第40話 小学生にたかる合法ロリ、そのクズさが面白い!

 校門から繁華街の方へ足を進めると、俺は横断歩道のところで一度立ち止まった。

 信号を待っているとシャノンが悩ましげな声を上げた。


「ふぅん……おさわりますたー……おさわりは触るってことだろうから、マスターは主や支配者を意味している単語だ。だとすると触れる支配者か……ふっ、ずいぶんと仰々しいな、おさわりマスターめ」

「口に出しての考察はやめろよな。ちょっと恥ずかしくなってくるだろうが」

「ん? 何を言ってるんだ? 議論は口に出さないと意味がないだろ?」

「不思議そうな顔をするな。自分がぎりぎりのラインを綱渡りしてる自覚を持てよ……」

「そんなこと言ったって、気になるものは気になるんだ……!」

「俺は周りの視線が気になるよ……」


 通行人の視線がさっきから痛い。早上がりのサラリーマンに駅前から出てくる中高生の一団、買い物を済ませて自動運転の無人タクシーを待つ主婦。みんなちらちらと見てきては、通りすがりにクスクス声と含み笑いを残して去っていく。信号で立ち止まっているからなおさらニヤニヤ笑いが身体に刺さってきて鬱陶しい。

 だがこうなった時のために住宅地ではなく繁華街から帰る道を選んでいた。

 信号が青に変る。俺は足早にホログラムでハイライトされた横断歩道を渡った。


「そ、そうだ。そこの広場の前でクレープ売ってるから食べよう」


 通りに沿って並ぶ店舗の端、その曲がり角にあるレトロなクレープ屋を指差し、俺は気さくに微笑んだ。

 買い食い戦法。食べている間にワンチャン忘れてくるとありがたい作戦といえば単純に聞こえるかもしれないが、これは極めて有効な手段だ。辛いこと、悲しいことがあっても甘い物を食べれば多少和らぐもの。知りたがりなシャノンも似たようなものだ。

 そう思って振り向いてみると、疑わしげに細められた桔梗色の瞳と目が合った。


「露骨に話をそらそうとしてるな? 食べ物で釣ろうなんて浅はかな」


 完全に見透かされていた。だがここで引き下がるわけにはいかない。俺は店先のガラス窓の中に映ったイラストを見てさらに畳み掛ける。


「食べたくないのか? チョコバナナクレープだぞ? 今ならほろ苦いカフェラテもセットだ」

「くっ、その組み合わせは反則だ、私に効く。まっ、まぁたまには――」

「食べる」


 人混みからそんな声が響くと、ふらっと赤毛の頭が中高生の一団を掻き分けて出てきた。

 クレアだ。教室で男子のグループに囲まれていたが途中で抜け出してきたのだろう。普段は小学生に擬態したいヤバいゲームの伝道師でも、そこはやっぱりシャノンの護衛役。ボディーガードとして常に傍にいてくれる。


「いや~嬉しいねぇ。シュウくんがクレープ買ってくれるなんて、しかもカフェラテまでついてるしねぇ♪」

「子供に奢られようとしてんじゃねぇ。あんた一応大人だろ」


 ご機嫌な調子のクレアを俺は冷めた目で見たが、


「くれあ、小学六年生。おこづかい、きびしいぃ」

「こいつ都合が悪くなると子供になる上に片言とか……!」


 あざといほどロリロリしい仕草がちょっと憎たらしくて、俺は思わずうっと息を呑む。くりくりした緑色の瞳に無垢な表情は舌足らずな喋り方と相まって完全に子供にしか見えない。


「ぶっちゃけ昔やらかして散財したことがあってね。それで今はまりりんに口座管理されてるんだよ。だからホントにきびしぃから買い食いする余裕ないよぉ……」

「朱宇……私が出してやるからそれで……」

「やったやった……! シャノンちゃんすきぃ~……!」


 そしてシャノンの方がお姉さんに見える今日この頃、シャノン腕に抱きついたクレアが、実は成人しているという真実が段々疑わしくなってきていた。


(次回に続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る