第45話 今日は待ちに待った校外学習! って……こいつらクレアに調教されてね!?
ぷしゅーと背後でバスのドアが閉まる音がした。最後に降りた児童が足早に白線を越えていく晴天の下、清水先生の「みんなー、並んでー!」という声が響いていた。
バスの前に出ていた俺――
ここは御守特別区に近い
御守特別区と比べるとどうしても見劣りする。
そんな光景に男子は「あ、ボウリングあるじゃん。やりてぇなー」とか「すげー遊園地みたいなアトラクションまであるぞ」と騒ぎ、女子も通りのショーウィンドウから見える服や雑貨で盛り上がっている。
これはこれで最先端の都市にはない魅力に溢れているんだろう。もしかしたらアミューズメントシティとしてはこっちの方が面白いのかもしれねぇな。
だがそこをしばらく進むと露骨に皆のテンションが下がった。
俺たちが入ったガラス張りの建物。今回の校外学習の目的地である博物館だ。
さっきまでの目移りするような光景からのこれは……落差が激しい。今さらメインホールで恐竜の模型とか見せられても、そりゃあうんざりもする。
男子のひとりがこれ見よがしに肩を落とした。
「くそっ……恐竜で興奮するとか俺は低学年で卒業したっつーの」
「だよねー。せめて隕石落とす恐竜絶滅シミュレーションとかあったら違うのに。同じところに何度も隕石落として地球を貫通させたりとか」
「クレアさんの言う通りっすよ。そのくらいぶっ飛んだものが見てぇーよ」
男子のグループに続き、女子のグループも、
「ねぇここって売店とかないの? 私甘いもの食べたーい」
「そうだね。通りのお店にいっぱい並んでたから食べたくなってきちゃったね」
と駄弁りだしたところで、耳が早い男子が通りを指差した。
「おい知ってるか? 向こうに恐竜スイーツがあるってよ。恐竜の発掘をモチーフにしたチョコレート菓子だって」
「ほんと? ねぇねぇシュウくんシャノンちゃんいこー。私、今発掘に目覚めた……!」
「お前ら自由か……?」
「待て、私たちは遊びに来たわけじゃない。勝手に行こうとするな」
俺が苦笑すると、シャノンがふらふらと歩み出した小さな肩をつかむ。だが引き止められてもクレアは、最高に小生意気なドヤ顔をかましてきた。
「ふっ、校外学習なんて半分遊びみたいなものだよ。それにこんな模型を眺めるくらいならソシャゲのホーム画面で推しと会話してた方がマシまであるよ」
「ですよね、突けばいくらでも反応してくれるし!」
「そうそう、俺の指先ひとつでころころ表情変えやがって可愛いやつめ、ってなるよな。いや~教えてくれたクレアさんには感謝だなぁ」
「お前ら調教済みか……?」
クレアの、病気のような行動を当然のように受け入れている男子たちに、俺は辟易した。
「はいはい、今日は授業で来てるんだから静かにしましょうね」
騒ぎ始めた六年一組の面々を清水先生がぱんっと手を叩いて鎮めた。
「じゃあ午前中は第一展示場の見学だから皆班ごとに回るように」
それから簡単な注意事項とお昼に集合する旨が伝えられ、一度解散となった。
(次回に続く)
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