第44話 ルート1 黒鬼姫 3
夕日が見える公園は、陽が沈むまで手を繋いでベンチで過ごした。
お互いに彼氏彼女になったことを噛み締める時間が欲しかったから。
ヒメさんが言っていた二人きりになれる場所は今度どちらかの家に行く約束をした。
僕の家にはツバキ姉さんがいるから、ヒメさんの家にお邪魔できたらいいなぁ〜。ヒメさんは一人っ子でご両親も共働きなので、家にいないそうだ。
告白する前までは、どこか焦りと必死な姿を見せていたヒメさん。
だけど、今は穏やかな顔をしていた。
「思っていたより暗くなっちゃったね。そろそろ帰ろうか」
「うん」
僕の言葉に少しだけ残念そうにしたヒメさんだったけど、手を繋いだまま立ち上がると一緒に歩き出してくれた。
その日は、ヒメさんの家まで送り届けて僕は家に帰った。
♢
平日の朝早く、学校にいく前はいつもスケボーの練習をする。
もう日課になってしまったので公園では、僕以外はお爺さんが散歩をしている程度だ。
「先輩! おはようございます!」
最近は部活の朝練でスケボーに来るのが、少し減ってしまったチナちゃんが姿を見せた。いつもの明るい笑顔で僕に声をかけてくれる。
「おはよう。チナちゃん」
「おや? 先輩の顔が晴れやかですね。何かいいことがあったんですか?」
この間の恥ずかしい姿を見せているから茶化そうとしてくれているのかな?
だけど、あの日があったから僕はヒメさんを大切な人だと知ることができた。
「うん。まぁね。チナちゃん」
「はい?」
「この前はありがとう。恥ずかしいところ見せてしまってごめんね」
「気にしないでください。むしろ、先輩が元気になってくれてよかったです」
チナちゃんは相変わらずいい子だな。
この笑顔を見ているだけで癒される。
ツバキ姉さんのアドバイスで、他の女性と仲良くすることをやめてはいけないと言われている。
ヒメさんのことを大切にしないわけじゃないけど、いきなり人間関係を切るようなことはできない。
それを強要してくる女性は危険な人物の可能性がある。
依存することと、強制することは違う。
お互いにより良い環境で過ごせる相手を探すことが長く続くための秘訣だとツバキ姉さんは言っていた。
ボクとしては、ヒメさんと付き合えたら、チナちゃんとは距離を取ろうと思っていた。ツバキ姉さんに止められなければそうしていたと思う。
実際は、朝にチナちゃんに会って一緒にスケボーの練習をするのは楽しい。
ただ、ここで間違ってはいけないこともツバキ姉さんに教えられている。
チナちゃんと二人でいることをヒメさんに隠してはいけない。
「全てを話せとは言わない。だけど、隠れてコソコソするのは絶対にダメ」
隠れるということはやましい事をしていると言っているようなものなので、相手に裏切られたという気持ちになる。
だからこそ、しっかりとどういう関係なのか伝え、これ以上の関係に踏み込まないと伝えておくことが大切なんだそうだ。
色々と恋愛の複雑さを思い知っている。
スケボーの練習を終えて自宅に帰ってシャワーを浴びる。
制服に着替えた僕は気持ちが昂っていた。
彼氏彼女になって初めて一緒に学校へ登校する。
学校から少し離れたコンビニで待ち合わせをして、朝の登校時間を合わせた。
元々、スケボーの練習をするので朝早く起きるのは苦手じゃない。
ヒメさんと学校へ向かう。なんだかそれだけで嬉しい気持ちになる。
「おはよう。ヒメさん、お待たせ」
「おはようございます。レン君。私も今来たところですよ」
僕らは気恥ずかしさを感じながらも、会話は途切れることなく誰もいない教室にたどり着いた。
二人きりで教室にいると、普通のことだと思っていたのに少し胸がドキドキする。朝日に照らされるヒメさんは、やっぱり美人で見惚れてしまう。
「なっ、なんだか恥ずかしいね」
「は、はい」
ヒメさんからも緊張が伝わってきて、僕は何か話さなくちゃ行けないと考え事をしていると、ツバキ姉さんの言葉を思い出した。
「話をするときは自分の話をするんじゃなくて、相手が興味を持つ話題をしなさい」
ここでガツガツと自分の話をしてはダメだ。
気持ちを落ち着けて、彼女が興味を持ちそうな話題を考える。
「体育祭も終わったから、今度は校外学習だね」
共通の話題が思い浮かばなくて、学校行事の話を思い出す。
僕らの高校は修学旅行を一年生の時に開催している。
大きなイベントは校外学習、文化祭、そして受験に卒業式だけだ。
「そうですね。それが終われば、夏休みに入って文化祭でしょうか?」
「夏休みかぁ〜高校最後だと思うとなんだか、受験のイメージしかないね」
「そうですね」
「ねぇ、ヒメさん」
「はい?」
「夏休みにどこかにいけるといいね」
「えっ?」
「せっかく高校最後の夏休みだから、お祭りとか、花火とか一緒に行けたら嬉しいな」
「はい! 喜んで!」
ヒメさんが嬉しそうに元気な声で言ってくれる。
言った方だけど、なんだか恥ずかしくなって二人とも無言になってしまった。
「レン君」
「うん」
「またデート行きたいですね」
「そうだね。今度はどこに行こうか?」
「レン君と二人で行くならどこでもいいです」
そっと、ヒメさんがボクへ身を寄せて、耳元で囁く。
「エッチなこともしていいですからね」
「えっ!」
僕が顔を真っ赤にして、ヒメさんを見るとイタズラを成功させたのを喜ぶように、ヒメさんが微笑んでいた。
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