第23話 おいおいイケメンか……? 女子で、しかも小学生なのにカッコよすぎだろ

 あのショッピングモールで、母が殺されて、どんどん真実が明らかになって。

 今思えば、母さんを殺した男が俺に興味を示さなかったのもそういうことだったんだな。

 どっと力が抜ける。頼んでもないのに、望んでもないのに、ずっと文字通り守るように育ててくれていた母さん。今更そんなこと知ってもどうにもならない。このやりきれない気持ちが行き場をなくして、ため息となって口から出ていく。


「朱宇……」

「シャノン、心配ない。もう大丈夫だ。お前に、あの病院の屋上で言った時点で俺の決心はついてる」


 気まずそうに曇った桔梗色の瞳に、俺は精一杯の笑顔を向けた。だがシャノンは何を思ったのか、やれやれと首を振ってきた。


「いや。感傷に浸っているところ悪いが、もうそろそろ出ないと遅刻するぞ」


 そういえばそろそろ時間だった――いや、そういうことじゃなくて。

 壁時計に視線を転がした俺だったが、慌てて向き直ってきりっと表情を引き締めた。


「ここは、挫けない俺に共感しながらも励ましの言葉を送って、一緒に乗り越えていこうっていうところだろ、それから背中を優しくぽんぽんしてくれよ……」

「急に要求してきたな、この男」


 シャノンがジト目で見てくるが、構わずしょんぼりモードを継続する。


「さっきから食事も喉に通らねぇんだ……なんでだろうな」

「ご馳走様でした」


 お行儀良く手を合わせると、シャノンは空になった皿を重ねてキッチンへ行ってしまう。どうやらスルーされたらしい。対面の席で「大丈夫? お茶飲む?」と言うマリーさんの気遣わしげな声が心に染みる。お言葉に甘えてコップを受け取って、無理やりパンを胃に流し込む。それから俺が朝食を食べ終わる頃にシャノンが戻ってきて悪戯っぽく笑った。


「なんだ、ちゃんと食べれるじゃないか」

「お茶で無理やり流し込んだからな」

「身体に悪いぞ。ちゃんと良く噛んで食べないと」

「そんなの分かってるけど、食欲がなくても食べなきゃお昼まで持たないだろ。色々思うところがあっても腹は減るし」

「でも、心配ないんだろ?」

「まあな……」


 自分で言った手前言い返せない。今のところ、心配ないのは事実だから。

 口を濁し、黙々と食器を片付けている俺をじっと見つめ、シャノンはなだめるように困り眉を作った。


「そんな顔するな。本当に心配がいるような状況になったら、いくらでも手を貸してもらえるさ。少なくとも私が必ずそうさせてみせる」


 最後に頼もしい笑みを浮かべ、それからくるっと踵を返してリビングから出て行くシャノン。

 おいおいイケメンか……? 女子で、しかも小学生なのにかっこよすぎだろ。

 そう思いつつ俺は、長い金髪をなびかせている背中がドアの向こうに消えるのをじっと眺めていた。すると無粋なことに、含み笑っているような声が聞こえてくる。


「本当に心配がいるような状況になったらぁ、いくらでも手を貸してもらえるさー」

「復唱しない」

「おいおいイケメンかぁ? 女子で、しかも小学生なのにかっこよすぎるだろー」

「煽るんじゃないの――ふふっ」

「まりりんだって笑ってるじゃん。私と同類」

「だって明らかにドキッてしてる朱宇くんが可愛いいんだもの。仕方ないわよぉ」


 え、もしかして口に出してたか? おいおいイケメンかってところを……!?

 頬が火照る。顔がなんだか熱い。

 クレアは悪戯っ子な笑顔でニマニマと茶化してきてウザいし、そんなクレアを叱っているようでマリーさん自身も惚気た笑みを晒しているのも気に食わない。

 一刻も早くリビングを出たかった。

 俺はいそいそと食器をシンクに持って行くと、キッチン側のドアから逃げるようにリビングを後にした。

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