第36話 出動要請を受け、エイリアンの侵攻を受けた場所へ急行! パワードスーツで滑空降下開始!
出動要請があってから十分以上経っていた。
これだけ時間がたっていれば数十人……いえ、最悪の場合数百人規模で犠牲が出ているかもしれないわ。
私――マリー=ルイス・エーベルグは自分の部下を率いて白い建物の上空に光学カモフラージュ状態で透明にした降下艇を待機させていた。
御守特別区から急行したこの場所、千葉県立中央博物館。ここでVICSの侵攻が確認された。
私はキャビンにいる一二人の部下を流し見る。
「マップ情報は取得したわね。それじゃあ、各自他のチームと連携して出入口を抑えて――」
『まりりん』
「クレーメア2、作戦中はコールサインで呼びなさい」
通信にのった幼げな声にむっとし、私は低い声で言った。
『了解、クレーメア1。そっちから見て七時の方角にあるビルから見てしてるんだけど、正面入り口ヤバいよ。穴が空いてる。早くしないと警官隊じゃ抑えきれないよ』
クレーメア2――クレアの報告に弾かれるようにして私は制御パネルを叩き、後部ハッチを開けた。下を覗き込むと、正面広場を封鎖しようと警官隊が人員輸送車から出てきていた。
正面入り口のシャッターがプラズマで溶かされていて、そこからステージ1の歩兵級が少しずつ出てきている。それを警官がサブマシンガンを撃って抑えているけど、時間稼ぎにしかなってないわ。これじゃ数分で突破される。街に出られる前に何とかしないと。
「クレーメア2の部隊はその場から狙撃、警官隊を援護して。残りのチームは各自、博物館周辺を警戒しながら適時応戦。私たちは正面入り口から内部に入って敵を殲滅します」
速やかに部下たちに指示を出し、私は最後に「クレーメアチーム、行動開始」と通信機に声をのせた。
イヤーマフに『了解』の斉唱を聞きながら、私はちらっと自分のアーマーを見た。
っていっても、そんなことしたら地面の方が壊れるから
私は鼻から顎までを覆った多機能ガスマスク越しに唇をきゅっと引き結ぶ。私は油断しない。どんな戦闘でも、部下や民間人の命がかかってるから。私はいつだって油断しない。常に最高の自分を敵にぶつけるの。
「
掛け声とともにフルフェイスヘルメットをかぶった部下たちが次々と飛び降りていく。
それに対して私はヘルメットをかぶっていない。私の装甲服は彼らより最新モデルでヘルメットは、緊急時以外は首のフレームに格納されているタイプ。だから背中でホワイトブロンドのお下げが風に揺れているけど、そのおかげで網膜ディスプレイや
まぁ現場で戦う私みたいな人種は大抵『理屈よりも使えれば何でもいい』と言うけど、そこは私も同意見ね……キャビン、全員降下確認!
私が最後だ。後部ハッチを蹴って、飛び降りる。装甲服のスラスターで姿勢を制御し、頭から垂直に自由落下。地面が見る見る近づき、高度が十メートルを切ったところでくるりと身体を反転させ、ジャンプパックの小型ジェットを噴かせて落下の衝撃を和らげながら着地する。
正面を見ると、約五十メートル先に博物館があった。建物の周辺に石の柱が囲み、建物自体も分厚い石材で作られていて頑丈そうだけど、窓のシャッターは一部溶けてる。
封鎖が甘いわね……これじゃあVICSが外に出てるかも。
そう思って私は警官隊に駆け寄った。
「私はクレーメア大隊のエーベルグ中佐です。VICSが外に出ている危険性があります。アナタたちは周辺を捜索し、VICSを発見次第私の部下に報告をしてください」
「了解しました。対策本部にかけあって――」
「必要ありません。すでに指揮の全権は私にあります。速やかにチームを行動させ、ここから周囲一キロを捜索しなさい」
「りょ、了解……!」
サブマシンガンを持った警官隊がいそいそと動き始める。でも私は彼らの装備が気になった。
攻撃は私の部隊だけで充分だし、彼らには別の装備がよさそうね……そういえばNOXの装備の一部を貸与させていたわ。
「偏光盾を携行しなさい。射撃は私の部下が担当します」
「お言葉ですが、我々でも倒せます。一体一体に集中して射撃を行えば」
ステージ1の歩兵級は、ほぼゾンビみたいな相手だから対処できるでしょうけど、それ以上の個体が相手じゃ犠牲が出てしまうわ。
「アナタ、プラズマに焼かれたいの? 焼かれたくなかったら敵の位置を報告し、自分の身を守ることだけを考えなさい」
「はい……」
警官の男はしぶしぶ頷いた。
ここはもう戦場よ。戦場で武器より盾を持てと言われたら誰だって嫌な反応をする。自衛すら他人に委ねるってことだから……でも、これが最善なの。
(次回に続く)
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