第61話 降下作戦開始! エイリアンの拠点を制圧せよ!

 NOX基準の突入プロトコルに則り、私の率いるクレーメア大隊は深夜の空に赤々とした軌跡を残しつつ降下ポッドを加速させた。


 ここから先は激しい戦闘が予想されるエリアよ。


 本来なら、作戦が始まる前に偵察チームから入ってきた情報を元に状況説明や戦場の環境に応じた装備や機材を整える必要があった。でも今回はそういう準備が一切なく、本当に場所だけ分かっているだけの現状。そのハンデを埋めようと、この場でもっともトラブルを処理する能力が高い司令ポッドを先行させる。

 摩擦熱の空電でまともな情報が入ってこないディスプレイを私は見詰める。激しく揺れるポッドの中はすでに三十度を超え、生身だったら薄っすら汗をかくほど暑い密室に変っていた。けれど装甲服のジェル層がスーツ内の温度を一定に保ち、湿気を吸収する素材も使われているからこのくらいだったら問題ない。快適そのものよ。


 いえ――問題があるとすれば大気圏内に入ってからでしょうね。


 耐熱シールドが燃え尽き、隊員たちと戦闘機材が詰まった合金のボディが黒い空に舞うと今度は急に空気が冷やされた。その直後、落下速度を緩めるパラシュートシステムが起動し、激しく揺れながら緩やかに減速していく。私は座席に何度も揺さぶられた。ベルトが肩と胸のところでぎしぎしと悲鳴を上げている。


敵性レーダー波を検知したレーダーホット繰り返す適正レーダー波を検知したレーダーホット撹乱パルス発射用意DPレディ


 いち早く司令ポッドが察知し、私は味方に警告を飛ばした。

 空電ノイズがおさまったディスプレイによると、山中を中心に防御陣地が敷かれているようでかなり広い範囲に敵性マーカーが見て取れた。

 ポッドの落下速度が航空機の速度に近くなったところで「撹乱パルス発射DPファイア」という私の声が通信回線に響く。その瞬間レーダーを欺瞞する弾頭がポッドの側面から飛び出し、次々と反響音を生み、敵味方問わず電子機器を麻痺させた。

 電子的に盲目になった降下は、よっぽど運が悪くない限りそうそう撃墜されることはない。大抵の場合、VICSはレーザーロッドガンで対空射撃を行うけど、撹乱パルスで誘導システムが使えない今、ほとんど目視での射撃になる。だからかなり安全に地上に降りられるはずだった。


『クレーメア1、こちらクレーメア12! ポッド内の温度が上昇! 指示を――』

「脱出してッ、聞こえた者はただちにポッドから脱出しなさい!」

 ザーッと響く空電に混じった部下の声が聞こえると、私は叫んだ。こればかりは運任せだった。撹乱パルスは味方の通信も阻害する。彼のように近距離からの通信はキャッチできても部隊全体には到底届かない。だからこの警告を聞けたのは前衛の分隊だけだと思う。

 私と十数名の隊員が空中に飛び出すと、周囲に六つの太陽ができていた。近い、それも深夜にこの球形の光を発するものは今の状況から考えて一つしかなかった。


荷電粒子砲塔プラズマタレット! クレーメア1、アルムA2!」


 熱探知器でおおよその地点を割り出し、ミサイルの発射コードを通信チャンネルに轟かせた。この私の攻撃に他の隊員たちもあわせて背面の個人用誘導弾システムPMSから発射した。

 広範囲にプラズマを撒き散らす砲塔タレットは現状でもっとも恐ろしい脅威よ。空中で一定時間とどまって空気を焼くこの兵器なら撹乱パルスに妨害されていたとしても十分効果的に働く。

 高速で落下する私たちよりもずっと早くミサイルが飛翔し、プラズマの光に照らされた大空の中を何本もの白い線が引かれていく。その線に閃光が重なり、小さな爆炎が木々の遥か上空に弾けた。

 レーザーロッドガンによる迎撃よ。地表に到達する前にほとんどのミサイルが撃ち落されてしまったわ。でもこれでいい。部下たちが撃ったミサイルは撹乱パルスの影響で無誘導の状態だから、迎撃されなかったとしても木々を吹き飛ばす程度の被害しか与えられなかったでしょう。


 けれど私が発射したアルムA2は違った。

 山の一角が爆発した。プラズマタレットがあると思われる木々の合間で黒い煙が上がった。

 アルムA2。正式名ARM8Pアクティブアロー。生体デバイスからの思考だけで誘導パターンや誘導時間をセットアップして発射するマイクロミサイルだ。

 私はこのアクティブアローが撹乱パルスの影響範囲から出たところで誘導されるようにしていた。

 この戦法によって左側に展開されていたタレットを一掃した。でもこの短時間で全てを破壊するのは不可能だった。そこでカラになった降下ポッドから離れるように部隊をまとめ、私は滑空した。


 乗り捨てたポッドが囮になってくれればいいけど、後続の部隊のためにもあのタレットを破壊しなければならいわ。プラズマに飲み込まれていくポッドが目の端に映ると、なおさらそう思った。

 カラの降下ポッドがいくつか地表に到達し、激突音が響き渡る。その方向に向いていたタレットのたもとに着地すると、近くで驚きの声が響く。そこにはタレットを守るように三人の歩兵級がいた。私は荷電粒子機関銃のプラズマ弾を浴びせ、彼らを草むらの中に沈め、さらにタレットへ手榴弾を投げた。

 流線型のボディに三叉に分かれた砲身のタレットが爆発すると、燃料セルに誘爆して黒煙を上げる。その爆発に巻き込まれて砲手だった歩兵級のシルエットが夜の闇に消えた。

 一基撃破。続いて間髪いれずに私はジャンプユニットを噴かせ、木々を縫うようにして飛びながら通信チャンネルを開いた。


「クレーメア1から各員へ。戦術マーカーにスポットした目標を撃破しなさい! 後続の味方を撃たせないでッ!」


 各小隊長から『了解』を示す緑色のランプが通信ウインドウに点滅した。



(次回に続く)

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