第7話
8
灰崎の一撃が機獣と交差する少し前。灰崎の後方、虚ろに存在していた少女に動きがあった。
機獣から放たれた弾幕が、少女の近くに着弾する。その音に呼応したように、少女は、ゆっくりと立ち上がった。
少女は、一点を見つめていた。
彼女の目に映るものは、己の何倍もの巨体を持つ化け物に挑む、少年の姿であった。
少年の体が悲鳴を上げている。少女には、なぜかそれが理解できた。
なぜ、こんなにもボロボロになりながら、彼は戦っているのだろうか。
勝てるはずがないのに。今にも彼の体は、内側の力に押し負けて弾けてしまいそうだ。
ふと、少女は立ち止まる。
直後、彼から流れ出る力が、右腕に集中していく。
——あぁ。
このままだとダメだ。彼の腕は持たない。間違いなく限界だ。
——それに……、今の力では、まだ足りない。
溢れ出る力の全てを凝縮できたとしても、それでもきっとまだ足りない。そんな予感が少女を襲う。
鼓動が早い。以前にも、こんなことがあった気がする。
まるで、自分が自分でないような。なぜか酷く、息が詰まる感覚。
——でも、きっと自分には関係ない。少年が己の力に耐え切れず倒れようが、化け物の牙で真っ二つにされようが、自分には関係ない。
少女は欠けている。だから少女は、何も思わないし、何も感じない。
——そのはずだ。そのはずなのに、彼から目を離すことが出来ない。彼を見捨てることがどうしても苦痛で仕方がない。胸の奥が苦しくて気持ちが悪い。
この感覚は、初めてだ。
少女は少し考える。
——あぁ、そうか。私はどうしようもなく未完成だった。これぐらいの不規則(イレギュラー)はきっとある。なら、早く楽になろう。
少女はそう納得し、少年に手を伸ばす。
直後、少年の右腕を小さな光が包み込む。
まるで蛍火のような優しい光が、少年の右腕に触れては消えていく。
そのことに、少年が気づく様子はない。
すべての光が消え去ると、少女はへたりと座り込んだ。
——あぁ、疲れた。でも、もう安心だ。
そう小さく唱え、少女はそっと目を閉じた。
少女は気づかない。
自分が今、安心という言葉を口にしたことを。
その言葉は、以前の少女から出るはずない言葉であることを。
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