魔女と私と魔法のスプーン

砂上楼閣

第1話〜魔女の一撃

私のおばあちゃんはいわゆる魔女(変人)だった。


いつも黒い服を着て、室内なのにローブかベールを頭から被ってた。


笑い方は「ひっひっひ」だし、口癖は「これは飛ぶねぇ…!」だし、室内用なのに大きな竹箒を使ってるし。


よく大きな鍋ですごい色をした中身をグツグツ煮ながら、ゆっくりオタマでぐるぐるしてたりなんてしょっちゅうだった。


ちなみに中身は天然の湿布薬だったり、練れば練るほど美味しいお菓子だったり、調味料を組み合わせて作ったカレーだったけど。


とりあえず、とにかく変わった人だった。





そんな祖母が、入院した。





ギックリ腰で。


魔女が魔女の一撃で入院なんて、どんな顔したらいいか分からなかった。


「これを預けとくよ。もしあたしに何かあったらあげるから」


まるで最後の戦いに赴くようないい顔で手渡してきたのは、蔦が巻き付いたデザインの小さなスプーン。


森に住んでるって言う魔法使いのおじいちゃんが、おばあちゃんのために錬成したっていう不思議な見た目のスプーン。


昔、シチューを食べるのに使おうとしたら怒られたっけ。


ちなみに年賀状の写真に写ってるおじいちゃんはチェンソーを構えながら背中に猟銃を背負ってる、ムキムキなダンディーなんだけども。


セカンドライフでウッドクラフトと猟を楽しんでるみたい。


あと祖母は薬剤師を始めとした資格をいくつも持ってて、個人経営のお店を営んでたりする。


漢方とかも取り扱ってて、お年寄りとか一部の常連さんが結構いたりするんだよね。


このスプーンは薬の調合の時に使ってる、祖母の宝物。


それを渡してくるなんて…。


繰り返すけど、ただのギックリ腰なんだけども。


ちなみに、いい顔しながら渡してきたけど、その時の格好はダルダルのピンクジャージに紫のヘアカーラーを幾つも装着した状態。


二重にどんな顔していいか分からなかった…。


『このスプーンはね、たくさんの「幸せ」をすくい取ってくれるのさ。お前もそんな「幸せ」の一つ。いずれこれをあげるから、「幸せ」をたくさんすくい取りな』


昔そんな話をしてくれたっけ。


うん、断じてギックリ腰で渡してくるようなアイテムじゃないよ…。





そんな変わり者で、お茶目で、自由な人。


それが私のおばあちゃん。


とりあえず、おばあちゃんが早く退院できるように、このスプーンに祈っておこうかな。


これは変わり者なおばあちゃんと私の、日常の一コマ。

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