第3話 謎の犯罪組織

「全く考えられないことですが、その通りなんです」


 加藤先生はため息を吐き出すと、メモをクシャクシャポイして、ゴミ箱へ投げ捨てた。


 棚からファイルを取り出し、テーブルの上に重要書類を並べていく。


「それから、相続書そうぞくしょ遺言書ゆいごんしょを作成し、ミッチェル氏は満足そうな顔で息を引き取りました。こちらが、その書類です」


「うわぁ、マジだぁ……」


 正真正銘しょうしんしょうめい、正式な相続書と遺言書。


 きっちり、俺の名前が書き込まれてるよ。


 どうしてこうなった。


 大資産家の遺産って、一体どれだけのものなんだろう。


 きっと、一生遊び暮らしても余るくらいの財産が、手に入るに違いない。


 だんだん怖くなってきて、全身にイヤな汗を大量にき始めた。


 恐る恐る、加藤先生に訊ねる。


「あの……これって、辞退じたいは出来ないんですかね?」


「辞退されるんですか? この莫大な遺産を?」


 それこそ「信じられない」という顔で、加藤先生は俺を見た。


 加藤先生の目が怖くて、俺はおずおずと加藤先生をうかがう。


「いや、その……。これ、辞退した場合、どうなるの、かなぁ……って、ちょっと思ったりなんかして……」


「辞退された場合は、『Great Old Onesグレートオールドワン』に寄贈きぞうされることになっています」


「は?」


 ますます混乱した。


Great Old Ones偉大なる古きもの』って、あれだろ?


 暗躍あんやくしてるという、謎の犯罪組織とかなんとかかんとか。


 それに寄贈するって、どういうことですか、社長ーっ!


 イボがあるなしで、そんなに変わっちゃうもんなのっ?


 そういう意味では、イボが彼自身であったというのも、分からなくは……って、やっぱ分からん!


 加藤先生は、後ろに青い炎が見えそうなくらい恐ろしい迫力で、俺を説得してくる。


「もし、あなたが相続しなかった場合、そんな怪しげな組織にエサを与えることになるのです。何としても、あなたに相続してもらわなくてはなりません」


「うわぁ……マジかぁ」


「この国を……いえ、世界を守る意味でも、なんとしてもあなたに相続して頂かないと。さもなくば、Cynothoglysキノトグリス(死を司る神)に導いて頂くことになりますよ?」


「きのと、ぐり……?」


 って、何?


 言葉の意味は良く分からんが、とにかくスゴイ気迫だ。


 この人は普段冷静でも、怒らせたら超怖いタイプと見た。


「相続、して頂けますよね?」


 加藤先生に、気圧けおされて、俺は恐怖で何も言えなくなる。


 ニヤリと薄笑いを浮かべて、加藤先生は声のトーンを上げる。


「なお、ミッチェル氏が生前住んでいた豪邸も、もれなく付いてきます」


「そんな、オマケみたいに……」


 俺が力なく言うと、加藤先生が微笑みながら提案する。


「どうです? これから、その豪邸をご覧になっては? 少しは、その気になるかもしれませんよ?」


「そ、そうですね。見るだけなら……」


 渋々、頷くと、加藤先生はテーブルに広げていた書類をまとめ始める。


「では、すぐ見に行きましょう。今も住み込みの執事やメイド達が手入れをして、すぐにでも住める状態になっているそうです」


「へ、へぇ……そうなんすか。さすが、大資産家ですね……」


 俺は引き気味で、感心した。


 社長が亡くなってから、約二ヶ月が経過している。


 その間もずっと、住み込みの執事さんやらメイドさん達が、豪邸を管理していたのか。


 なんつーか、スゴイな。


 きっと、お給金が相当良いに違いない。


 社長が亡くなった後も、引き落としで払い込まれているのか、それとも前払いだったのか。


 施設育ちの俺には、どんな世界なのか、全く見当もつかない。


 加藤先生に促されて、俺は社長が生前住んでいたという豪邸を見にいくことになった。

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