第45話 ルート1 黒鬼姫 4

《side相原希》


 私は自分で言うのもあれだけど、クラスでも人気のある方の女子だった。

 明るくて、元気で、誰とでも仲良くできた。

 だから、一人で本を読んでいるレンのことが気になった。

 

 レンが読んでいる本は私が好きなタイトルばかりで、だから話したいって思った。だから声をかけて、話をしたら楽しくて。

 学校では、いつも二人で一緒にいることが多くなった。高校二年生の思い出はほとんどがレンとのことばかりで、私にとって一番仲の良い男友達になった。


 そんなある日、私の心に変化が生じた。


 イケメンで年上の彼に告白をされた。

 前から知っている近所のお兄さん。

 ずっと私のことが好きだったんだって。

 私も小学校から知っていて、嫌いじゃなかった。

 

 彼は魅力的で優しくて、私は彼に好かれていると思うと嬉しくなった。

 だから、彼からの告白を受け入れた。


 最初は新しい彼氏ができて浮かれていた。幸せを感じていた。

 だけど、次第に彼は私を求めるようになった。

 私だって、高校生だから知らないわけじゃない。

 でも、求められると急に心の中に違和感が生まれてきた。


 彼が触れるたびに、レンの顔が浮かぶ。


 彼を嫌いじゃない。だけど、触れて欲しいのは彼じゃない。


 私の中で生まれた違和感。自分がレンに対して特別な感情を抱いていることに気づいた。


 レンは私に彼氏ができたと告げた後から、少しずつ疎遠になっていて、自分磨きを始めたと言っていた。見た目は物静かで、優しそうな容姿だったのに。

 

 髪型を変えて、メガネからコンタクトにして、私以外とは話もしなかったのに、誰にでも声をかけるようになった。

 だんだん変わっていくレンは明るくなっていった。


 レンが私から離れて頑張っている姿が、嬉しいような悲しいような気持ちになって‥‥‥。


「もう、レンには私は必要じゃないのかな?」


 三年生のクラス分けでは、レンとクラスが別々になった。


 気づいてからレンのことを追いかけるようになっていた。

 レンが側からいなくなって気づいた。

 彼を追いかけていたのは私の方だった。レンの存在の大きさに気付いた。

 レンはいつも一緒に過ごしていた大切な男友達じゃない。

 お互いを理解し合ってきた。レンは私にとって大切な人だった。


 私の心の中に葛藤が生まれた。


 自分はレンと過ごさないで、彼と付き合ってしまった。

 どうして私は彼ではなくレンといることを選ばなかったんだろう。

 そんな後悔と罪悪感に苛まれ、私の心は二人の男性の間で揺れ動き、自分自身を理解することができなくなっていた。


 ある日、レンが学校でも有名な黒鬼さんと一緒にいるのを見た。

 私がレンと話したいって思っていたのに、黒鬼さんはレンと腕を組んで彼を連れ去っていく。

 もう私には振り向いてくれないの? 私に笑いかけてはくれないの? 昔のように楽しい時間を過ごしたい。

 

 私はやっと、彼よりもレンの方が好きなんだって恋愛感情を抱いていることを確信した。


 この気持ちを伝えてることを決めて、私は勇気を持って自分の気持ちをレンに伝えることにした。

 自分がレンを特別な存在として大切に思っていることを素直に告白する。


 レンも私のことを大切に思ってくれていると信じたい。


「私、レンのことが好きだったみたい。だけど、レンの横には黒鬼さんがいて、私がレンの隣にいることができなくなっちゃった! もっと早く気づいていたら、横にいられたのかな?」


 涙が溢れ出す。

 

 本当は泣くつもりなんてなかったのに、レンへの気持ちを終わらせなくちゃ。 


「ごめんなさい。レンが私を好きなら、今まで私は彼氏の相談をして凄く最低なことをしてた。だから、レンが私のことを好きなはずないのに、もしかしたらって」


 本当に我儘だ。レンは驚いた顔をしている。レンは優しいからもしかしたらって思ってた。私に特別な感情を抱いてくれていたと。


 バカだな私。過去の選択をこんなに後悔するなんて。


 気づいたら図書室を飛び出していた。


 学校を出て、振り返った時。


 レンは追いかけてはくれなかった。


 それが答えなんだ。


 私は間違えた。レンとの関係はこれで終わりなんだ。


 どうして告白なんてしたんだろう。

 告白をしなかったら、今まで通り友達ではいられたのに。

 本当に私ってバカだ。


 大切な人を間違えて、気づいた時には付き合えなくて、もう取り返すことはできない。


「帰ろう」


 私は彼に別れを告げた。


 レンに告白して、もう彼への気持ちがなくなったことにも気づいた。


 キスをした時、この人とキスをしたいって思えなかった。


 本当はレンとしたかった。


「私のバカ」


 どうでもいいって思えたけど、心のどこかで引っ掛かるから、彼とはいられない。


「好きにすればいい。やらせてくれないお前なんてどうでもいいよ。俺だって」


 最後に告げられた彼の言葉に、私は幻滅とどうしてあんなやつを選んだのか、本当に自分が恨めしい。


 優しくて、頑張り屋さんで、努力家で、話をしていても楽しかったレンと付き合っていたら。


「レン、大好きだよ」


 自分の気持ちを整理して、諦める時間が必要なんだ。


「恋愛って難しいね。もっとちゃんと考えれば良かった」


 溢れる涙が止まらなくて、しばらく立ち直れないよ。

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