第48話 ルート1 黒鬼姫 7

《side黒鬼姫》


 自信など持てるはずがない。


「ヒメさん! 僕は君を大好きだよ」


 彼の言葉は私の渇いた心に潤いを与えてくれた。

 それはとても素晴らしい幸せで、それと同時に私の心が渇いていたことを知らせてくれた。


 私の心はヤンでいる。

 彼の前だけではデレた性格でいられるのに。

 彼が他の女性と話している姿を見るたびに、心の中には嫉妬の炎が燃え上がり。彼の全てを独占したいという思いが強くなる。


 他の女性との接触が許容できない。


「ヒメさん、それじゃ一緒にはいられない。だから、もっと話をしようよ」


 彼が好き。どうしようもなく彼が好き。

 彼を他の人に取られたくない。

 彼を他の視界に入れたくない。


 だけど、同時に彼に嫌われたくない。


 それは独占したいと思う気持ちと同じぐらい強い願望を抱えている。

 彼を失うことや、彼の心が私から遠ざかることを恐れている。


 自分の独占欲や嫉妬心に苦しみつつも、彼に愛されることを願ってしまう。


 葛藤の中で、私の心は乱れていく。

 嫉妬心が募ると、私は理性を失いそうになる。

 思わず攻撃的な行動をとってしまう。


 しかし、その後の後悔と罪悪感が私を苦しめる。


 用事があるなんて嘘。


 彼が私がいない時に誰と過ごすのか、彼が他の女と会っているんじゃないかって疑っていたから行動した。

 その結果が、女性とファミレスとに入って楽しそうに話をしている。


 自分の行動が彼に嫌われる原因になるのではないかという恐怖。

 それと同時に試さずにはいられない葛藤。


 内なる闇と闘いながら、自分自身を抑える方法を模索しなくてはいけない。


「ヒメさん」

「えっ?」


 彼と二人でいるのに考えごとをしてしまっていた。


「なっ何かしら?」

「今度の休み。二人きりでどこかに行かない?」

「えっ?」

「もうすぐ夏休みだから、その前に買い物にでも行って、夏休みに海かプールでもどう?」


 彼は私のことを考えてくれている。

 自己制御のためにもストレス発散の気分を逸らす手段を見つける必要がある。

 友人との会話や趣味に没頭することも考えた。

 だけど、どうしても視線は彼を追いかけてしまう。


「ええ。嬉しい」


 もしも、今度二人で出かけられて彼と一つになれたなら私の不安は無くなるかしら? 心の奥底には常に彼への独占欲と不安が渦巻いている。


 彼が他の女性と親しげに笑ったり話したりする度に、心はざわめく。

 その感情を内に秘めながらも、自分の存在を彼に認めてもらえるように行動しようと決意する。


 そのためにもレン君と一つになりたい。


「ねぇ、レン君」

「うん?」

「お願いがあるの」

「何かな?」

「今度、一緒に出かけた時に伝えるわ」

「わかったよ。なんだろ。楽しみだね」


 彼の優しい笑みを見て愛おしさがましていく。


 愛する彼との関係を守るために、自身の性格を抑える方法を模索し続ける。

 心の中には、愛と狂気が入り混じった激しい感情が渦巻いている。


 そう、彼と一つになれば大丈夫。


 思っていたのに…………。


 ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー………。


「ねぇ、どうして?」



《side飛田蓮》


 僕は雨が降りしきる学校までの道のりを走っていた。


 黒鬼姫さんから、留守電が入っていて、残されていた言葉から、学校に向かっている。


 彼女の家にいくことも考えたけど、どうしても学校が気になってしまった。


 ビショビショになりながら、駆け上がっていく僕は図書室へと飛び込んだ。


「なっ、何しているの? ヒメさん」


 僕が開いた図書室では、相原さんが椅子に縛り付けられていた。


「いらっしゃい、レン君。早かったのね」

「どうして? 何をしているの?」

「だって、あなたは教えてくれなかったじゃない」

「えっ?」

「あなたには椿さんというお姉さんがいる。一緒に暮らしていて、色々と教えてもらっている。それは聞いたわ。そして、スケボー仲間で下級生の女の子がいる。たまに早朝は一緒に練習しているのよね? それも聞いたわ。シュウトくんの彼女でコイさん。彼女の話も聞いたわ。だけど、一度も彼女の話はしなかった。相原希さん。あなたが元々好きだった女。彼女との関係を私には話さなかった」


 僕は彼女の行動の意味が理解できなくて何を言っているのかわからない。


「相原さんとは、何もないよ。彼女には彼氏がいるし。僕はヒメさんと付き合ってからは連絡してないよ」

「そう、ならこの女が悪いのね」

「えっ?」

「あなたがいない放課後に教室にやってきたの。私は彼が図書室にいると行って、彼女を騙してここまで連れてきた」

「なんのために?」

「だって、あなたが教えてくれない女の影なんだもの。おかしいじゃない!」


 僕はヒメさんの狂気にどうすればいいのか戸惑い。


 ただただ、相原さんの安否を心配した。

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