第66話 見えないエイリアンが朱宇たちを襲う!?

「コマンダー、敵の指揮官を分断しました」


 低い声の方を見上げると、そこには通路側の扉が見て取れた。

 扉の制御パネルはロックされ、赤いランプが灯っている。その前には、血でかたどられた腕が見えた。だが一拍置くと、そいつは空気に溶けて消えていった。


 奇兵級――それもこのステルス性能はステージ4よ……!


 動体探知器にも熱探知器にも引っかからない。その上、一定の大きさのものを触れているだけで透明に出来るという暗器的な能力まである厄介な個体。でも動揺はしない。状況を見極め、対処しなくちゃ朱宇くんを護れないから――


『クレーメア1! クレーメア1! 扉がロックされた、そちらの状況は……!?』


 扉の外にいる部下からの通信に、私は冷静に指示を返す。


「奇兵級ステージ4を確認したわ。けれど位置を把握できない。別ルートで撤収するわ」

『了解。幸運を……』 

「うっ、うぅ……」

「朱宇くん逃げるわよ……!」


 蹲ったまま動けないでいる朱宇くんを脇に抱え、私は通路を駆け出した。

 見えないというだけでも厄介なのに偏光アーマーを易々と引き裂く高周波の爪。けれど奇兵級は接近戦特化のVICSよ。十分距離をとればたいしたことはないはずだわ!

 その私の考えは正しかった。背中をエネルギーガンでちくちく撃たれるだけで激しい追撃はない。ただ曲がり角に差し掛かったところで動体探知器に二ダースほど反応があった。


 敵……っ! もう迎撃態勢を整えたの……!?


 ばっと飛び出しながら片手で荷電粒子機関銃を撃つ。そのプラズマの弾幕にステンドガンのガラス片が交差した。身体を捻って朱宇くんを庇いながら通路を挟んだT字路の向こう側に入る。

 全員スワームだった。やっぱり階にも相当な数がいる。全て複製体、だから私の弾幕に怯むことなく詰めてくる。

 私は壁際に身を隠したまま足音がする方向に撃ち続けた。金属が蒸発し、有毒な煙が通路を満たし始めた。


「ごほっごほっ――がっ、ごほっごほっ!」

「煙を吸っちゃダメ、移動するからつかまって……!」


 再び朱宇くんを抱えて通路を駆ける。しかしどの角も曲がると、当然のようにスワームがいた。これじゃあジリ貧よ。スーツのシールドに任せて強引に突破することも出来るけど、そんなことしたらきっと朱宇くんがもたない。だから今は迂回し続けるしか――でも……。


「このままじゃ囲まれるのも時間の問題ね」

「マリーさん、これを……!」


 朱宇くんが端末を叩き、私のデバイスに送信した。視界の左端に光点やエネルギーサインを示す黄色いマーカーだけだったマップに光のラインが追加された。

 マッピングソフトで作ったお手製のマップじゃない。ありがたいわ。これがあれば効果的に立ち回れる。出口は他の階層を見てある程度把握していたけど、細かな通路の情報と装甲服の複合センサーがあれば、不意を突かれることはないでしょう。


「お手柄よ。よくここまで詳細に記録できたわね」

「へへっ、まあ教えてくれた先生が良かったですから」

「こんな時に。もう、この子ったら……」


 朱宇くんの声は少し震えていた。当然よ。プラズマやステンドガンのガラス片が飛び交い、それにさっきは目の前で隊員が奇兵級に刺し殺されたのだから。普通の子供ならそれだけで腰を抜かして泣き叫んでいたでしょう。けれど朱宇くんは怯えながらも機転をきかせて私をサポートしてくれた。


 これに保護者の自分が応えないでどうするの! 絶対にこの子を無事に連れ帰る。それが軍人であり親代わりでもある私の責務よ!


 そんな私の決心を否定するように、スワームがどこからともなくわいて出てきて邪魔をする。いくら通路を折れても奴は必ずそこにいる。倒しても倒してもきりがない。

 その時、荷電粒子機関銃に何発かのガラス片が命中し、機関部に深く刺さった。機関銃から火花が散り、発射機構が完全に破壊された。私は迷わずそれを投げ捨て、背中の武装ラックから高周波ブレイドを引き抜くと手近なドアを素早く切りつけた。大まかに三角を描くように切れ込みが入った鋼板を蹴り破り、部屋に飛び込みながら蓋でもするように背面の個人誘導弾システムに指令を飛ばす。


「アルムA2! 発射ファイア!」


 四発のアクティブアローがばら撒かれ、通路の両側で爆発した。スワームが吹き飛ばされ、激しく金属を打ちつけるような音が壁越しに聞こえた。ぱらぱらと破片が舞い落ち、少し離れたところから響き続ける足音を曖昧にした。



(次回に続く)

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