第4話 

此処はどこだろうか。

いつから此処にいたのだろうか。

まるで、水中に漂う、行き場のない藻屑のような、

輪郭だけで中身は空っぽな、

そんな泡沫のような感覚。

どこから此処へ来たのか。なぜ此処に辿り着いたのか。

何も思い出せない。

そもそも、自分に過去があったのか。

それすらも曖昧で。

すごく恐ろしいことのはずなのに、なぜか心は落ち着いていて。

まるで感情が抜け落ちたみたいに不自然で。

ひどく、不思議な感覚だ。

ふと、自分の感覚に疑問を覚える。

感情って何だっけ。

言葉の意味は知っている。

……だけど、私はそれを持ったことがあっただろうか。


——あぁ、そうか。私には、圧倒的にそれが欠けている。

だから、こんなに落ち着いていられる。

私という自分が、少し分かった気がした。


——音がする。

地面を揺らす音がする。此処はずっと静かだったのに。

 音が、欠けてる私を呼び覚ます。

 本当は起きたくないのに、此処から動きたくないのに。

 狭くて落ち着くこの場所から。

 動くべきではないはずなのに。

 ……それでも、私を呼んでる音(こえ)がする。

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