第24話 これがエイリアンが作った近未来都市、御守特別区!

 御守みもり特別区。その郊外にある山道を俺とシャノンは上っていた。

 時刻は七時を少し過ぎた頃だろうか。学校から遠い児童はそろそろ家を出ないと間に合わない時間帯だ。


 緩やかなカーブを描くアスファルトを蹴って、ノンストップで駆け上がる。風に揺れる木々のざわめきに混じって二人分の足音がカッカッと響く。車がほとんど通らないこの車道は、ランニングをするにはもってこいなコースになっていた。

 薄暗い林から吹き込む深緑の風に俺はそっと微笑む。

 五月も終わり、そろそろ梅雨に入る時期になったがまだまだ天気は良い。こんな山道で涼しい空気を身体いっぱいに浴びて走っていると、煩わしい気持ちなんて吹っ飛んでいきそうだ。

 たとえば、さっきクレアとマリーさんに笑われたこととか。


「……っ!」

「いつもよりペースが早いな……無理して途中でばてるんじゃないぞ!」

「平気だってっ、このくらい……!」


 シャノンの声が後ろから響いてきたが、俺は手をひらひらさせて余裕を見せる。ガードレールに沿って進む足はまだ軽い。呼吸も苦しくない。半袖の制服がぴったりと身体に張り付くほど早く走り、車道の両側に生い茂っている木々を背にしていく。


 しばらくすると車道が明るく照らされた。

 青空が頭上に広がり、視界が一気に開けた。開拓された山から望めるそこは、近代的な街並み。右手には海に沿って設営されたNOX軍の基地と滑走路、中央にはオフィス街と繁華街を合わせた商業区画。そこから山の方に向かって住宅街や俺たちが通う小学校も見て取れた。フェシュネール邸がある廃村から山のちょうど反対側に出たんだ。


 そしてもっとも山道に近い場所には分厚いコンクリートの壁がぐるっと市街地を囲んでいる。この御守特別区は、壁で市街地と郊外を明確に分けていた。

 その理由はもう少し山道を海側にずれると見えてきた。

 更地を挟んだ向こう側、その場所に荒廃したビル群が広がっている。窓ガラスは割れ、雨風に晒され、砂埃に汚されてもひび割れた外壁が林立しているオフィスビル。ただ時折見える車道は、雑草が生い茂っていて何年も人の手が入っていないことが窺える。


 さらに内陸に首を回すと、そんな旧市街地の光景が突然消えていた。

 クレーターのように地面が抉られた深い縦穴シャフト。まるで隕石でも落ちてきて周囲の街を吹き飛ばしたような景色だが、それにしてはビル群が原形をとどめているのはおかしいだろう。爆心地に比べ、あまりにも不釣合いな被災地。

 そこは人類とVICSとの戦いが始まるきっかけになった場所であり、エイリアンに奪われた大地――


 弧峰市だ。


 この奇妙な被災地を鼻先に抱える御守特別区は、VICSに破壊された隣町をNOXの治外法権区にする代わりに日本をVICSの脅威から防衛するために作られた街だった。

 NOXの先進的な技術で廃墟同然の都市を再開発し、街並みを一変させた。

 周辺の都市が古めかしく思えるほど整った最新の設備。その都市は、SF映画で見るような滑らかな建物とホログラムが溢れている。そんな都市を囲むコンクリートの壁が、時間の壁を作っているように内と外で技術の差を見せつけている。

 荒廃した街と近代的な街並み。過去と未来を絵に描いたような光景。

 旧市街地の一部が残っているのは地盤の関係で人が住むには危険らしく、そのままにして現在はNOX軍の演習区画として使われている。


 マリーさんもあそこで訓練とかしてるのかな?


 山道を走りながら俺はふと思った。


(次回に続く)

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