第46話 ルート1 黒鬼姫 5

《side白堂穂花》


 私には幼馴染と呼べる友人が一人いる。


 黒鬼姫、昔から綺麗な子で、男子からも女子からも人気のある子だった。

 だけど、性格が内気で、他の人のことを怖がって拒絶してしまうところがあり、それが思春期を迎えた他の人たちと会わなかった。


 彼女はその見た目と無口なこともあり、クールな大人として通っている。


 だけど、内に秘めた一途な愛情と異常な執着心を持つ女性だと気づいたのは、高校二年生の最後のことだ。


 飛田蓮君との出会いが黒鬼姫を変えた。

 

 彼女にとって飛田君の存在が生きる全てであり、彼が自分を受け入れてくれない限り、彼女の心は永遠に満たされることはない。


 彼女は彼に接するたびに、自分を見つけてもらえるようにと心を躍らせていた。飛田君の存在は彼女の内なる狂気を鎮める反面、それを一層燃え上がらせる炎でもあったように思える。

 彼の微笑み、彼の声、彼の触れる手に彼女の心は震え、それが彼に伝わることを願っていました。


「ホノカちゃん。レン君が私に笑ってくれたの。今度一緒に出かけるの」

「よかったね」


 ヒメの話を聞くたびに私は身震いした。 

 彼が他の女性と話す姿を見る度に、心の中で嫉妬の炎が燃え上がらせ。

 彼女にとって、彼以外の存在は許されることではない。

 ヒメは飛田君を独占し、自分だけのものにしたいという欲望に駆られていった。


「最近は大丈夫?」

「ええ、私は遠慮していたのかも」

「えっ?」

「もっと自分に素直にならないとダメなのね」


 彼女の内気な性格は、彼との関係を進展させることを難しくしていたようです。

 彼女は彼に自分の思いを正直に伝えましたが、他にも好きな人がいいと言ってしまい彼が他の女性を好きなままでした。


 彼の周りにひっそりと存在していることで、彼への愛情を示そうとしていました。彼女の視線が彼に集中し、彼のために存在していることは彼女にとって喜びであり、生きる意味でもあったと思います。


 それなのにどこかで歯車が狂いかけている。


 彼への執着心が暴走し、彼女の行動が彼に不安と恐怖を与えるになるかもしれない。


 ヒメは飛田君の行動を探り、彼の行く先々をつけ回し、時には彼の私的な領域にまで侵入してしまいました。

 彼女は彼の生活に自分の存在を欠かせないものとして、刻み込みたくてたまらなかったようです。


「ヒメ、落ち着いて彼はあなたを好きだと言ったんでしょ?」


 そう、私は知らなかったのですが、彼から告白されたそうです。 

 それなのにヒメの動向はエスカレートして、暴走しています。


「ええ、彼は私の物。それなのに彼の周りから虫がいなくならないの」


 彼女の心には明暗の波が交錯し、ヤンデレとしての性格が浮き彫りになって。


 黒くて綺麗な瞳からは、光が消えて真っ黒な闇が私を見ていました。


 彼女の愛情は純粋で深く、同時に異常で危険なものでした。 

 彼女は彼にとって永遠の愛の囚人であり、彼を手に入れるためにはどんな犠牲も厭わない覚悟を持っていたのです。


 彼女のことを知る友人として、彼女の内に秘めたヤンデレな性格に気づいていた私は、彼女の変わり果てた姿に胸が痛みました。


「ダメだよ。変なことをしたら嫌われるよ」

「変なこと? ホノカはおかしなことを言うのね」

「えっ?」

「私は愛情を強く持っているだけよ」


 それが変だと彼女は気づいていませんでした。


 彼女は彼を追いかけ、彼の一挙一動を監視する日々を送っています。

 彼女の愛情は過剰で、彼への執着は次第に彼を窒息させるものとなっていくことでしょう。


 私は彼女の友人として彼に警告をするべきか悩み、彼女の行動が彼に与える影響を心配していました。


「ねぇ、飛田君」

「どうしたの白堂さん?」

「ヒメと付き合い出したんでしょ?」

「えっ? ヒメさんに聞いたの? もう恥ずかしいな。うん、そうなんだ。でも、学校ではまだ秘密にしておいて、みんなに嫉妬されるのが怖いから」

「うん。わかったよ」


 私が飛田君と話している間も、ヒメは廊下から私たちを見ていました。


 彼に対して完全なる独占欲を抱いており、私との関わりすら許さないという異常な思い込みを抱えています。


 彼女が彼と一緒にいるときは、彼女の目は彼に釘付けになり、彼女の存在そのものが彼を縛り付ける鎖となっていました。


「飛田君、これを」


 私はヒメの目を盗んで、手紙という形で彼女の愛情が深いことを伝えました。

 彼がヒメの本来に気づいた時のことを心配して声をかけました。

 彼女の愛情が飛田君を苦しめるかもしれない。

 

 彼女の異常な行動が、彼の人間関係や精神に影響を及ぼす可能性があることを先に伝えました。

 しかし、彼は彼女への感情を断ち切ることをしません。


「これまで辛い思いをしてきたから、多少は愛情に飢えていると思うんだ」


 飛田君は本当にいい人で、ヒメの恐ろしさをただの愛情だと思い込んでいました。彼女の一途な愛情に少しでも応えようとしていました。


 飛田君もヒメの心の内には、ヤンデレな性格が潜んでいることは薄々気づいている様子です。

 それでも、自分自身の幸せを守りたいという葛藤が存在していることを察しました。彼の覚悟に私はそれ以上何もいうことはできなくなりました。


 それでも最後の忠告として、私は彼に助言しました。


 ヒメの行動を静かに見守ってほしい。

 彼女の心が癒される日がくることを祈り。

 彼女の性格が彼女自身にとっても苦しみの源にならないように、それを乗り越えることができるように、私たちの支えが必要だと。


「お願い。ヒメを救って」


 私は親友として二人に幸せになってほしいと心から思います。

 彼女の愛は深く、その炎は燃え続けているかもしれません。

 私はヒメが幸せになる道を見つける手助けをしたいと思っています。

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