第5話 王宮事変/地獄課税制度

「大変です! 聖女様がまた勝手に宝物庫から貴金属の持ち出しを!」

「警備兵は何をしてるか!」

「それが全員骨抜きにされて……我々では手に負えません!」


 謁見の間にて。

 私は騎士団長ガインと大臣デミスが話を取り決め中、兵が駆け込んできた。

 またあの連中が何かしでかしたらしい。

 魔王討伐と嘘の情報を刷り込ませて我が国の戦力にしようとした矢先のことであった。


「うぅむ、これは予想外の事態であるぞ。デミス、此度の召喚の儀。どれほどの被害が出るか見積もりは取れるか?」

「未知数にございます」

「手駒にして飼い慣らす策はどうした?」

「何度も試していますが、弾かれてしまうようです。此度の勇者は逸材なのでしょうな」

「その逸材にこの国が食い潰されるのでは納得いかぬぞ?」

「手筈は整っております。奴らの我儘も時期に収まることでしょう」

「王様! 勇者様が全ての女中に手をつけてしまいました!」

「王様!」

「王様!」


 次から次へと厄介ごとが舞い込む。

 普通であれば話術と魅了の術で数日以内に丸め込める手筈だった。

 しかし此度の勇者は精強で、隷属魔法を弾く素質を持っていた。

 光の力が大きいらしい。

 あんなクズ共が、真の勇者の素質だけは高いと言うのだから世も末である。


「おう、ジジイ。見舞金の準備はできたかよ」


 続けてやってきた大男、聖騎士の天職を持つチンピラ、東義和が、誘拐軟禁の見舞金を払えと請求してくる。

 もうすでに大量のゴールドの支払いは済んでいるが、誠意が足りないの一点張りである。


「既に支払い済みだ。これ以上何を望むのだ」

「それが人に物を頼む態度かよ、オッサン。家臣と仲良く魚の餌になるのは嫌だろ? もっと持ってんだろ。出せよ。そしたらお前んとこの姫は勘弁してやる。あのアホの性欲の捌け口にしないでやってやる。それ以外は無理だがな」


 べろり、と唇を舌で舐めまわしいやらしい笑みを浮かべる聖騎士東。

 既に王宮内の女中を手駒にされたと報告があったばかりだ。

 更には王族にまで手をかけると言う宣言。

 その手綱を握っているのが目の前の男であると知られて歯を剥き出しにしながら怒りを表す。


「王様、ここは堪えるところです」

「わかっておる。で、他には何を望む?」

「ジジイの座ってる席に興味あるんだよね。その席譲ってくんね?」

「は? 無理に決まってるだろうが」

「あーあー、じゃあこの国終わりだわ。俺はもう知ーらね。聖女の使い込みと勇者の性欲は際限がねーぞ? 限度額いっぱいまで使い潰してなお求める。俺が引率役としてまとめてやってるが、お前らがそんな態度取ってる限りあいつらは止まんねーぞ?」

