第51話 ルート1 黒鬼姫 10

 僕たちはたくさん話をした。


「レッ、レン君」


 泣き止んだ彼女の手をとって立ち上がらせる。


「怒っていますか?」


 立ち上がった彼女は泣き腫らした顔に、弱々しい姿で、どうにも僕はそっちの気があるようで、少しだけ彼女に意地悪をしたくなってしまう。


「ヒメ」

「はっ、はい!」


 呼び捨てにして、彼女の髪をかきあげる。

 泣き顔がよりはっきりと見たくなった。

 彼女の泣き腫らした顔に自分の顔を近づける。


 キスをされると思った彼女は目を閉じて身を任せた。

 僕は彼女の唇ではなく、耳を噛んだ。


「ヒャ!」

「可愛いよね。ヒメって」

「えっ!」


 どうしてだろう? 泣いているヒメは守ってあげたいと思っていたのに、泣き止んだヒメはまた泣かせたいって思うほど、いじめたくなる。


「ヒメはどこを触っても柔らかいね」


 僕は無抵抗な彼女背中に手を回してゆっくりと摩っていく。


「んんん」

「可愛いよ。ヒメ」

「あっ、ありがとうございます」


 お尻や胸には触らない。

 たた、うなじから彼女の耳に触れて、僕は離れた。


「あっ」


 僕の体を追いかけるように、ヒメが手を伸ばした。

 

「もう暗いからね。そろそろ帰ろうか」

「えっ? えっ?」

「送っていくよ」


 彼女の伸ばした腕を掴んで、僕は彼女の腰に腕を回して引き寄せる。


「はっ、はい」

「ヒメ。君が僕を守るんじゃない。僕が君を奪うんだ。覚えておいてね」

「ヒャい!」


 僕は耳元で囁いて、ぺろっと耳を舐めた。


 彼女のヤンデレな性格だ。

 これまでの成長の中で培われたものだったのだろう。

 それは仕方ない。それも彼女なんだから。


「れっ、レン君? 何か変わりましたか?」

「うーん、僕も自分の性格に気づいていなかったみたい」

「性格?」

「うん。僕ってね。どうやら求める方が好きみたい」


 手を繋いで歩き出す。


「レンくん」

「何かな? ヒメさん」

「あっ、あの。私は甘えてもいいのですか?」

「もちろんだよ」


 僕は彼女の手を握る。

 


 あの日から、彼女は少しずつ、僕に素直に甘えることができるようになっている。


「あっあの。公園でお話をしませんか?」

「うん。いいよ」


 ベンチに座ったら、彼女の頭に手を乗せて僕の膝へと導く。


 本来は膝枕は男がしてもらうように思う。

 だけど、僕は違う。


「あっ、あの私がしてあげたいのですが」

「ダ〜メ。僕がしたいんだ」


 彼女の頭がおとなしく僕の膝に乗せられて、夏前の彼女は制服が半袖で、スカートも膝までの短い。少しまくるだけで、周囲から見えてしまう。


 夕暮れ時、公園のベンチに遊ぶ子供の声や同年代のカップルの姿も見える。


 彼女は以前のヤンデレの姿とは打って変わり、穏やかで優しい微笑みを浮かべるようになった。本来の彼女は、自身がなくて動揺を顔に出すような人だった。


「ヒメさんは優しくなったね。以前とは全然違う雰囲気を感じるよ。どうしてこんなに優しくなれたの?」


 イジわるで失礼な質問をしているのわかっている。

 だけど、本当に少しずつ変わるのではなく、一気に変化した彼女をイジるのが僕の役目だ。


「レン君の愛に触れて、自分の欠点に気付いたんです。レン君の優しさが私の心を変えてくれたんです」


 僕は可愛い彼女の頬に優しく手を添える。

 プニプニと柔らかい頬が気持ちいい。


「君が変わってくれて、本当に嬉しいよ。今はいつも笑顔でいてくれるから、とても幸せなんだ」


 少しでも彼女が不安に思うなら取り除いてあげたい。


 僕の手が添えられて、彼女は顔を赤らめる。

 そして、僕の言葉に頷いてくれた。


「私も幸せだよ。レン君と一緒にいると、すごく安心するし、愛されてるって感じるんだ」


 ヤンデレは、病んだ後にデレが来るんだって思う。


 互いの目を見つめ合い、愛を確かめ合う。

 僕の手が彼女の頬を撫でると、彼女は幸せそうに微笑む。


「これからもずっと一緒にいたいな。レン君と過ごす時間は、私にとって宝物だから」

「僕も一緒にいたい。君のそばで幸せになりたい。だからね」


 僕は彼女の手を引いて、彼女の家へ向かっていく。


 最近は彼女の家に送っていくようにしている。


「お邪魔します」

「はっはい。どうぞ」


 照れた彼女に招き入れてもらい。スリッパを履いてリビングに入る。

 広いお家の中はヒメさんしかいない。


「すぐにお茶を入れるね」

「ありがとう」


 彼女の両親は、ほとんど場合。

 家に帰ってこない。

 そういう家で育ったことで、愛情に飢えてしまったこともヒメさんにとっては、ヤンデレの性格を作ることになったのかもしれない。


「ヒメ」

「はっ、はい」


 ソファーに座る僕の横に彼女を座ってもらう。


「二人きりだね」

「そっそうですね」

「どうしたの? ヒメはずっと既成事実を作りたかったんだよね?」

「はっ、はい」

「なら、僕らはもっと仲良くならないとね」


 終始恥ずかしそうにしている、ヒメさんを虐めるように僕は彼女の服に手をかける。


「でっ、電気を」

「ダメ。君を見たいんだ」


 デレデレになった彼女と新しい関係を気づくことに成功している。


「ねぇ、ヒメ」

「はい」

「夏休みは、二人で受験勉強しようね」

「わかりました」


 最近のヒメはいいなりだけど、僕は変化があればすぐに気付こうと気を張ることにしている。


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