第20話 知らない番号

「え? 何? マジで、ストーカーなのかよ? 警察呼んだ方が良くね?」


 徐々に真剣な顔になっていく中山に、俺は苦笑して手を左右に振る。


「大丈夫大丈夫、害はないから」


「害はないって、お前ね。変なヤツに目ぇ付けられやすいんだから、気を付けろよ」


「目ぇ付けられやすいかぁ? 俺」


 聞き返すと、中山は呆れ顔でワザとらしい大きなため息を吐く。


「あー、ヤダヤダ、これだから天然は……。とにかく、ヤバいと思ったらすぐ警察呼ぶんだぞ? 何かあってからじゃ、遅いんだからな?」


「だから、大丈夫だっつの!」


 俺がムッとして唇を尖らせると、中山はやれやれと肩をすくめる。


「ま、お前、危機感足んねぇからな。いざとなりゃ、俺が助けてやんよ!」 


 上腕二頭筋じょうわんにとうきんが光り輝くマッスルポーズを決めて、中山は得意げに笑った。


 中山は、肉体強化が趣味のガチムチ兄貴だ。


 いつもプロテインを飲んでいて、プロテインが主食なんじゃないかと、疑いたくなる。


 俺は声を立てて笑いながら、ポンポンと中山の腕を叩く。


「そりゃ頼もしいな。頼りにしてるぜ、中山」


「おう、任せろ。何かあったら、いつでも言ってくれや。じゃ、俺これ運んでくるから、またな」


「おう、またな」


 中山は重い機材を軽々と担いで、倉庫を出て行った。


 カッコイイなぁ、同じ男として、筋肉はやっぱりあこがれだよな。


 なんとなく、自分の体を見比べる。


 俺もそこそこ筋肉はあるんだけど、ムキムキマッチョには程遠ほどとおいな。


 すると間もなく、俺のスマートフォンから電子音が鳴り始める。


 ディスプレイには、見覚えのない番号が表示されていた。


 誰だ?


 普通、電話番号登録されてるヤツから掛かってきた場合、相手の名前が表示される。


 電話番号しか表示されないってことは、知らない番号。


 問い合わせの電話だろうか?


 もしかしたら、弁護士先生かもしれない。


 いや、弁護士先生は、俺の電話番号を知っている。


 まさか「Great Old Onesグレートオールドワン」に、俺の電話番号がバレたのか?


 遺産相続後、初めて掛かってきた、見知らぬ電話番号に警戒けいかいする。


 携帯電話を耳に当て、慎重に応じる。


「もしもし、どちら様ですか?」


 ――なんですかっ? 今のガチムチアニキはっ! あんなに親しげに、あなたにベッタベッタイッチャイッチャしてっ! ハッ! まさか、あの男といかがわしい関係なんですかっ? あなた警戒心ゼロだから、誘われるまま、ホイホイついて行ったんじゃないでしょうねっ? お尻は無事ですかっ? これからは、あなたのお尻も守りますっ!


「ってお前、桜庭かいっ! っつーか、お前、マシンガントークで、何言っちゃってんのっ?」


 電話の相手は、部屋の外でガン見してる桜庭だった。


 何故だか分からないが、興奮気味で、早口でまくし立ててきた。


 言ってることが意味不明だし、マジなんなの、この残念なイケメン。


 うん、ヤベェわ、中山。


 警察呼んだ方が良いかも……。

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