第65話 相手は無限に増殖するぞ……どうする!? マリー!
すでにスペクトル分析でこの先の階層が開けた空間だと分かっていた。
そこで私――マリーはビーコンから離れた位置を部下に反物質砲で破壊するように指示を出していた。
「シャノンちゃん……! 朱宇くんも……!?」
二分ほど前にビーコンの反応をキャッチし、それが逃げるように移動していたから急いで駆けつけてみると、まさか朱宇くんたちが二人とも揃っているなんて。
これは良いニュースよ。
けれど喜んでばかりはいられない。前方の通路からはステージ3の歩兵級が格納ベイに入ってこようとしている。そして私たちが降りてきた穴の開いた天井からはスワームの複製体を抑えてくれている後衛チームのライフルが火を噴いていた。
「保護対象を二名確認。確保後、ただちに撤収ポイントへ向かって」
私は地下に突入した中隊の通信チャンネルを開いてそう命じると、数名の隊員とともに二人に駆け寄りながら荷電粒子機関銃で弾幕を張った。
私のプラズマ弾が命中し、間抜けにも前進してきた哀れな歩兵級が四人倒れ、他の敵兵は扉の縁に身を隠したままライフルだけ出してデタラメにプラズマ弾をばら撒いてきた。幸い壁際に蹲っていた朱宇くんたちに流れ弾は届いていないけどこのまま撃たせるわけにもいかない。私は通路に向けて最後の手榴弾を投げた。
驚きの声が響き、歩兵級が慌てて身をそらした。その直後、爆発で青白い通路に無数の破片が突き刺さり、通路からの射撃が止んだ。
「もう大丈夫よ、二人とも」
「まさかマリーさんが直接助けに来てくれるなんて……」
「それよりこの先に異常なエネルギーサインが。奴らはハイチャリティの遺産と言ってました」
朱宇くんがほっと胸をなでおろし、その横で冷静に報告するシャノンちゃん。どうやら二人とも負傷していないようね。よかった。私は彼らの無事を喜びながら頷いた。
「そのサインならこっちも把握してたけど、ハイチャリティって……」
それなりの階級にいる私はその単語の意味を知っていた。
弧峰市の件での調査レポートや
いや、それよりも。
私はその遺産に一つだけ心当たりがあった。スワームの異常な複製能力よ。本来彼にそんな能力はないはずなのにあの増殖は、どう考えてもおかしいわ。
「その反応があったのはいつなの?」
「十数分前だと思います」
シャノンちゃんがそう答えると、私の背筋に冷たいモノが走った。
「ウソ……たったそれだけの時間でここまで……」
想像するだけでも恐ろしい。もし無尽蔵に増え続けるような装置なら数日後には何十万、いえ――下手をしたらもっと大勢のスワームがこの場所を埋め尽くすことになるでしょう。
部隊をまとめて強襲をかけるべきかしら……?
そう思うけど、何が待っているかもこの階の正確なマップ情報も何もない現状でそんなことをすれば大勢の犠牲者が出るでしょう。すでに降下や基地内の捜索で死傷者が何十人も出ている。果たして達成できるのかしら? ここはやっぱり、一度基地に戻って作戦を練り直したほうが――
『クレーメア1、そろそろ支えきれません。スワームがどんどん増えて――くそっ、このままでは押し切られます……!』
切羽詰まった報告が通信機に響いた。一階上の通路で戦ってる部下からだ。
もう考えている時間はないようね……。
「撤収するわ。二人を運んで」
「了解。さあ、しっかり捕まって」
一人の隊員がシャノンちゃんを抱きかかえ、天井の開口部に向かう。朱宇くんの方にも隊員が近づき、黒い装甲服が屈んだ。
――ギリッ……。
金属が擦れる音。一瞬隊員が屈んだから聞こえたのかと思った。けれど音の方向がわずかに右に寄っていた。
「ぐ――ガ……ッ!」
朱宇くんを運ぼうとしていた隊員が突然床に沈み、喉を詰まらせたような声を漏らした。倒れた隊員の上に何かがいる。透明で、けれど部下の血を吸って爪のようなものが赤いシルエットとなって見えている。
「朱宇くん……!」
私は咄嗟に朱宇くんを抱き寄せた。
その強張った身体が胸のプレートに触れた瞬間、車に跳ねられたような衝撃が肩を襲い、あっさりと吹き飛ばされた。朱宇くんを守るように身体を丸め、何度か床を転がった。
どんっと壁にぶつかってようやく止まると、分厚い扉が閉まる音が一拍遅れて聞こえてきた。
(次回に続く)
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