葉であることを。

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