第35話 訓練開始! ってこの銀髪美女身体能力がエグいんだが……
銃口を俺の胸辺りに向けたまま歩み寄り、上半身をくいくいと動かして見せるマリーさん。
「射線を意識してこうやって上半身を捻って避けながら、銃身とストックを両手で包み込むようにして、捻じって奪う。もし相手の方が、圧倒的に腕力が上なら、一度怯ませてから相手の手が銃のグリップだけを持っている状態にすること。これなら相手の握力が強くても簡単に奪えるはずだから」
「えっと……こうですか?」
言われた通りM31PDWの銃身とストックの付け根を手で覆って捻ると、ぎぎっという重い感触が俺の両手に伝わり、銃口がマリーさんの方を向いた。
「ええ、そうよ。私、握力百キロ以上あるけど上手くいったでしょう。このように点で押さえている相手には面で攻める。力を加える面積が大きいほど強く作用するから」
「なんか説明してるけど……握力百キロって、凄いな……」
「あ、今朱宇くん、ゴリラみたいって思ってるでしょ。言っておくけど、NOXじゃ……まぁ百キロって男性の平均値だけど、それでもクレアだって五十キロあるし、別に普通よ?」
あのロリですらそんなに握力あるのかよ……。
そう思いながら俺は「ゴリラだなんて滅相もない、可愛いシロクマちゃんです」と答えた。でもなぜか「ゴリラよりパワーあるわよ……」とマリーさんはしょんぼりと肩を落とした。
何がいけなかったのだろうか? 可愛いが余計だったか?
首をかしげる俺に、それより続きだけど……、と言ってマリーさんはM31PDWを握り直し、俺に銃の
「銃を奪う際に相手はこうやって必ず抵抗するわ。その場合は、銃口を向けられないように両手で銃を保持したまま脛を蹴ったり、大腿を思いっきり踏みつけるの。そうやって相手の体勢を崩して無理やり銃を奪ったら下がりながら射撃。敵を無力化しなさい」
「体勢を崩せなかったらどうするんですか?」
シャノンがそう質問すると、マリーさんは銃を捻って俺の手を振りほどき、銃口を向けてきた。その銃口で俺の戦闘服をしっかり捉えたまま綺麗な唇を開いた。
「撃たれる……でもそうならないために相手の急所を攻撃するの。で、なにがなんでも銃を奪う必要があるわ」
「確かにそれしかないか……」
うんうんと頷くシャノンを尻目に、マリーさんが銃口を下げた。
「じゃあ今教えたことを通しでやりましょう」
「はい……!」
俺はぎゅっとフラッシュライトを握りしめた。そして「はいスタート」とマリーさんが言った瞬間、マリーさんの眉間にライトを浴びせた。ぎゅっと綺麗な瞳が閉じ、目を守るように片手で覆ったその隙に、射線から逃れるように半歩だけ横にずれつつ一気に接近する。ばっと銃をつかみ、銃身を捻じった。
片手でグリップだけを握っていた状態だったからさっきみたいに銃口がマリーさんの方に向く。だが今度はそれで終わりではない。
「……ッ!」
マリーさんが銃をつかみなおし、俺を振り払うように銃口を振ってくる。それを踏ん張って耐え、腕を振ったマリーさんの身体が横を向いたところで、無防備な大腿に足を突き立てた。
するとマリーさんが体勢を崩し、アスファルトに転んだ。綺麗に受け身を取って起き上がるマリーさんに俺は銃口を向けた。
「動くな!」
「はい終了。初めてにしては上手よ」
「おお……! なかなか様になってるじゃないか、カッコいいぞ」
マリーさんが満足そうに微笑み、シャノンが羨望の眼差しを送ってくる。その反応が気持ちよくて、思わずふっと調子づいた吐息漏れる。
見様見真似だったが意外とうまくやれたぞ……ひょっとして俺、才能あるのでは?
得意げな笑みを浮かべつつ自分の才能に打ち震える。だがそこで俺の高くなった鼻を厳しめの評価が打ち砕く。
「でもまだまだ粗削りね。さっきはわざと片手で目を覆ってみせたけど、本当ならライトを避けて撃ってたわよ。だから今後は、朱宇くんがその動きに対応してぴったりと両目にライトを当て続けられる技術を学ぶ必要があるの。いいわね?」
「うぅ……そうですね」
「あと、銃をつかまれた時軽く振って見せたけど、腕力の差が大きいと簡単に吹っ飛ばされるから気をつけるように」
「はい……」
俺はしょんぼりと肩を落とした。すっかり勢いをなくして背を丸めると、マリーさんが励ますように声を弾ませる。
「まぁそれでもナイフでやった時よりかは何倍もよかったわよ。何の技術も教えてなかったナイフ戦では感情だけで突っ込んできたけど、今回は違う。頭で考えながら対処したわ。これってとっても大事なこと――」
一旦言葉を切り、マリーさんは耳に手を当てインカムのスイッチを入れた。
「こちらエーベルグ中佐……………………了解、すぐに向かうわ」
「あの、何かあったんですか?」
「ごめんなさい、朱宇くん。出動要請がきちゃった。行ってくるわね。あ、帰りはあそこのトラックにいる私の部下たちが送ってくれるから、それじゃまた今度」
マリーさんが手を振って踵を返した。街路樹からクレアを回収し、さっき俺たちが乗ってきたときに着陸したまま待ってくれていた降下艇に駆け足で乗り込んだ。
「どうやらVICSが出たようだな……」
「……やっぱりか。なぁシャノン、大丈夫かな」
「マリーさんたちなら大丈夫だ。あれでもNOXの精鋭だからな」
だったら……大丈夫か……見た目は若いけど特殊部隊だし、大丈夫だよな……。
俺は自分を落ち着かせるようにそう思いながら飛び立つ降下艇をシャノンの一緒に見送ったのだった。
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