第14話 イングリッシュブレックファースト②

 コーンフレークを食べ始めると、また田中が問い掛けてくる。


「ホットディッシュは、いかがなさいますか? ボイルド、フライド、ポーチド、オムレット、スクランブルのどれに致しましょう?」


「え? は? なんて?」


 ズラズラ横文字を並べられて、半分も理解出来なかった。

 きっと、語尾ごびに全部「eggエッグ(玉子)」が付くんだと思う。


 たぶん、玉子の調理方法を聞いてるんだ。


 玉子料理なら、俺はゆでたまごと玉子焼きが好き。


 玉子焼きは、甘いのも、だし巻き玉子も、どっちも好き。


 ぶっちゃけ、玉子料理で嫌いなものはひとつもない。


 だって、どれも美味しいじゃん。


 ちなみに「たまご」は、「卵」と「玉子」の二パターンがある。


「卵」は、「たまご」全般を指す。


「玉子」は、鶏卵けいらんを調理したものを指すことが多い。


 それはさておき、少し悩んで、「ボイルド」を頼んだ。


boiledボイルド」は「ゆでる」って意味だったはずだから、「ゆでたまご」が出てくるだろう。


「ミートは、いかがしましょう? ハム、ベーコン、ソーセージからお選び下さい」


 ハム、ベーコン、ソーセージか、どれも捨てがたい。


「その中なら、ソーセージかな」


「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」


 綺麗にお辞儀をすると、田中が食堂を出て行った。


 いや、ちょっと待って。


 お前、全裸で調理すんの?


 全裸で火ぃ使うって、危なくね?


 っつぅか、全裸って、衛生的えいせいてきにどうなの?


「イングリッシュなんとかって、なんだか小難しそうな名前だったけど、出てくる物は意外と普通なんだな」


 壁に沿って立っている椿つばきに、素直な感想を言うと、「でしょ?」とウィンクされた。


 全裸の男に見られながら食事をするって、スゲェイヤなんですけど。


 どうにかならないんですかね、全裸。


 あ、しまった。


 なんで俺、ゆで卵とソーセージなんて頼んじまったんだろう。


 ふとした拍子に、椿の股間が目に入って、大後悔した。


 イヤでも目に入っちゃうんだよなぁ、それ。


 しばらくすると、料理を乗せたカートを押しながら、田中が戻ってくる。


「大変お待たせ致しました、『ボイルドエッグとソーセージのホットディッシュ』でございます」


 綺麗に盛り付けられたゆで卵と、焼き目が付いた大きなソーセージ。


 トマトとレタスとアスパラが、白い皿の上で綺麗に乗っていた。


 調味料は、塩、胡椒こしょう、トマトケチャップ、ソース、しょうゆ、マヨネーズ、ドレッシング。


「トーストでございます」


 こんがりきつね色に焼けたトーストが一枚乗った皿と、バターとジャムの小鉢が並ぶ。


 たぶん、めっちゃ高級な玉子だと思うから、味付けしたらもったいない気がする。


 食べてみたら思った通り、黄身きみ濃厚のうこうで、いかにも「高級卵です」って味がした。


 ソーセージは皮が厚くて、あらびき肉の食べ応えが、いかにも肉って感じだ。


 野菜もりたてみたいに新鮮で、甘くてジューシーで歯ごたえも良い。


 トーストも高級食パンらしくて、甘くてサクサクで香ばしい。


 いつもなら、調味料とかジャムとか、ドバドバつけちゃう俺だけど。


 何もつけなくても、充分旨じゅうぶんうまい。


 ってか、つけたら、もったいない気がする。


 つい、庶民しょみんの感覚で、「高級なものは、そのまま食べないと、もったいない」って、思っちゃうんだよな。


 最後に出たデザートも、高級果実専門店でしか出ないようなフルーツ盛り合わせだった。


 こんな超高級で超贅沢ちょうぜいたくな朝食を食べたのは、生まれて初めてだ。


 これ、お店で食べたら、いくら取られるんだろうとか考えてしまう。


 大喜びでむさぼる俺を見て、田中と椿が微笑ましそうに笑っている。


 全裸で。


 うん、全裸じゃなかったら、最高だったんだけどな……食事中は特に。

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