第46話 発掘体験! お菓子で再現、恐竜の化石!
見学が始まると、まず向かったのは売店だった。
どうしても発掘したいというクレアに半ば折れる形で俺たちは他のクラスメイトとは逆方向の、展示場を一週回ったところにある出口付近に来たのだが、そこは思ったよりも簡素なつくりだった。
普通の土産屋のように箱菓子やストラップなどのグッズが棚に並べられているだけで、飲食が出来るスペースじゃない。てっきりカフェで恐竜にちなんだ料理でも出すのかと思っていたが実際は、二種類のチョコレートで恐竜の骨が地中に埋まっているのを再現した土産用のお菓子だった。
「博物館でセルフはっくつたいけ~ん……おおすごい、外側のチョコがスプーンでなでただけでさくさく掘れるよ」
しかしクレアがそんなことで止まるはずもなく、お土産をその場で開けて食べるという蛮行に出た。幅広の通路脇、そこに三つ並べられた長椅子からチョコレートの甘い香りが漂ってくる。
「骨の部分のチョコは硬めだ。これなら壊しちゃう心配ないね」
「校外学習でいきなり売店に来て買い食いする精神の図太さは心配だけどな、怒られても絶対反省しないし」
俺にじっとりした視線を送られても、クレアはお気に入りの音楽を聴いているように赤いアホ毛を揺らしながら発掘を続けた。
「ねぇねぇ、これ骨に窪みがある。きっと組み立てれるよこいつ。掘り起こしたらくっ付けてみようね」
「聞いてねーし……シャノン、ちょっときつく言ってやった方がいいんじゃあないか?」
「別にいいだろ。今さら恐竜の展示物を見る見ないで教養がつくわけじゃないんだ」
「意外にばっさりしてるな。こんなところでも真面目にするかと思ったら」
「なんの教訓にもなりそうにないからな。別の、例えば二ブロック先のペルシャ戦争がモデルになっている展示場なら良かったんだが……スパルタの戦いはためになるから」
クレアほどじゃないがシャノンも退屈しているようだ。長椅子に座ったまま通路を見詰め、しょんぼりと肩を落としている。
「それに、今は午後の体験学習の前戯みたいなものだ。ここでゆっくりしていても構わないだろ」
「ん? ぜっ――んん?」
あんまりナチュラルに言うものだから反応が遅れた。前戯くらい俺だって知ってる。性行為前の乳繰り合いだ。前に調べたから間違いない。だがこのくらいストレートな単語、調べればいくらでも出てくるはずだ。
もしかしてシャノン、俺のツッコミ力を試してるのか……!?
目を白黒させていると、シャノンの純粋な瞳がこちらを不思議そうに覗きこんだ。
「どうした? ぜ、なんだ?」
「この反応……いつものパターンか……?」
「なんのことだ? 勝手に自分だけ納得して――」
「いやこっちの話だから。気にしなくていいぞ」
「む。知っているぞ、G行為というやつだな。前に父の部下たちに聞いたことがある。自分勝手な行為、略してG行為。私が質問しているのにはぐらかす自分勝手なG行為」
「女の子がそんな連呼するんじゃないよ……!」
これまたヤバイ単語が出てきた。前戯を調べた時に関連項として出てきた自慰行為。呼んで字の如く自分で慰める行為――すなわち一人エッチだ。
だがやはりシャノンは知らないのだろう。慌てて制止する俺に金色の眉が疑わしげに寄った。
「なぜだ? G行為に男女の関係なんてないだろ」
勘違いしているくせにその通りだった。
「いやそうだけど……違うというか」
「何だ? はっきりしない奴だな」
「この……! なんで頭良いくせに知らねぇんだよ……!?」
「だったら朱宇が教えてくれ。私だってなんでも知ってるわけじゃ――」
「おおこれ、ティラノサウルスだよ。骨格が『俺はティラノだぜぇ』って言ってるよ……!」
それは幻聴だと思う。だがこの空気読めないクレアに乗っかるには絶好のタイミングだった。
「マジか……!? じゃあ組み合わせてみよう!」
そして有無を言わさぬ勢いと大声で必死にはぐらかし、シャノンの教えて攻撃を華麗にかわしたのだった。
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