「いやあああああ、助けてお父様!」

「ぐへへへへ、君かわいいねぇ、ちょっとそこでいいことしない? 先っちょだけ。先っちょだけだから!」


 言ってる側からまだ幼い娘に汚い物を押し付けてる勇者が現れた。

 これがこの国象徴となるべき男の今の姿である。


「ほら、傷物にされたら色々この国詰むぞぉ? 良いのかよ? あんたの裁量で立て直せんの? 俺に変わっとけって。悪いようにはしねーからよ」

「ぐぬぬぬぬ!」

「お父様! いやあああああああ」

「わかった、だから娘からは手を引くように話をつけてくれ!」


 王ならここは娘を見捨てるのが正解だったのであろう。

 特にこの男の前では。

 笑みがより深くなる。


「は? なんで俺様が平民の言葉を聞かなきゃ行かないわけ〜?」

「なん……だと?」

「東、例の首輪見つかったわよ。ったく、あたしの仕事は高いわよ? あんたに払えんの?」

「そのための交渉をすんのに必要なアイテムなんだよ」

「チッ、本当に口だけは達者な男ね。反吐が出る」

「そいつはお互い様だ。聖女様」

「フンッ」


 そこへ宝物庫に入り浸っていたと思われる聖女が隷属の首輪を“4つ”持って現れた。

 この場にいる私と騎士団長、大臣、そして今まさに勇者に食い物にされている娘に嵌める首輪だと言うことは直感していた。


「一応は生かしておいてやるよ。国政は任せるわ。けど俺たちのお願いは優先的に聞いてもらうがなぁ?」


 悪魔だ。この男は悪魔である。

 傷物にされた娘を前に、倒れ伏す騎士団長。

 このクズの穀潰しはよりによって腕が立つ。

 勇者も、聖女も、聖騎士も。

 実力以上に何よりも悪知恵が働いた。


「まず、税金を売上の90%収めるようにしろ。そのうちの90%は俺たちの懐に入れる」

「それでは国民の反感を買うぞ!」

「は? 国あっての民だろ? 国の裁量で生かしてやってるんだから国に尽くすのが誠意だろうが。俺間違ってるー? なぁ、おい!」


 左頬に火がつくような痛みが走り、背中を壁に打ち付けられた。

 聖騎士東が右足を振り抜いている。

 どうやら蹴られたようだ。

 その動き出しはまるで見えない。

 高いステータスによる攻撃を自身に打ち込まれるなど思いもしなかった。


「キャハハ、あんまりやりすぎて殺しちゃダメよ? まだこの加害成虫には働いてもらうんだから」

「わーってるよ。あんまりムカつく目をしてたから躾けてただけだ」

「ちょりーっす、難しい話は終わった?」

「おう、ロリコン勇者。王女様はもう良いのかよ?」

「流石にマグロはさぁ、飽きた」

「要求が多いねぇ。まぁこれからは俺たちの要望は100%通るしお前も我儘通し放題よ?」

「マジ? オッサン最強じゃん」

「オッサンはよせ、まだ二十台だぜ俺ぁ」

「名誉男性としてせいぜい頑張ることね」

「お前らのその言い回しいちいち癪だわー」


 沈みゆく意識の中で、この国が終わりを告げたことを意識する。

 次に目覚めた時、やけに朦朧とする思考を誰かに命じられるがままに行使する人生が始まった。

 まるで出来の悪い人形劇のように、国から貴族が離れていく。

 だから国民からあんな仕打ちをされてしまうのは無理からぬことだった。

 


 ◇◆◇



「え、サザーランさん。一体それはどういう事ですか?

「どうもこうも国の兵隊さんがね、国の一大事だから税金制度を課すと言い出してきたの」

「この国は一大事というほどの危機的状況なのですか?」


 勇者召喚だなんてするくらいだから、それなりに厄介ごとは抱えているのだろう。しかしその割に調度品は豪華で贅沢な品がそこかしこで主張されていた。

 他国に見せしめるための豊かさを主張するにしたって、危機に瀕した国にしてはお金の使い方がそこまでピンチじゃないから見限ったけど。

 召喚されて一週間やそこらでピンチになるほどなのか?


 その問題にあたりはつくけど。

 一応は国の預かりでしょう?

 まさかいまだに手綱を引けてないとは思わない。

 強力な力を持つ物を呼び寄せるということは、それを制御する能力もまた持ち得ていることなのだ。

 じゃなきゃ魔王倒せる力を野放しにはしないだろう。


「それで、納税額はいかほどで?」

「売上の90%。全てスチールで支払えとのお達しよ」

「バカなんですか?」

「ちょ、どこで誰が聞いてるかもわからないんだよ?」


 平民の日常通貨はカッパーだ。

 それを商人通貨のスチールで望む。

 なんならゴールドでも良いとまで行ってくる始末。

 まず間違いなくこの国を運営したことのない相手が上についた事を意味する。


 あいつら、国を乗っ取ったか。

 いつか何かやると思ってたけど、随分と思い切った事をした物だ。

 国を出る前に国を乗っ取った。

 遅かれ早かれこの国は終わる。

 その兆しは先制攻撃の課税制度で目に見えている。


 初手90%の時点で隠すこともないバレバレの破滅。

 そしてそれは始まりに過ぎないのだ。

 次第に他国の乗っ取りを兼ねての徴兵、治安の乱れが予想される。

 ならこちらは先制を打つべきだ。


「サザーランさん、この国を一望できる高い場所を知ってますか?」

「見晴らしの丘の事かい?」

「見晴らしの丘? そんな都合のいい場所があるんですか?」

「一応この国の名所だしねぇ。他国のお偉方がよく見物しにくるよ」


 それって、どうやって攻め滅ぼすか検討してるんじゃない?

 でもそんな場所を名所にしてるってことは国防には自信があったってことだ。

 でもその中枢から食い破られた今、防衛を誇ったところでもう遅い、か。


「何をするつもりだい?」

「少し新たなビジネスを思いつきまして」

「稼いでもお国に持っていかれちまうよ?」

「それも含めて少しこちらの意思表示をしておこうと思いまして」

「意思表示?」

「少し見晴らしをよくしようと思ってます」


 地形破壊にうってつけの魔法があるけど、ちょっと撃つ場所を躊躇う。

 だからビジネスとして住民を安全地帯に誘い出してから撃ち込みたいのだ。

 その為の方策を提案する。

 

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