第62話 近未来的火器が繰り出されるハイスピードSFバトル、ここにあり!

 周囲の樹冠や草むらが勢い良く揺れ、地上に降りた部下たちが各々指定された地点へ移動し始めた。

 けれど敵も簡単には行かせてくれない。まるで空と地面が反転したかのようにプラズマの雨が下から上に降り注ぐ。そのうち何発かは私のアーマーに当たり、エネルギーシールドをちらつかせていた。視界上のシールドゲージが徐々に減っていく。

 動体探知器は敵を示す赤い光点だらけ。だから網膜ディスプレイ上の四角い戦術マーカーを頼りに薄暗い山の中を低空で飛ぶ。私に続く二個分隊が応戦し、多少は攻撃の手が弱まったけど、それでもプラズマは葉を、枝を、装甲服を焼いた。


 ピピピピピ、とシールドゲージの残量が危険なほど低下している警告が聞こえ出した時、緩やかな傾斜にプラズマタレットが飛び出ているのが見えた。

 私は飛行速度を一切緩めずその陣地に身を投げた。口を大きく開け、吠えながらライフルを構えようとするふたりの歩兵級に擦れ違いざまにプラズマスラッグ弾を撃ち込み、着地と同時にぱっとタレットの影に飛び入った。そこにいた歩兵級ステージ3を蹴り飛ばし、私は銃口を向ける。ガンッと滑らかなタレットの基部に頭を打ちつけ、動かなくなった歩兵級をプラズマで焼き、その後ろにあるタレットのパワーユニットもドロドロに溶かした。

 通電が切れ、色を失ったタレットに背を預けてシールドが再充電されるのを待つ。私のシールドゲージが満タンになる間、銃弾が周囲の歩兵級を駆逐していった。

 そして通信チャンネルに目標を撃破したという報告が次々と舞い込み、戦術マーカーが全て消えた。


 この短時間でよくやってくれたわ。


 第一陣として私と一緒に降りてきた第一中隊。偵察や情報支援が彼らの役割だけど、さっきのプラズマタレットのように臨機応変な対応ができるのも彼らの特徴だった。

 樹冠を抉り、空から合金製の箱が降ってきた。地面に私の脛辺りまでめり込ませると、蓋がばんっと吹き飛び、中から装甲服を着た隊員たちが出てくる。その手には機関銃やもっと強力なランチャーを携えていた。

 ここからは、攻撃部隊の彼ら第二中隊の出番だ。


「まりりん、着陸ゾーンLZ確保ご苦労様」


 その部隊の指揮官は一見頼りなく見える小柄な少女だった。肩までの赤毛を揺らし、木の上でくすりと笑っている。

 クレアだわ。ダークレッドにカラーリングされたアーマーの下に黒い強化服を着ているけどヘルメットを被ってないように見える。これは私と同じ鼻から上を露出させたタイプのもので、シールド機能が完全に停止した時や生命維持に必要な時のみ首のフレームからヘルメットが展開される仕組みになっている。急所である頭を出した危なっかしいデザインだけど、生体デバイスの脳波をバトルスーツやそれに付随する装備と互換性を持たせるには必要な仕様だった。


「クレーメア2、いいところに。そこにいるってことは――」

「うん、ポッド捨てて出てきた。私の装備は機材が少ないからね、全部身体についてるし」

「だったら現状は分かってるわよね、クレーメア2?」

「了解。地上のステージ4以上のVICSを優先的に排除する」


 私が口にせずとも命令を理解し、クレアがくるりと背を向けた。その背面には、四基の機動ポッドが翼のように収まっていた。それを周囲に展開させ、ドローンを飛ばすように夜の山の中を先行させ、歩兵級にレーザーを浴びせていく。

 そしてクレア自身は大口径の電磁ライフルを撃った。木々に身を潜めた歩兵級を樹幹ごと電磁高速弾で撃ち抜いた。地上はクレアと第二中隊、後続の第三中隊がいれば事足りるでしょう。


 問題はこの下に広がっているはずの地下施設だけど――


 と、そこで私の視界に新たな情報がマーキングされた。部下が入り口を発見した信号よ。

 すぐにそちらに向かったけど、入り口と思われる盛り上がったトンネルのようなモノが見えると部下の一人がおかしなことを言い始めた。


『スワームを確認……! 何人もいるぞ……!』

 確かにいるわ。藍色の装甲服を着たスワームが何体も木々に合間からステンドガンを撃ってきている。

「こっちも視認したわ。ホログラムの陽動の可能性があるから、どれが実体か割り出して――」

 その時、何人かの銃弾が木々や斜面にいる藍色のアーマーに着弾した。火花を上げてつんのめるように土に沈み、数秒してから光の砂になって溶け消えた。


『こいつらホログラムじゃない!? 弾があたった! 全部実体があるぞ!』


 部下が瞠目するのをよそに、私は通信ウインドウを開いた。


「クレーメア1から2へ。軽砲兵小隊をこっちに回して、入り口が詰まっているの」

『了解――奴らのピンホールをガバガバにしろとのお達しが来たよ。行ってあげて』


 すぐ傍に軽歩兵小隊がいたのか、クレアが顎で使うように指示を出した。

 データリンクを見るとクレアの後方はすでに敵の反応は消えていた。物凄い殲滅速度だわ。クレアの部隊がいれば地上は問題なく片付けられるでしょう。でもトンネルから次々と湧いては銃弾に倒れ、また湧いては倒れを繰り返しているスワームがこのまま出続けていると長期戦になる。そうなったら朱宇くんたちの生存率も時間が経つにつれてどんどん低くなってしまう。

 早く決着をつけないといけないわ、と思いながら私が牽制射撃を続けていると、軽砲兵小隊の反物質砲がトンネルを舐め取った。対消滅の光が収束し、物体を光の粒に変え、強烈な光が瞬いた。


「よし開けた! 中隊各員、私に続けェェェ!」


 私は大きく口を開けたトンネルに飛び込んだ。

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